This is startup - 名もなき弁理士の知的カフェ
番組概要
【番組名】
イレブンミュージック[弁理士永沼よう子の「知的カフェ」]
【番組概要】
パーソナリティ 永沼よう子 弁理士
放送局 レインボータウンFM 88.5MHz
放送日時 2023/12/18 11:00-12:00
ポッドキャスト Spotify
はじめに
本記事は、友人でもある永沼よう子弁理士がパーソナリティを務めるFMラジオ番組「イレブンミュージック[弁理士永沼よう子の「知的カフェ」]」(以下「知的カフェ」)への出演後記である。
話は遡って2023年10月。
僕のYoutubeラジオ番組「木本大介の二流のプロフェッショナル」にゲスト出演してくれた浅野卓さん(参照=末尾の関連情報)が「知的カフェ」に出演されるとの事で、その公開収録にお邪魔したところから始まる。
その場で、知財業界のラジオパーソナリティの大先輩である永沼さんと雑談をしていたら、あれよあれよで、お互いの番組への交換出演が決まった(公式「知財塾」からのリリース前に本記事を公開することにしたが、実は、永沼さんが出演する「木本大介の二流のプロフェッショナル」も近日公開予定)。
とはいえ、本家はFMラジオ。
放送波だ。
テレビ放送への映り込みはこれまでも何度かあるが、自分にフォーカスされたコンテンツが公共の電波に乗るなんて体験は初めてだ。
しかも、自分が日頃から提唱している「This is startup」や「広義の知財」の話を好きにしていい、と。
本当に好きに話した。
だから、とても楽しかった。
リスナさんからの反応も嬉しいものばかり。
熱冷めやらぬうちに、しっかりとした後記を残しておきたい。
これは、そんな逸る気持ちが筆を走らせた記事である。
「知的カフェ」とは
「知的カフェ」は、永沼さんがパーソナリティを務めるFMラジオ番組。
永沼さんは、特許事務所の所長弁理士としての顔だけでなく、タレントとしての顔も持つ激レア弁理士だ。
番組は、ゲストが選定した曲を流しながら、永沼さんの秀逸な回しで進行していく。
冒頭でも述べたように、僕の番組にも出て頂く永沼さん。
本記事の執筆時点で収録は終えているのだが、その時に感じたのは、コンテンツを創るということに純粋に向き合う姿勢だ。
僕の番組の収録で感じた姿勢は、「知的カフェ」の放送を聴いて確信に変わる。
この番組は、永沼さんとスッタフさんのコンテンツを創る熱量に溢れている。
そんな永沼さんの進行に多くのゲストが乗せられたことは疑いようもない。
This is startup music
まずは、僕が選定した楽曲のお気に入りフレーズと、それにまつわるエピソードを紹介しよう。
「ドラえもんのうた」(大杉久美子, 1979年)
作詞:楠部たくみ
作曲:菊池俊輔
1曲目には「ドラえもんのうた」を選んだ。
僕の提案で、番組の入りをドラえもんに託した。
どんな夢もみんなかなえてくれる。
それこそ「空を自由に飛びたい」と唱えるだけで、ひみつ道具がすぐに出てくる。
ドラえもんとのび太のやり取りには、知財の本質が詰まっている。
僕はそう思っている。
(参照=弊Blog「This is startup - 猫型ロボットになりたい -」)
僕は、「自ら生み出したものが知的財産かどうか」の判断基準を自分自信が持つべきだと思っている。
人間の脳は、知的財産しか生み出せないのだ。
知的財産を生み出すフェーズと、知的財産の価値化のフェーズを分けて考えてみると、知的財産を生み出すフェーズはすべての人類がやっている。
残る論点は、「どうやって価値化するか」だけだ。
知財業界では知らない人はいないであろう大坪さん(パテントサロン)が企画している「知財系Advent Calendar 2023」。
番組ではこれ以上を語ることを控えたが、僕は、12月24日(クリスマス・イブ)に、半年間温めた記事を投稿し、その中で、「ドラえもんのうた」を選曲した理由の本質を語る。
「名もなき詩」(Mr. Children, 1996年)
作詞:桜井和寿
作曲:桜井和寿
ある日、会社で集中力が切れたので、音楽を聴きながら仕事をしていた。
何曲目かに流れたのがMr. Childrenの「名もなき詩」。
冒頭の歌詞が耳に焼き付いた。
僕は気づくと非専門領域の仕事(慣れない仕事)を回す便利士になっている。
良いことばかりではない。
おそらくその道の新卒3年目のスキルが足りていないと感じることもあるし、「この仕事を受けていなければもっと楽だったのに」と思うことだってある。
だがしかしだ。
僕には、仕事を受けるときに必ず確認する心のサインがある。
「僕がやるべきか?」
