『言葉の園のお菓子番 孤独な月』刊行記念 ほしおさなえさんインタビュー【第2巻発売!】
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『言葉の園のお菓子番 孤独な月』刊行記念 ほしおさなえさんインタビュー【第2巻発売!】

大和書房

『活版印刷三日月堂』シリーズや、『菓子屋横丁月光荘』シリーズでおなじみのほしおさなえさんの新シリーズ『言葉の園のお菓子番』。

シリーズ第2巻『言葉の園のお菓子番 孤独な月』の発売を記念して、本シリーズに込められた想いをたっぷり伺いました。

気付けば涙が止まらなくなってしまうほしおさなえさんの物語の魅力に迫ります。

【オビあり】言葉の園のお菓子番 孤独な月

イラスト©青井秋

ほしおさなえ
1964年東京都生まれ。作家・詩人。1995年『影をめくるとき』が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2 0 1
6年『活版印刷三日月堂 星たちの栞』が第5回静岡書店大賞を受賞。主な作品に、ベストセラーとなった「活版印刷三日月堂」シリーズのほか「菓子屋横丁月光荘」「紙屋ふじさき記念館」シリーズ、『三ノ池植物園標本
室』(上下巻)、『金継ぎの家 あたたかなしずくたち』など多数がある。
『言葉の園のお菓子番』シリーズあらすじ
主人公・一葉は、勤めていた書店が閉店し、職を失い、実家に戻る。連句が趣味だった祖母が亡くなる前に本棚のノートを読んで欲しいと言っていたことを思い出し、ノートを開くと、そこにはお菓子の名をつらねたリストがはさんであり、その裏には一葉に宛てた手紙が書かれていた。季節に応じて様々な和菓子を手に連句会に通っていた祖母の遺志を継ぎ、一葉はお菓子を手に連句会に向かう。

マイナーだけど、ずっと書きたかった「連句」

本シリーズでは「連句」が題材となっている。言葉が、想いが、大切な人が、まるで連句のように繋がり、主人公は前に進んでいく。今回、ほしおさんが連句を題材にした理由とは―――

連句を題材にした小説を書いてみたいとは以前から思っていました。連句の楽しさや、魅力を伝えたかったんです。
学生時代に連句の存在を知り、連句の面白さを知りました。社会人になってから連句会に参加するようになり、一時期は連句三昧。小説で賞を取って小説を書き始めるようになったり、結婚して子供ができたりとライフイベントが続いて、10年くらい連句から遠ざかっていたのですが、子供が小学校に上がったころに再開しました。時には大きな募集をかけてイベントをやることもありましたね。
でも、連句人口は凄く少ないし、連句の存在を知っている人も少ないから、そんなマイナーな題材で多くの人に読んで頂ける小説を出せるのかなと思っていて。担当編集さんにご相談したら、連句を実際にやってみたら、何か突破口が見えてくるかもしれないとお話いただいたので、私が主催する連句会にお誘いしました。実際に一緒に連句を巻く中で、連句でいこうと決まったんです。

※連句とは?
連句は俳句と異なり、複数の人が集まって作る。誰かが作った五七五に、前の句の風景を思い描きながら次の七七を付ける。それにまた別のだれかが五七五を付けて進めていく。森羅万象を詠むと言われる連句では、「式目」と呼ばれるルールに添いながら、できるだけたくさんの事柄を入れる。同じようなことは2度としないし、ひとつながりの物語にもしない。句と句が緩やかに繋がりながら思いもしなかった新しい世界に至り、それが1つの作品となる。

連句は座の文学と言われていて、一巻の中心となるテーマや、一筋の流れはなく、、中心がないんです。江戸時代の人たちは連句をものすごく好んでいた。ついて離れて、という形で繋がっていく連句という文学は、他の国では類を見ないようなものだったと言われています。

連句を多くの人に楽しんでいただける形で小説にするのは凄く難しくて悩みました。連句について熱く語っても連句を知らない人には響きません。それに、連句は会議室のような場所に集まってしゃべりながら連句を巻いているだけなので、動きがなくて地味になってしまうんです。
悩んだ末、連句初心者が少しずつ連句になじんでいく話にするなら書けるかもしれないと気付きました。連句をする中で登場人物の心持ちが変わる、その変化に読者が共感できるような形にしたらどうだろうと。

心にぽっかり穴が開いている主人公・一葉

連句には、前の句にはついていなければいけないが、その前の句とは離れなければいけないという大切なルールがある。緩やかにつながりながらも、後ろの句には戻らずに変化しながら進んでいく連句は、人と繋がりながら一歩ずつ変化していく主人公・一葉と重なる。

主人公・一葉が連句と出会うきっかけは、誰でもあり得そうな形にしようと思っていました。そのために、主体的に連句に興味を持つのではなく、なぜか連句会に行くことになって通うことになる経緯が必要でした。
経緯の一つは亡くなった主人公のおばあちゃんが、連句会を凄く楽しんでいたことを知り、お礼に行くことになるということ。そしてもう一つは、主人公自身が仕事を失い、転機にあるということです。
一葉は仕事を失い、かつ仲が良かったおばあちゃんが亡くなったことで、心にぽっかり穴が開いてしまいます。その中で、自分はこのままの生き方でいいのだろうかと人生を見つめなおすタイミングが来ている、そんなシーンから描き出せればと思ったんです。それで、おばあちゃんが書き残した手紙を見つけて、そこから連句の世界に入っていく形が見えてきました。

