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乳房炎の科学No.5 『レンサ球菌の病原性が高い6つの理由:後半』

はじめに

前回はレンサ球菌の特徴について、ざっと解説しました。黄色ブドウ球菌と違って抗生物質による治療効果が高く、比較コントロールしやすいように思われます。実際、伝染性乳房炎の発生は1900年代と比較して7割以上減少したといわれています

しかし、S. uberisやS. agalactiaeは慢性乳房炎を引き起こす病原体としてよく知られています。
以前の投稿で、それぞれの乳房炎の原因微生物の割合をまとめましたが、慢性乳房炎の発生は4分の1が黄色ブドウ球菌とレンサ球菌によって引き起こされています。

慢性化は治療の失敗の結果起きるものともいえるため、実際のところコントロールできていないのが現状と言えるでしょう。この結果は病原体の病原性の高さを示しています。

では病原性とは一体何なのでしょうか?

Weblio辞書によると病原性とは”ウイルスや細菌などの病原体に、病気を発症させる性質があること”とされています。本来は病原性があるか、ないかの表現だったらしいのですが、現在では毒性も含めた表現で病原性が高い、病原性が低いと言われているようです。

先ほども述べたようにレンサ球菌は治療による反応はかなり良好で、抗生物質による治療が勧められています。
しかし、ウシ自身の免疫による自然治癒率はかなり低いものとなっており、これはレンサ球菌の病原性の高さを表しているとも言えます。

今回はレンサ球菌の病原性を高めている特性を6つ取り上げてみました。

特性1:バイオフィルムを形成する!

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バイオフィルムは黄色ブドウ球菌の特徴でも解説しましたが、より詳しく解説していきたいと思います。

バイオフィルムは表面に付着して形成される微生物の集合体のことで、細菌自身が分泌する物質によりその集合体を覆い、バイオフィルムは形成されます。

S.uberisはバイオフィルムを形成する際に、細菌同士を細胞外マトリックスタンパク質によって結合します。細胞外マトリックスと聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、単に細菌と細菌との空間のことで、細胞外マトリックスタンパク質はお互いが離れないように結合しています。

このタンパク質の材料となるのが、乳中にあるカゼインというたんぱく質です。カゼインは牛乳のタンパクの内80%以上を占めています

S.uberisはこのカゼインを分解することができるため、乳中のカゼインを用いて乳房内で容易にバイオフィルムを形成し増殖することができます。

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