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大きな川 2/4

人一倍大きな体を持った小学生の僕
誰よりも相撲向きな体を持った僕への相撲をやらないかという誘いを、自分がデブだと認めたくないという理由で4年間も断り続けます

結果から言うと僕は小学5年生から相撲を始めます
しかも僕が折れて始めたというよりか、少しだけ前向きに始めます

その理由はテレビにありました
当時テレビではデブタレントブームが来ていました
三瓶さん、石塚英彦さん、パパイヤ鈴木さん等、太っている人がその愛嬌でテレビで活躍していました

それを見た小学5年生の僕は単純に
「デブっていいことなんじゃね?」
と思います
今までいじめの対象としか思ってなかった「デブ」が何かに使えるんじゃないかと思ってきたのです

ここから少しだけ普段の立ち回りが変わってきます
デブであることをいじられた時にちょっとちょけてみたり、進んで目立つ場面に出てみたり、デブであることを活かし始めました
すると、少しずつですが、なんか楽しくなってきたのです
体が大きいことを求められてる場面がある、活かせる場面がいっぱいある、このことに楽しさを覚えてきました


あぁ、そう言えば
最も体が大きいことを求めてくれて、最も活かせそうなことがあるじゃないか


相撲を始めて
「この体でバンバン勝ってやるぞー!」
と思ってましたが全然うまくいきませんでした
稽古はきつい
全然勝てない
ましてや自分より体の小さな子にいいようにやられてる
特にわんぱく相撲で優勝してた同級生の子の存在は大きく、毎回打ちのめされ、全身あざだらけにされ、監督から怒られ、本当に辛かったです
やんなきゃよかったな、と思いました

でも周りの目は少し違いました、特に家族
辞めたいとしきりに言う僕をなだめ、なんとか相撲に(時には文字通りの餌を持って)連れて行こうとしました
僕の中で起きた前向きな変化を周囲がよく思ってくれました
僕は少し鬱陶しいと思いながらも、それに支えられて小学6年生まで続けることにしました

そして小学6年生、ひとつ決断を迫られます

相撲を続けるかどうかの決断です
その時、僕はまだ剣道も続けていました
うちの学区だと剣道部はありましたが、相撲をやるとなると隣の学区の中学しか相撲部がなく、そこに行くかどうか決める必要がありました

その時のことはあまり覚えてないのですが、母が僕が言ったことをよく覚えていて、こう言ったと教えてくれました

「このままやったらただのデブやきん」
(このままだったらただのデブなので)

というか客観的に見て相撲をするべきです
当時身長が約170cmの体重が120kgもあったんです
小学6年生としては常識外ですよ
そのくらいになってくると剣道の防具も大人用では収まりません
特に胴は大人用のを無理矢理広げてつけて、それでもはみ出てる、みたいな状況でした

自分以外はみんなわかってる
そんな状況でした

相撲を選んだもう一つ理由があります、それは「剣道はプロがないけど相撲にはプロがある」ということです
その当時すでに、ある相撲部屋から勧誘を受けていました
うちはお金がなかったのでなるべくすぐ稼げる方に行きたかった
その点で言うと相撲の方が将来が見えていました
その将来性に惹かれました

中学に入って稽古はより嫌になりました
最初から嫌すぎて初日の稽古を休みました
ここでも出てくる自分の気の弱さよ…

週何度かの稽古から毎日高校生の稽古場に行くようになり、より自分の弱さを痛感しました
自分ではなぜ勝てないのかわからない、何をやったらいいかわからない

そんな時、中学の先生が早朝基礎体力のトレーニングをすることを提案してきました
これも乗り気ではなかったですが、勧められると断れない性格、他の生徒よりも1時間以上早く学校に行って基礎トレーニングをすることとなります
(今考えるとその先生、本来の仕事外のところなのによくやったなぁと思います。大感謝。)

そのトレーニングはすぐに効果が出て試合で結果を残せるようになりました
それもそうです、大きな体はそのままでは重りでしかありません
それをコントロールするためには基礎的な筋力、普通の人よりも多くの筋肉が必要です
それをつけるために先生は一肌脱いでくれたのです

大きな特徴を活かすにはきちんとした基礎が必要です

だいぶ自分の体がコントロールできるようになった、そういう自覚がありました
そうなるともっとやりたいことが増えてくる
今まで届かなかったところに手が届くんじゃないか
自分ではそう思います
それがただの無理だったと気づくのはすぐでした

程なくして僕は大怪我をします
その時の相手はあの優勝した子でした
稽古場でもどうしても負けたくなくて、土俵際で無理に残ってしまいました


右膝前十字靭帯断裂
中学2年生
あまりにも早すぎる大怪我でした


つづく

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