一葉のもとの仕事は、連句の場に行くわけだから文学が好きな人がいいと思って、書店員さんに。次に勤める仕事は悩んだのですが、色々な案を出す中で、主人公が新しい仕事を作るのも面白いかなと思いました。書店員さんはPOPを書く方も多いですし、POPは短い言葉を書くというところが連句とちょっと通じるところもあるので、POPを書く仕事にしようかと考えました。
私自身元々本屋さんが好きでよく行くのですが、ここ数年、サイン本を作りに書店に行くことが多くなり、バックヤードに入ったことも何度かありました。書店員さんのお話を伺う機会もあって、書店のバックヤードってこんな感じなんだってその時初めて知りました。POPって小奇麗ならいいわけではないじゃないですか。思い切りや勢い、文字の強さみたいなものが必要で、きれいにデザインするのとは違うことが面白いなと感じていましたね。

今はない書店や遊園地の思い出

一葉が勤めていた書店は出版不況の中で閉店してしまう。ほしおさんの他作品で取り扱われている「活版印刷」や「和紙」も、時代の流れの中で失われつつある産業だ。そして、連句もかつて一度失われてしまった時代がある。

一葉がもともと働いていた書店は聖蹟桜ヶ丘にあるのですが、モデルは昔住んでいた向ヶ丘遊園駅近くの書店でした。当時駅前のビルに入っていて、よく通っていたんですが、閉店してしまったんです。いつも通っていた書店が無くなってしまって、ガランとしてしまったのが悲しかった。

第2巻では向ケ丘遊園のお話が出てくるんですが、遊園地から歩いて1分くらいの場所に住んでいたんですよ。いわゆる昭和の遊園地みたいな感じで、時間がある時には行っていました。でも、私が住んでいる間に閉園してしまったんです。
当時の家では、書き物をしていると窓の外からジェットコースターのキャーって声が何分かに一度聞こえてきたんです。閉園した時はものすごく寂しかったです。今まで聞こえていた歓声も聞こえなくなってしまって。
そんなことを思い出しながら、「いつもあったものが無くなってしまう寂しさ」みたいな話を書きたいと思っていたんです。

いつもあったものが無くなってしまうことは、当たり前のことではあるんです。例えば通っていた町の書店や、昭和っぽい遊園地がなくなっていくことは、全て世の中の変化の中で起こる。人々や社会の仕組みが変わる時だからこそなくなるものが出てくるんですよね。それは新しいものが生まれるためのことで、悲しいだけのものではないんです。それに、その場所で楽しかった時代は実際にあって、記憶が失われるわけではない。
連句も同じです。江戸時代には、連句はすごく流行っていたんですよ。人が集まれば連句を始めるほどに。でも、明治時代、時代の変化の中で連句という文化は一度失われてしまうんです。昭和ごろになって、もう1回連歌をやろうという人たちが現れて、松尾芭蕉がやっていたものを真似て始めたのが現代連句なんです。

そんな時代の変化の中で失われた物事を、忘れたくないという気持ちがどこかにあります。その中で生きていた人たちがいたことを何か形に残したいですし、次の世代に伝えたいと思っています。古いものが良いということではないのですが、そこから得られるものもあると思うんです。
だから、人々の営みとしてあった物事や想いを、物語という形式にのせて、伝えることができたらと思います。

言語化できない感情を伝えたい

一葉は連句を通して、それまで知らなかった様々な祖母の一面を知る。一緒に連句を巻くことはできないけれど、言葉を通して、今はもういない人たちの想いを知り、繋がることができる。大切な人が亡くなってしまった一葉をはじめとする登場人物を通して書きたかったこととは―――?

それまで一緒に生きていた人が、ある時亡くなってしまう。その時、その人が亡くなってしまって悲しいという気持ち以外に、自分自身の一部が失われてしまう感覚を覚えます。その、悲しさや怖さとは違う独特の想いを、自分ではうまく言語化できないから、何度もそういう話を書いてしまうのかもしれません。それまであったことがなくなることは、いつまでたっても絶対に飲み込めないと思っていて、その飲み込めない感情を書きたいんじゃないかなと思います。

そして、亡くなった後に見えるものって、必ずあると思っています。
一葉さんのおばあちゃんもそうですけれど、生きて一緒にいた時、そばにいるのに知らない一面がある。亡くなったことで、突然その人がどんな人だったかが見えてくることがあるんですよね。亡くなるまでわからないことがあるってすごく不思議だなと思うんです。
誰かが亡くなってしまうことは、悲しい事だけど、悲しいだけではない。皆がずっと生きていたらわからないことが世の中にはある。失うことで、それまで見えなかった何かが見えてくる話を書きたいのかもしれません。

読者へのメッセージ

第1巻では、ストーリーと連句の流れを合わせるために、ほとんどの句を自分で作っていました。でもそれは連句とは違うなと思っていて。第2巻の最終章では、実際に連句仲間と巻いた連句をそのまま使っているんです。面白いと思うので、是非読んでいただきたいです。

連句って本当に楽しいんです。時々、第1巻『言葉の園のお菓子番 見えない花』の感想を眺めると、自分も連句に興味出てきたっていう方もいて嬉しいです。これからも、連句を身近に感じられるような機会を作れたらなと思っています。シリーズを通して、連句の楽しさが伝われば嬉しいです。そして、主人公の一葉が新しい出会いに導かれて、一歩一歩進み、変わっていく姿を見守っていただけたらと思います。


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大和書房
早稲田にある老舗出版社です。今年創業60周年を迎えます。幅広いジャンルの書籍を刊行しています。雑学文庫のだいわ文庫も毎月刊行しています。新刊情報やおすすめの書籍のご紹介、著者へのインタビュー記事を掲載します。 HPはhttp://www.daiwashobo.co.jp/