このサインの下では、「つらい」とか、「つまらない」とか、「手間がかかる」といったことは小事だ。
ましてや、「これは弁理士の仕事なのか?」といった疑問を感じたことがない。
3秒ルール
子供の頃は、お菓子が落ちても土を払って食べていただろう。
そんな小さなことを気にしていたら、老いる以外の変化は起きようもない。
だったら、残さず全部食べた方が良い。
このフレーズを耳にしたときに、即座にそんなことを思った。
あるがままの心で生きられるほど僕は強くない。
それを他責にしていたら、何も残らない。
これは人事責任者の任を終えたときに抱いた感情だ。
今でも葛藤はある。
でもそれが人生だと思う。
少なくとも、僕の人生はそうなんだ。
企業の知財部から特許事務所に転職して、顧客からの評価も上々だった。
年収も急増した。
ところが、突然、その顧客から仕事を切られた。
この経験は、僕の大切な糧だ。
他にもいろんな失敗をしてきた。
それらの積分値が今の僕だ。
今年の年始に立てたバリュー(行動指針)の中で、「二流意識」という言葉を挙げた。
僕がこれを失くしたら僕ではなくなる。
失くしちゃいけないものだと思っている。
絶望も失望も経験済みだ。
きっと誰かを絶望させたり、失望させたこともあるだろう。
それでも今があるのは、くすぶったことはあっても、投げ出したことがないからだ。
本当に失くしちゃいけないものは、足元に必ずある。
本当に必ずある。
自分の足元には常に自分がある。
(追記:2023/12/22)
改めて「名もなき詩」を聞いていたら、最後のフレーズに衝撃が走った。
故に、追記することにした。
「愛情っていう形のないもの」
これは、無形資産のことであり、本題に照らせば「知財」のことだ。
知財は、「伝えるのはいつも困難」である。
だから「いつまでも」伝え続ける必要がある。
愛情は知財だった。
「名もなき詩」は知財の歌だった。
「それが大事」(大事MANブラザーズバンド, 1991年)
作詞:立川俊之
作曲:立川俊之
この曲はスタートアップそのものだ。
「同じことをやり続ける」を体現している一曲。
番組では、上記のフレーズを言い換えようとしてうまく表現できなかった。でも、この記事を書いていて気づいた。
言い換える必要なんてなかったんだ。
This is startup.
「にんげんっていいな」(ガガガSP, 2008年)
作詞:山口あかり
作曲:小林亜星
にんげんっていいな
とにかくタイトルがすべて。
昔読んだ「嫌われる勇気」(アドラー心理学)という本に共感を持っている。
人事責任者を務める前は、正直言って「人」に興味がなかった。
少なくとも自分ではそう思っていた。
そんな僕も、人事責任者を務め終わった後は、「人」の重要性を考えることが増えた。
にんげん
「人」ではなく、「人間」だ。
自分と他人との間を前提とする人の繋がりを表した言葉。
アドラー心理学の本質は、人と人の繋がりに目を向けることなのかもしれない。
This is startup
曲に乗せたエピソード以外にも、たくさんの話をさせて頂いた。
ここでは、少し加筆させて頂きつつ、僕が本当に伝えたかったことを綴る。
ピクシーダストテクノロジーズにジョインした経緯
僕は、ピクシーダストテクノロジーズ(以下「PxDT」)の創業前から落合さんと個人的に繋がり、彼から依頼された仕事をしていた。
その後、共同代表になる村上さんが現れ、PxDTの創業を知る。
そんなPxDTにジョインした理由。
墓場まで持っていくような話も含め、たくさんの理由がある。
その中から、僕は、落合さんが特集された「情熱大陸」のエピソードを選んだ。
忘れもしない2017年の誕生日(11月16日)のこと。
有給を取って、PxDT以外のスタートアップともコネクションを作るべく、渋谷で行われていたスタートアップイベント(今はなきTechcrunchのミートアップイベント)を訪れていた。
すると、突然、落合さんからSlackが飛んできた。
「今から青山に来れますか?」
僕は、2万円の終日パスをおよそ1時間で捨て、彼らの元へ向かった。
そこは編集スタジオ。
僕は、映像編集のために呼ばれたことを悟った。
放送日のわずか3日前の話だ。
放送当日。
当時、休眠アカウントになっていたtwitter(現X)を久々に起こし、落合さんのタイムラインを見ながら、番組をライブで視聴した。
すごい反響だった。
中には、「さすが落合さん、凄腕の弁理士さんがついてるんですね」なんてものもあった。
手から汗がにじみ出る。
支配権の喪失感。
今この瞬間、この番組を見て手に汗をかいているのは世界で自分だけだろう。
これはいったいなんなんだ?
