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あんなに美味しそうだったから


どうして絵本に出てくる食べ物は、あんなにいつも美味しそうなんだろう。

「しろくまちゃんのほっとけーき」の、しろくまちゃんがママと焼くホットケーキ。
「カラスのパンやさん」のお店に並ぶ、子がらすたち考案のバラエティ豊かなパンたち。


それまでお菓子作りはおろか、日常のご飯を作るために台所に立つことすら億劫がって、私には向いてない!買った方が美味しい!と思っていたのに、

子どもたちと繰り返し絵本を読み、挿し絵を眺めていると、
絵本で読んだものを、お家で作って食べたら絶対美味しいはずだ、
たとえ見ばえが悪くたって、子どもはきっと喜ぶに違いない。食育のためにも、情操教育のためにも、ぜひやらねば!
そう、謎のやる気がかき立てられた時期があった。


ホットケーキ。
こちらは子どもと一緒にやってみる方も本当に多いと思う。台所初心者は、こむぎこ・ふくらしこ の代わりにホットケーキミックスを使う。ぷつぷつ、ふくふく‥焼けてくる音も楽しい。
絵本のしろくまちゃんの通り、粉をこぼしてしまうところまでは想定内だが、絵本に従って卵わざと落として割ろうとするのは全力で阻止した。

パン!
これは、ちょっと子どもが大きくなってからチャレンジした。かこさとしさんの絵本以外にも、美味しそうなパンが出てくる絵本ってたっくさんあるので、一度はやってみたかったのだ。生地でいろんな物を作り、結果思ってた形に焼き上がらない。でもそれはそれで楽しく、焼き立ては予想以上に美味しかった。
が、その時の強力粉の残りは今も冷凍庫に入っている(いつ使うの)。

実際に作ってみた順番はうっすらしか覚えていないが、他にも、

「あかたろうの1・2・3 の 4・5・6」に出てくる、ほしぶどうが入ったエビフライのせカレーとか、

「とびきりおいしいデザート」という絵本に出てくる、ブラックベリーフールとか。

いろいろ作って食べた。


子どもといっしょに作る際、大抵は途中で遊び出して収拾がつかなくなるので、子どもが実際に何かするのは工程のごくごく一部。材料まぜまぜしたり、分量はかる時「ストップ!」って言ってもらうだけの時もある。
作業の難易度はまちまちでも、超肝心なことが、一点あった。

味が、「おうちで作ると、美味しいね。」となるような予想できるものを作ること。

しかし、家で絵本を読んでいると、中には親がその気でなくても、子どもが「これ食べたい」「これ作って」と言い出すお話が出てくる。

それがこの絵本だった。


のねずみのぐりとぐらが、この世でいちばん好きなのは、お料理すること・食べること だ。
そんな2人が森の中で見つけたもの。

とても おおきな  

たまご!

そしてそのたまごで作ったもの、それは

カステラ!

ええっ⁈
カステラ?

カステラって家で作れるの??

台所初心者、お菓子作りもほとんど未経験であった私にとって、カステラは〝買って食べるもの〟だった。

でもぐりとぐらはたまごを見て、
「(たまごやきより)かすてらがいいや。あさからばんまでたべても、まだ、のこるぐらいの おおきいかすてらが、できるよ」
と、あっさりカステラを作ることを決める。
お料理することがいちばん好きだって言うくらいだもんなぁ‥カステラだってお手のものなのだ。


ぐりとぐらが急いでお家に帰って、取ってきたもの。
大きなおなべに大きなボウル。

大きな卵に出会っていなければ、使う出番なんてあったのかしら?と思うような道具たちを、2人は「ひっぱっていこう」「ころがしていこう」とめちゃめちゃポジティブに森まで運んでくる。そこが可愛い。
ちなみにうちの子たちは、ぐりとぐらがポン!と手をたたいてアイディアを出すところが大好きで、読み聞かせするといつも一緒に ポンッ と手をうっていた。

他に必要な材料は、こむぎこ、ばたー に ぎゅうにゅう、おさとう。ふむふむ。シンプルなものばかり。なるほど、これなら作れるのかも知れない。

匂いにつられて、森の動物たちも集まってくる。
子どもの期待も高まる。
これは、やるしかないだろう‥

私は腹を決めて、作り方を調べた。●ックパッドというとてもありがたいツールで、基本の手順を確認し、材料をそろえる。
ところが、すぐに壁にぶち当たった。材料も、分量も、道具も、アプリに出てくる作り方はみんな少しずつ違っていて、どれがいちばん簡単なのか、どれがいちばん思っている味にちかい出来上がりなのか、全く見当がつかないのだ。
ハチミツを使うもの、強力粉を使うもの‥卵の個数に牛乳の量もどれも微妙に異なっている。

さらに頭を悩ませたのは、形。
その時家にあったのは、一般的な?パウンドケーキを焼いたりするような直方体の型。これは実家の母がくれたのでかろうじて家にあったのだが、

絵本に出てくるカステラは、丸いのだ!

私も、カステラは四角いものだと思っているけど、子どもたちが想像しているのは、ぐりとぐらが作る丸いもの。
どうしたものか。
沢山出てくるレシピをこれでもない、これでもないとスクロールして、
私が決めたのは、炊飯器で作るカステラのレシピだった。

今だから分かるけど、料理経験値の浅い人間が、家で作ったことないものを、初めて見るレシピで作ってみるって、すごくリスキーな行為だ。ましてそのレシピは料理専門家が載せた物でも何でもない。
極め付けは、うちの炊飯器が、お米を炊くことしか出来なかった、ということ。

ピピー、ピピー。

わー!出来たよー!
何か、いい匂いする!!

ワクワクに満ちて、炊飯器を開ける。

パカ。

そこには、スイッチを押す前とあまり変わらない、ドロドロの物体があった。

失敗だ‥

子どもたちの落胆する顔。
慌ててまた携帯で作り方を検索する。炊飯器、失敗、カステラ‥
食べられないの‥?と残念そうに聞いてくる子どもたちに、もう一回やってみよう!と、望みを捨てずに再び炊飯ボタンを押す。

小一時間後。ピピー、ピピー。

‥もうお気づきかも知れないが、先ほどとあまり変化のない中身が、そこにあった。

お腹空いたと、いつ完成するか分からないカステラを待ちきれず別のお菓子を食べたので、子どもたちの関心は他に移っている。 2回目の落胆は私の方が大きかった。

そろそろ夕飯のことも考えないといけないので、炊飯器の中身はフライパンにあけて、何だか分からないものを弱火で焼いた。ようやく何かに火が通って出来上がった時には、既に夜ご飯前になっていて、その日はほとんど食べられなかった。味は、あまり覚えていない。

だって、できると思っちゃったんだよね‥

あんなに2匹が楽しそうに作っているから。
あんなに美味しそうに描かれているから。


その後しばらくして、子どもたちはお店で買った四角いカステラの味を知った。ふーん、美味しいね。感想はそんな感じ。確かに、間違いなく美味しいんだけど、あの時お家でカステラが焼けていたら。私は今でも時々、蓋を開けた瞬間のあのガッカリした気持ちを思い出す。

まだ食べたことのないカステラの、色、匂い、口ざわり。焼けるまで皆で歌いながら待っている、その時間。子どもだけでなく大人だってドキドキしながら共有できる、絵本という世界。
中川李枝子さん、山脇(大村)百合子さん、子どもたちに、美味しそうなカステラの夢をくれて、ありがとうございました。

山脇百合子さんのご冥福をお祈りします。

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