後記「INPIT IPモチベーター 育成研修「スタートアップの中から見えた知財」」
【要約】
サマリ
INPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)からのオファーで、INPIT主催の「IPモチベーター 育成研修」の1コマの講師を務めることになった。
受講生の大半はVC。
これまで、VCとの関係は、投資、各種支援、そして友人関係に留まっており、登壇に限ればパネルディスカッションの経験が一度あるだけだった。
パネルディスカッションの後記
2024/01/27 後記「創業・スタートアップ企業の推進力(つながる特許庁 in 仙台)」
講師としての登壇は今回が初めてだ。
VCという未知のケイパビリティを持った人々に「広義の知財」の考え方がどれ程刺さるのか。
自分にとっても1つのチャレンジであった。
【登壇テーマ】
「スタートアップの中から見えた知財」
「IPモチベーター 育成研修」とは
「IPモチベーター 育成研修」とは、INPITが2024年から開始したVC向けの研修プログラムである。
その目的は、VCの知財支援を活性化させることにある。
「スタートアップx知財」がトレンドになりつつあるが、VC向けのコンテンツはまだまだ不足していると感じている。
そもそも、VCの生態系をわかっている知財家がごくわずかであることがその一因だろう。
僕自身、VCの知人はいるものの、VCという仕事の属性を理解するには及んでいない。
まだまだ手探りの粋は出ていないが、おそらく知財家とは比べ物にならない程にスタートアップと接点を持つVCに「知財マインドをインストールする」ことは、社会的に大きな意味があるのだろう。
今回のプログラムでは、僕以外にも多くの知財家が講師を務めている。
情報が公開されていないので実名は伏せるが、弁理士はもちろんのこと、著名な弁護士から大企業知財部の方、さらにはスタートアップのCXOまで、多様な人選がなされている。
手前味噌になるかもしれないが、「よくもまぁ、これだけのメンバーを揃えたものだ」と関心に値する豪華な布陣だ。
このことからも、「VCへの知財マインドのインストール」という課題の大きさを感じることができる。
「スタートアップの中から見えた知財」
タイトルに込めた想い
上記のとおり、今回のプログラムでは、僕以外にも素晴らしい実務家がたくさん登壇する。
その中で、僕は数少ないスタートアップの中の知財家である。
そんな知財家から発信できるのは、「中から見えた景色」だと思った。
スタートアップの中から見た「知財」は、スタートアップの成長ドライバそのものである一方、スタートアップの成長には一般的に語られる「知財」(≒特許)だけでは圧倒的に物足りないのだ。
これを僕は「広義の知財」と称して各所でお伝えしてきたのだが、今回は、この「広義の知財」をVC(スタートアップに投資した上で、スタートアップを支援する立場の人々)に向けてカスタマイズした内容としたかった。
実務や実例は、僕以外の講師の方に任せられる(というか、その方々の方が圧倒的に上手だろう)という想いもあった。
第1章 知財とは何か?
弊Blogでも何度も強調してきたが、知財家たるもの、言葉に真摯に向き合わねばならない。
実務上は、「知財」の主要領域を「特許」に置くことは許されるとしても、「知財」と「特許」が異なる概念であることには変わりない。
僕は、「知財」の本質は「自信が売りたい(価値がある)と思っている情報」である、と考えている。
これを、「お掃除ロボット」と「某グルメサイト」を題材にしたクイズを通して受講生に体験して頂いた。
知財クイズ1の問いに対して、会場にいた受講生に挙手を促したところ、大半の受講生が「A お掃除ロボット」を選択した。
これは、先日の仙台で行われた「つながる特許庁」と同じ結果だ。
次に、知財クイズ2では、「あなたは某グルメサイトの社員です。」という一文を追加して、同じ問いを投げかけた。
すると、会場にいた受講生に挙手を促したところ、大半の受講生が「B お気に入りのラーメン屋リスト」を選択した。
これは、情報(知的財産)の価値が立場によって変わることを意味している。
立場は自分自信のことだ。
つまり、知的財産の価値は自分で決めている、ということだ。
僕の「広義の知財」の考え方は、これに尽きる。
こうやって考えてみると、「知財」とは多額の費用を要する「特許」以外にもたくさんの領域が存在していることがよく分かるはずだ。
今回は、ペルソナがVCであったので、各種「知財」の共通項として、「投資」という言葉を使いたかった。
そこで、「投資効果の発動時間の長さ」という観点を挙げてみた。
ここでお伝えしたかったのは、単に「長い」ということではない。
比較的「長い」ことを知った上で、比較的「短い」領域(例えば、人事や広報)と組み合わせた「投資ポートフォリオ」を形成すべきである、ということだ。
第2章 スタートアップの知財戦略
「知財」と同様、「知財戦略」という言葉も日常的になってきた。
しかし、「戦略」という言葉が明確に定義されないまま、多義的に使われているのも事実。
このことは、知財領域の外でも警鐘がならされている(素人は「戦略」を語り、プロは「兵站」を語る(「日経ビジネス」, 大矢 昌浩, 2019/07/09))。
僕は戦略の専門家ではないが、「言葉に真摯に向き合う」という観点で、僕なりの戦略の定義「リソース配分とシナリオ」をお伝えしたかった。
「リソース配分とシナリオ」によれば、戦略は、予算計画や中計に落とすことができるはずだ。
知財戦略は、知財予算計画 or 中計に落とし込まれた知財計画以上でも以下でもない。
知財戦略の議論が重要であることには変わりないが、それよりも、経営戦略の目的(ひいては、会社のミッション)を実現するために汗をかくべきは兵站の確保(リソースの調達)であろう。
第3章 VCに期待したいこと
最後に、「VCに期待したいこと」として、以下の3つをお伝えした。
「スタートアップが落ち易い穴」には、僕の代理人時代から今に至るまでの経験を集約した。
誤解を恐れずに言えば、僕自信、知財の専門家としてスタートアップの中にいてもなお、落ちそうになる穴ばかりだ。
このページに書いていることは、いたって普通である。
「知財の穴」と言ったって、いたって普通なんだ。
むすび
知財の難しい点は実務にこそあれど、投資領域として見れば他の領域と大きく変わるものではない。
スタートアップにとって、「知財」を難解な領域として捉え過ぎると、ガス欠(他の領域がおざなりになるというリスク)を引き起こし兼ねない。
だからこそ、知財の専門家ではないVCには、知財を身近に捉えて、肩肘張らずに他の領域と同じように向き合って欲しい。
こんなメッセージが伝わってくれていれば、僕の講義は成功だったと言えるだろう。
そんな講義の結びは、この言葉で締めさせて頂いた。
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