そんなことを考えながら番組の終盤に落合さんが言い放ったフレーズは今でも忘れない。
「(この研究成果は)人類で僕しか知らない」
誇張せずに言えば、心臓の鼓動が止まらなかった。
これが、PxDTへのジョインを決めた理由の一つだ。
奇しくも、知的カフェの放送の翌日には、落合さんが特集された「NHK プロフェッショナル 仕事の流儀(壁が、壁でなくなるように 〜研究者 落合陽一〜)」が放送された。
そして、かの落合さんがXでこの言葉を引用していた。
正しいことより楽しいことを
登壇時に求められるプロフィールに必ず書いている座右の銘。
漫画「宇宙兄弟」の金子シャロン教授の名言だ。
弊Blogでもこの言葉を取り上げたことがある。
このフレーズに出会ったときに感じたのは、学びの源泉というよりもむしろ、自分をよく表した表現である、ということ。
永沼さんとのやり取りからふと、「正しさ」と「楽しさ」の違いの話になった。
とっさに僕は、「正しさの基準は他人が決めるが、楽しさの基準は自分が決める」と答えた。
すべての行動を自分で決める。
すべての結果に自分で責任を持つ。
これが、金子シャロン教授の教えの本質のような気がする。
知財と法務と人事と広報
僕は、過去に人事責任者を務め、今は、知財・法務・広報の責任者を任されている。
改めて活字にしてみると、何者なのか分からないw
しかし、僕の中でははっきりしていて、それは、「誰かにとって必要とされることをする者」なのだ。
一般に知財の専門家が法務に携わるハードルはあるし、ましてや人事や広報に携わるハードルはその比ではないだろう。
だからこそ、長く続く企業の組織構造において、これらの部門はうまく切り分けられている。
一方、非専門領域における僕のケイパビリティは、当然に、専門領域のそれよりも低い(少なくとも今はそうだ)。
しかし、僕は「非専門領域」に足を突っ込むことの違和感を忘れて久しい。
いつしか僕は「自分がやるべきだ」(必要とされている)と感じたことに最も意義を感じるようになった。
キャリア選択の観点では悪手なのかもしれないが、今目の前に解決したい課題があるならば、未知の手段を発明して解決するのが弁理士の性である。
僕にとって、この思考回路は極めて知財的だ。
広義の知財
永沼さんからスタートアップに向けたアドバイスを振られたときに、満を持して、「広義の知財」の話を入れた。
最近の僕は、抽象論の割合が対具体論比で日増しに高くなっている。
抽象論で避けては通れないのが「言葉の定義」だ。
元々、特許の明細書作成の経験が長い弁理士。
言葉の定義への感度は仕事で培われた。
この感度をそのままにすべての事象に向き合ってみると、意外なことに気づいた。
言葉の定義に敏感であるはずの知財家ですら、メイン業務から離れると「定義」の曖昧さを許容することがある。
僕も例外ではないのだが、人事責任者時代に「コミュニケーションの難しさ」を体験し、その最も大きな要因が「定義のズレ」にあることを悟った。
そこからの僕は、とにかく言葉の定義に意識を向け続けている。
辞書
永沼さんには事前にお伝えしていたのだが、僕は自分専用の辞書を作っている。
これは公開するためのものではなく、自分の中で言葉をしっかりと定義できていない場合、発信する情報は社会に害を与えることにすらなってしまうと思っているからだ。
例えば、「ブランド」。
永沼さんは「焼印」と返してくれた。
僕の定義は「認知」と置いている。
どちらが正解という話ではない。
大事なことは、「定義が違う」ということをさらけ出すことだ。
それは、言葉に真摯に向き合うことと同義である。
(追記:2023/12/23)
永沼さんのご要望に応じて、辞書の一部を公開してみる。
【辞書の項目の説明】
よみがな:日本語のよみがな
日本語:漢字(熟語限定)
英語:英訳
定義:僕の定義
辞書的意味(広辞苑):Web版広辞苑(検索サイト)の定義
用例:使用例(ただ、抽象的なワードだけを集めているため、書くのが難しい)
