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幼馴染・ラプソディ

例の新型ウイルスが日本で猛威を奮っている、そんなさなかに突入したお盆の連休。もちろんほったらかしてたら人の命に大きな影響がでるが、かといって頭ごなしに経済を止めてしまうと、生活維持うんぬんの観点から、さらに沢山の人の命を危険に晒してしまう可能性もある。

こんなもんは車と同じで、一定の危険は承知の上で、でもそれを動かさないと困るのだから、うまいこと乗りこなす方法を考えて行きましょうよ、という論調が私の立場である。

つまり、このお盆連休も極端に家に引き篭もってないで、ちゃんとそれ系の対策をした上で経済を回した方がええんちゃいまんの、という話である。

そういう話をしっかり交わした上で、私はこの週末に少し遠方へ友人と泊まりがけで出かけることにした。

きちんとサラリーマンとして日々を忙しくしている我々にとって、この類のリフレッシュは欠かせないのだ。

今回行き先に選んだのは、愛媛県は道後温泉。近畿圏内の人間にとって道後温泉というと、ほどよく遠出感がある距離で、わかりやすく文化が異なっていて、明確な名物アクティビティと食べ物があって、一泊程度の旅行にはものすごいちょうど良いのだ。ありがとう四国地方。

今回の旅のお連れさんは、コウキとショウタの幼馴染コンビ。彼らは物心ついた頃から常に一緒にいるだけでなく、学生時代の仲良しグループをいくつも共有しているため、26年間のほとんどの時間を一緒に過ごしている。おかげでもう話題が一切尽きたらしく、二人きりにさせると無言でずっとTikTokを眺めて時間を潰す。そのくせに二人でカレーを食いに行ったり、マンゴーラッシーを飲みに行ったり、映画を見に行ったりしているので、もうほとんど老夫婦みたいに見える。心なしか顔も似てきたし、お互いのことを名前で呼ばずに「おい」とか「ん」とかで会話を成立させている。

そんなこんなで三人で遊ぶ時は基本的に私がMCをして場を回してあげる。と言いつつ私ももう彼らとすっかり旧知の中で実はそんなに目新しい話題もない。ないくせに頻繁に会うからこれがまた輪をかけて話題が無くなる。そこで困ったときは吉岡里帆かTWICEの名前を出しておけば彼らはフガフガしながらなんかへらへら喋ってくれて間が持つので私はその手をよく使う。

それはさておき、今回はコウキが車を出してくれることになった。ありがたいことだ。我が家までザッと1時間は離れている。早起きして迎えに来てくれた彼(とショウタ)に飲み物の一つでも差し入れてやろう、運転もしてもらうし、と思ってコンビニへ向かった。そしてペットボトルの飲み物を三本を持ってレジへ向かうと、何とそこに沖縄銘菓の「紅芋タルト」があるではないか。

いや、本土で流通させてもうたら価値下がるやんか、と思ったが、逆の観点から言うと、観光客減少でこうでもしないとメーカーがやっていけないのかもな、とも思った。こんなところにも例のウイルスが影響しているようだ。地方産業を応援する意味も込めて、私は紅芋タルトを買った。こんなゴリゴリの近畿圏の、むちゃくちゃノーマルなコンビニで紅芋タルトを買う私、「差し入れやで」といってペットボトルのジュースと8個入り紅芋タルトを差し出す私を彼らはどう思うだろうか。そんな一抹の不安を抱えながら彼らの待つ車へ向かった。

「おはようさん」

「うい」

「これ、差し入」

「おまえ!!」

と大きな声を上げるコウキ。

「紅芋タルトこうてきてん。へへっ」と照れる私

「ちゃうわ」

ちゃう?何がちゃうねん?
その答えはすぐにわかる

「おまえ〜。TシャツTシャツ」

コウキと私のTシャツがかぶっていたのだ。
しかもそんなに有名な型とかでもない。
すごい恥ずかしい。

「うわ、まじか。恥ずかしいよこれは。クラスTシャツみたいになってもうてるやんか」

いや、そこまでは言ってない。どこのクラスがこんなオーバーサイズのプリントTシャツを発注すんねん。

「おんなじTシャツ着てる奴が開口一番に紅芋タルト差し入れしてくんの幸先悪すぎひんか。帰ってええかな」

「あかんよ。紅芋タルトで得たカロリーを使って俺らを愛媛まで運搬してくれよ」

「言い方よ」

「なぁ、いきものがかり流していい?」とショウタ

私とコウキが無視していると、めざましテレビの一期前のテーマソング「SING」を流し始めた。休みの日に平日を彷彿とさせる歌を積極的に聴きたがるこの男。気が狂ってるとしか思えない。

そんなこんなで出発した一行。我々3人とも、愛媛県はもう三回くらい来たことがあるので、実はなんの新鮮味もなく、ただただアルコールとチルアウトを楽しみに来ていた。ので、基本的にスケジュールはオカダ任せにしておいた。結果、愛媛へ向かう道すがら、香川県でうどんを嗜み、道中でとりあえずリップスライムとケツメイシを流しながら、道後温泉に向かい、風呂に入り、酒を飲み、飯を食って、酒を飲んで、酒を飲んだ。

翌日はホテルを後にし、海水浴場でひとときのサマー感に浸り、香川で骨付鳥をたいらげ、酒を飲み、徳島で徳島ラーメンをたいらげ、淡路島で淡路コーヒーを流し込んだ。

途中でコウキは気が触れて、目をぱちくりさせながら「私はギャビーギャビー」と高い声で叫ぶという特殊なギャグを発明したりした。ちなみにギャリーギャビーとは、トイストーリー4に出てく、いや、他人のボケの詳細を説明することほどナンセンスな事はないのでやめておこう。

不器用な私たちが旅行と呼ぶそのイベントは、コウキに促されるがままに移動して食事して、移動して食事して、たまに風呂入って、移動して食事。確実に体力をすり減らしながら、カロリーを摂取しては、風呂に使っての繰り返し。

これ太らせて、体をキレイにして、くたびれさせるって、最終的にコウキは我々をどこかに出荷する気なんじゃないだろうかと心配だった。まったくもって"千と千尋の神隠し"のやり口だ。

そこでコウキが口を開く

「道後温泉って“千と千尋“のモデルになったらしいなあ」

「お前。さてはくたびれさせて、飯食わせて、風呂入らすって、俺ら出荷される?」

「あとはどうやって名前忘れさせるかやんな」

「やかましいわ」

「今日からお前の名はギャビーギャビー」

「やめてよそれ。こわいねん。目真っ黒なるのこわいねんて」

「なぁ、小田和正かけていい?」とショウタ

もう好きにしてくれ、と思ったが、好きにさせておいた挙げ句、ちょっと昔のめざましテレビのテーマソングを流してきたので、彼の口と視界を封じ、座席に縛りつけておいた。そのことを除いて、旅は順調かつ無事に終了したのだった。


「このメンバーで車出してくれる人」とかけまして

「このメンバーで酒を飲む」とときます

どちらも、

必ず高貴なノリ出ます

(必ずコウキ名乗りでます)

お後がよろしいようで。




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