「哲学メモ」

 全存在を心的なものとした場合、現実に起きているものが心の領野であり、潜在的なもの、可能態が魂の領野である。潜在と抑圧は同じ構造を持っている。宇宙が始まる前から、魂は全てのものを潜在的に溜め込んでいた。それは抑圧されていると言ってもいい。換言すれば、全てを呑み込んでいたのであるが、ついにそれは爆発し、現世を表現するに至った。
 全ては魂の表現であるなら、自然に美を見出すことも妥当である。表現にはいつもカタルシス(浄化)が伴う。潜在的な、抑圧されたものを表現する以外に、表現の仕様はない。逆に言えばカタルシスが伴う表現は、どれも美しいと言える。澄んだ湖が美しいのは、浄化されているからである。青々とした緑が美しいのは、活き活きとしていて、浄化されるからである。浄化には洗いがあり、そこには必然的に現れがある。
 光とは闇の浄化、闇の現れである。闇の一形態として光がある。宇宙が美しいのは、洗われ、現れた、その一段階目の姿だからだろう。
 意味を呑み込むこと、そこには抑圧がある。呑み込む主体が抑圧されるわけではない。呑み込まれる客体が抑圧されるのである。噛み砕かれ、呑み込まれた意味は抑圧される。そこには重みがある。重いものは、より多くのものを呑み込む。ブラックホールはそれを象徴する。重ければ重いほど、その存在には力がある。存在に力があればあるほど、その存在は濃くなる。逆に力が弱まる時、存在は希薄になる。長い間、呑み込めない状態が続くと、存在は弱まり、希薄になる。自分の身体に合わないものばかりが、環境にあると存在は弱まり、希薄になる。ここで体癖論やMBTIと言ったものが効果的になる。
 書物も同じく、最初は探さなければならないが、研究するものはよく呑み込めるものが良い。書物とは一つの身体である。何者かの身体を噛み砕き、呑み込む、これが書物を読むということであり、それを血肉にするということである。
 意味は呑み込むものである。意味というものは表現の内容であり、この世の全ては魂の表現であるなら、私たちはいつも表現された意味を呑み込んでいるのである。
 表現されたものには雰囲気がある。散々書いているが、これは食べ物には匂いがあることと重なる。それを受け取る時、抱くものが印象である。つまり表現には、二側面があり、表現が発するものと、その表現を抱くもの、という側面がある。
 雰囲気の奥には意味がある。奥に行けば行くほど、重力がかかっていて、私たちは日常的にこの重力に煽られている。しかし、重力はある程度近付かなければ、そこまで作用はしない。私たちはいちいち明晰に言語化していない。私たちは言語化するよりも前に、雰囲気や印象の中で生きている。なんとなく匂いに魅かれて、なんとなく響いたものを見つめ、どこかへ向かおうとする。意識よりも前に、直感的な場所で生きている。つまり私たちは日常的には心的な世界よりも、魂に近いところで生きている。
 吞み込んだものは全て意味であり、この意味を以て心身は構成されている。私たちの心身は吞み込まれたものの持続である。それを魂が記憶し、保っている。
 呑み込むものには重みがあり、私たちはこの重みに惹かれ、煽られて生きているのだが、この煽る風こそ愛である。表現されたものに惹かれる、というのは愛の業である。しかし表現されたものに惹かれないことがある。今私たちが存在している世界は、あらゆるものが自己を表現し、主張しているのだが、私たちはそれに特に惹かれずに行動することが出来る。それが私たちの意志である。
 意味にある重みは原罪である。呑み込むこと、ここに抑圧があり、ここに悲しみや苦しみが存在する。食べ物を食べること、これは生きるためには背負うしかない罪である。しかし存在するということは、意味を持たざるを得ないことであり―それが本質的な意味ではないにしろ、私たちは何か目的を持ってしまう―意味を持つならば、そこに重みが加わる。そこに重みがあるなら、私たちは他を呑み込まざるを得ないのだ。宗教における断食は、ここにその所以を持つ。
 情報は眠りの中で存在している。情報は直感の領野にいつも入ってくるが、私たちはそれを過ぎ去るようすることが出来るし、逆に呼び覚ますことも出来る。情報は蠢いている。情報は風の中に存在する。情報はただの素材である。つまり雰囲気にあるまだ形を成してないもの、印象の中にあるまだ形を成していないものを、情報と呼ぶことが出来る。
 私たちは魂にある心身の残滓によって、これから出会うものを――それはまだ情報という可能態でしかないが――、抱くか抱かないかを決めている。未来にある可能態を愛するならば、私たちはその可能態に形を与え、この世界に起こすことが出来る。愛さないのなら、それは眠りの中にいる。私たちが未来に眠っているものを愛する時、その道が開かれる。そこには光が伴う。私たちが生きるとはそういうことだ。

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