永沼さんから出た「ブランド」の和訳「焼印」も加えてみた。
「焼印は名詞」と答えたので、ブランドを具現化したものという意味を込めて英訳を「brand simbol」とした。
「brand simbol」という用語は、PxDTのデザイナーとこの手の議論をしたときに彼から出てきた言葉で、デザイナー界隈では通じる概念らしい。
例え話
僕は、ずっと昔から例え話をよくしていた。
例えば、特許出願書類。
僕は、明細書を冷蔵庫に例え、特許請求の範囲を料理に例えている。
弁理士の仕事は、冷蔵庫(明細書)に料理(特許請求の範囲)の材料(発明の要素)仕入れ、冷蔵庫に入った材料を使って料理を仕上げるものだ。
例え話は多分にノイズが入る。
そのリスクを承知した上で、目の前の人の知識量に合わせて説明することが重要だと思っている。
小学生に微分積分を教えてはならない。
パーフェクトオールラウンダーになりたい
「パーフェクトオールラウンダー」は、アニメ「ワールドトリガー」に出てくる概念だ。
(参照=弊Blog「This is startup - 「パーフェクトオールラウンダー」(「ワールドトリガー」)」)
僕の専門は特許。
でも、契約もやった。
人事もやった。
広報もやった。
兼務は時間泥棒だ。
マルチタスクの害悪は一般化している。
それでも心折れずに挑む。
それは、「僕がやるべきだ」と思っているからだ。
やるからには、プロフェッショナルとしてやりたい。
知財もわかる、契約もわかる、ビジネスもわかるパーフェクトオールラウンダーになりたい。
背負ってる荷物が増えても、スピードは落とさない
荷物の質量は荷物が決めるが、スピードは自分が決める。
スタートアップの生命線はスピードだ。
僕には元々ゆっくり歩く時間なんて与えられていない。
荷物が増えても時間は増えない。
だから、スピードを落とす選択肢は取れない。
1秒でも早く、1歩でも前に。
毎日それを思っている。
現代の魔法使い
落合さんと話すと、言葉の力を痛感することが少なくない。
よくわからないことも、すっと入ってくるのだ。
本当にすっと入ってくる。
とてもかっこいいと思う。
天才的だと思う。
彼は僕よりも10歳も下だが、僕が背負ってるものよりもはるかに重いものを速く遠くに運ぶその姿には、憧れを抱くこともある。
抽象的なものは抽象的なままに。
誤魔化すことなく、あるがままに。
それを伝え続ける。
これは、僕が彼から学んだことの一つだ。
まとめ
「知財」というと専門味を感じざるを得ない。
しかし僕は、すべては1つの何かに行き着くと思っている。
その何かに対して、知財家は知財(Intellectual Property)の眼鏡を通して、人事家は「人事」(Human Resorces)の眼鏡を通して、広報家は広報(Public Relations)の眼鏡を通して見ているだけだ。
それぞれの専門家が、それぞれの眼鏡で、1つの何かの価値化に取り組む。
価値が出るまで取り組む。
価値が出るまでやり続ける。
仕事とはこういうものだろう。
番組出演だけではなく、この記事の執筆のおかげで、自分の考えを言語化する良い機会になった。
僕が「This is startup」と称した世界観が1人でも多くのリスナさんに届きますように。
リスナさんからの反応
最後に、永沼さんにリスナさんからの反応をまとめて頂いた。
とても嬉しいメッセージばかりなので、そのまま転載させて頂く。
たくさんのリスナさんが名もなき弁理士の話を聴いてくれたみたいだ。
1人1人、受け止め方は違うだろう。
でも、それでいいんだ。
なにより、ラジオの楽しさを実体験として味わうことができた。
この記事はもっと温めてから公開する予定だった。
だが、リスナさんの反応に背中を押された。
永沼さん、とても楽しい機会をありがとう。
This was startup.
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