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住民と医師が気楽にコミュニケーションをとれる町〜丸くなって対話しよう⑵〜

人生100年時代、何歳になっても住み慣れた家や地域で安心して暮らしていくには、どうしたらいいのでしょうか。前半では、町民さんが自らの看取りの経験をお話してくれました。後半では、いのちと向き合う医師が自身の胸の内や、チームで行う在宅医療の実際について語ります。病院や医療の敷居を低くして、よろず相談のように住民と医師が気軽に話せる関係になっていくためには?
縁起でもないと思わずに、いつかくるその時を、「今」考えるきっかけに。

※この記事は、鳥取県大山町のケーブルTV大山チャンネルで2021年7月に放映された「どう迎える?人生の最期」のスタジオトークの語りを元に再構成しています。
出演者:森田義巳さん(70代)、山﨑陽子さん(70代)、桑原可菜子さん(70代)、谷尾良さん(70代)、井上和興さん(大山診療所所長)、孫大輔さん(鳥取大学・医師)、青木郷香さん(進行)

家族も含めてチームを組む、在宅医療の実際

青木:人生の最期を迎える時って、ご家族は何かもっとできたんじゃないかとか、後悔ばっかりがやっぱりあると思うんです。それを少なくしていけるように、医師として気をつけていることはありますか?

:そうですね、そこをサポートするのが在宅医療のスタッフの役目でして。いろんなケースがありますが、家族の介護負担ってやっぱり大きいなと思うので、例えば訪問診療の医師以外にも訪問看護とか、あと最近だと訪問薬剤師さんとか訪問リハビリとかですね、ケアマネージャーさんも関わることが多いので、そういう多職種が関わって家族の介護負担を減らしたりですね。そういう形で出来るだけご家族さんの悔いが残らないようにしていくっていうサポートができるかなとは思っています。

青木:いろんな職種の方がチーム一丸となってその患者さんについて考えてくださるっていうのは本当に心強いです。

井上:100歳代の方を、訪問看護師さん達とチームを組んで医師としてお看取りしました。ご本人さんがだんだん食事を食べられなくなってきた時に、ご家族は「点滴はいらないよ」って言っておられて。どうしようかなって時に、医師だけで決めない患者さんご自身が喋れれば意思決定に関わってもらうし、ご家族だったり、訪問看護師さんや病棟の看護師さん、薬剤師さん、ケアマネージャーさんとかみんなで、家で亡くなるとしたらどういうものが必要なのかを考える。ベッドを準備したり、緊急連絡先を教えたりしながら、じゃあ緊急の時には救急車を呼ぶのかどうかとか考える。急に何か起こった時にご家族がびっくりしないように、「訪問看護師さんと医師に電話してください」とかをお伝えしておいて、一緒に考えて判断して「救急車呼びました」「では僕(医師)がこれから行きますね」とか(シミュレーションして)。そういう感じで、医師だけじゃなくてみんなでチームを組んでやっていくっていうのが実際のところかなーって思います。

:看取りのケースだと訪問看護師さんの力がすごく大きいですね。毎日お宅へ行って、かつ24時間体制で看護師さんも医師も待機したり。心配なことがあればすぐに電話をかけてもらって細かい疑問にも応えたり。そこがやっぱりご家族の安心に繋がってるのかなと思います。

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病気だけでなく背景も見てほしい

桑原:そもそも、やっぱり病院ってなかなか足が向かないというか……行っても言いたいことの半分ぐらいしか言えなかったりするんですけど、朴先生(大山診療所元所長・2019-2021)はその壁を低くしてくださった。気軽に診療所に行って、診察はそこそこに長話をして。後ろに看護師さんがウロウロされると、「あっ次の人が来たから話をやめなくちゃ」と思いつつ、30分位は喋ってたかな。そういう先生が身近にいるって事がやっぱり安心感に繋がると思いましたね。病気だけじゃなくて患者の背景も分かってくださって。

井上:住民さんの想いとか、どんな風にどんな文化で生きてきたかも配慮しつつ、医療と住民さんとを繋ぐ橋渡しができるといいなあと思ってます。不安を和らげたり、少し捉え方を変えたりできるといいなあと。

よろず相談所みたいに、フラッと町の中で健康相談を

青木:孫先生も、医師と住民さんの関係づくりで、何か工夫されてることはありますか。

:東京にいるときに、地域の人と医療従事者がもっとフラットに交わり合えたらと考えて、モバイル屋台っていう小さい屋台を医師や看護師でひいて、コーヒーを配り歩きながら街の人に語りかけるっていう活動をやっていました。「何売ってるの」みたいな雑談から「かかりつけ医っていますか?」みたいにちょっと医療的な話に発展させたり。

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井上:診療所だと医療がバーンと前に出ちゃうんですけど……よろず相談所みたいな診療所にしたいと思っていて。野菜市みたいなのをしたり、コーヒーを飲めたりとか。フラッと来て医療じゃない話もできて、いろんなものが繋がると楽しいんじゃないかなって思っているんです。

谷尾:まね事でもすればいいなと思います。私好きなんですよ、そういうのが元々ね。今はそばを打ったり豆腐を作ったりしていて、そこに地域の人が豆腐を取りに来るんです。週に1回、そこでいろんな情報を交換する。今(コロナで)地域のイベントが無くなって、一番の情報源なんです。例えば「あそこのおばあさん、入院してるらしいよ」とか。お互いが先生でお互いが生徒で、情報交換をどんどんして。地域コミュニティで話題を密にするって大事なんでしょうね。

井上:今言っておられた、教え教え合う、お互いが先生になるってすごく重要だなと思っていて。どうしても診療所にいると、医師と患者さんみたいな関わりになっちゃうんですけど、例えばブロッコリーの話を教えてもらったりとか、例えば棚田の景観を守るための草刈りの話とか……意図しないところでそういうものが生まれるってすごく面白いなと思います。大山診療所じゃなくてもいいと思うんですけど、そういう所に少し関われたら嬉しいなあと。

山﨑:ご近所で、若い方達はお勤めに出て、留守はおじいさんおばあさんだったりとかしますけど。昔みたいな、自分で作ったお料理をこれ作ったから食べてみたいなお付き合いがね、私の嫁の時代にはかろうじてできてましたよ。今はそんな事しませんよね。やっぱり寂しいなと思いますよ。


人生の最期を笑顔で迎えられる町にしていくには?

谷尾:昔から向こう三軒両隣って言葉があります。それ本当に大事なんじゃないかなと思ってます。

井上相手に興味を持ちつつ、相手の価値観を否定しないことですね。そういう価値観もあるんだねっていうことで、それをコントロールしようとしないことは重要なのかなと。自分とは違う考えを持ってたとしても、そうなんだね面白いねって思えるといいんじゃないかなって思っています。

:自分の最期をイメージする、家族に伝えることも大切ですし、さらに自分とちょっと違う立場の人とも対話して、いろんな人たちが混じり合ったりして、お互いちょっと助け合ったりしていく。そういう中で自由なコミュニケーションが生まれていって、100年この地元で楽しく安心して過ごすためには、最期を迎えるにはって話を、気軽に話しやすくしていくような文化を作っていくのがいいのかなと思ったりしました。

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記事制作:中山 早織
元書店員の助産師・コミュニティナース。2014年に東京より鳥取へ移住。現在は大山町で地域活動や聞き書きを行う。大山100年LIFEプロジェクトメンバー。映画では小道具・衣装を担当。

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