中国経済入門書二冊を読んで興味を持ったトピック、イシュー

昨年から、今年にかけて、中国経済の入門書、梶谷懐著『中国経済講義』(中公新書, 2018)(R)と梶谷懐,藤井大輔編『現代中国経済論』( ミネルヴァ書房, 2018)(R)の二冊を読んで中国経済についての入門知識を学んでいました。本日は、備忘もかねて、これらの本の知識を参考に、これから掘り下げて学んでいきたい、または今後注目したいトピックを紹介します。

・統計の信頼性

一党独裁化でその正当性を維持するための統計データは、その信頼性は未だ水増しや、疑問符が残る部分が多いとのこと(例えば、地方統計の水増し案件(R)など)。ただ一方では、正確にレポーティングされているといった議論や、却って過少報告されているといった議論もあり、その判断は未だ決着がついていないようです。

そもそも、GDPなどの経済統計指標はサンプリングや基準年をどうするのかによって変わってくることが知られているので(R)、根本的なところからしても、決着のつかない議論かもしれないですね。

とは言え、なんとか工夫して正確に中国の経済実態を測ろうとしている動きもあるようで、その中でも面白いと思ったのが『中国経済講義』で紹介されており、原著も読んだのですが、Clarkら2017のWP(R)です。これは、2005年から2013年までの夜間の衛星データ(光)と中国の公的統計(実質GDPや李克強)指数との関連性を求めた上で、2014年と2015年のそれらの指標を予測するというものです。衛星データという詐称できないデータを使うというアイデアと近年着目されている『集まるデータ』との関連性もあり、興味深い取り組みだと感じました。

知ることが重要でありつつも、そこから発信されるデータには制約、不確実性がある大きい中で、プロキシとなるものをいかに探すか、解析をどのように行うのかという議論、取り組みは、非常に学術的にも重要であり、面白いトピックであると感じました。

・諸々の格差問題とその影響

第一次産業従事者と、それ以外の従事者は経済成長に伴って拡大し、中央政府による対策が行われているものの、未だ縮まらず(本によると約3倍の格差が存在するそう)。また、改革開放で恩恵を受けてきた東部の省と、山岳部が多く、開発が相対的に困難で財政における一人当たりのGDPも相対的に低くGDPに対する債務残高も大きい中部、西部の省との格差など、経済成長に伴って多くの社会問題の引き金となりかねない経済格差が生じているよう。

また、都市内でも、地方から上京してくる出稼ぎ労働者と都市出身の労働者との格差などの問題もあり、国内、都市内で何重もの格差問題が生じているようですね。

僕個人としては、この格差問題によって引き起こされること、そしてそれを共産党政権がどのようにマネージメントするのかということに特に注目したいと思います。具体的には、

・格差によってどれくらい一党独裁制への信頼性が揺らぐのか。
・長期的にこの格差問題について共産党政権がどのようにマネージメントしていくのか?

ということに着目したいです。

・権威主義国家で果たされるイノベーション

中国は、権威主義国体制を維持しながら、テクノロジーにおいてイノベーションを起こしまくる(例えば特許数)などという従来のイノベーションの経済理論(R)から見ると、かなり特殊事例となるような発展を遂げている国であります。

その中でも、面白く感じたのは、『中国経済講義』の方で取り上げられていた中国の代表的なハイテク都市、深センのエコシステム。僕がよく見る中国の紹介をするyoutuberさんのvlogなど(R)でも登場した時は、そのスケールだったり、先進性に驚かされる深センですが、本によると深センには三つの世界が発展していて、一つものを作れば隣でパクられる世界、知的財産権による保護がある世界、独自技術を開発してそれをオープンソース化しさらなるイノベーションを生む世界が存在していて、そこから相互の学習やアイデアが生まれ、イノベーションにつながるという見方です。

また、改革開放の後、経済特区に外資系の企業が進出してきたことによってイノベーションが進んだという見方や、そもそもの人材プールが大きく、国内において優秀な人材が集めやすいという環境も作用していることが考えられるようなのですが、いずれにせよ権威主義国の中でイノベーションを生むという特殊事例は興味深く、また中国のプレゼンスの拡大も相まって今後も中国発のテクノロジーやイノベーションが世界を席巻することが予測され、目が話せないトピックの一つだと感じました。

・近隣諸国との関係性

最後はやはり中国と近隣諸国との関係性の動向です。

改革開放から現在にかけて、近年では東南アジア、中央アジア、アフリカなどへの投資の高まり、またそれに乗じて発生する軋轢。台湾、香港との関係性。ロシアや北朝鮮との関係性。アメリカやいわゆる旧西側諸国との関係性など、1980年代の改革開放から、経済を中心とする世界におけるプレゼンスが高まり、制度イデオロギーの違いによって、様々な外交問題や時には軍事衝突などの危機が起こっているわけですが、今後このような問題がどのように進展していくかというのは、もちろん世界経済を見る上でも重要ですし、自らの仕事や生活にも影響してくると思うので、見ていきたいと感じるところです(有り体ではありますが)。

まだまだ勉強が足りませぬ

以上、中国経済入門書を読んで、興味を持ったトピックを書いてみました。書いていて気がついたのが、二冊読んでわかっていたようで、実際まとめを書こうとすると書けないことや把握してないこと、まとめきれないことがあることに驚きました。まだまだ勉強が足りませぬという感じですね。

中国経済は直接的には研究テーマではないのですが、やはり社会を捉える上では重要なトピックであることに変わりはないと感じるので、今後も開いた時間を見つけてチョコチョコ勉強していきたいと思います。





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