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僕が孫正義から学んだ5つのこと(その1)

少し前に、ソフトバンク時代のロボット事業創出の経験をnoteに綴りましたが、今回はもう少し、孫さんという人物にフォーカスを当てて、僕が得た学びを皆さまにシェアできればと思います。


今からしてみれば本当に幸運というか、感謝してもしきれないくらいのことなのですが、新卒でたまたまソフトバンクの新規事業チームに配属となり、若手の頃から孫さんとの会議に同席させていただく機会に恵まれました。敏腕社員が5-10年実績を積んでようやく座れる社長会議の席に、その価値もわからないまましれっと座り、会議資料の投影やら議事録を取る係やらを任せていただけたのです。

そんなビジネスマンにとってお金を積んででも座りたい特等席で僕は、自分の上長が孫さんに新規事業のプレゼンをする姿や、それに対する孫さんの反応・フィードバックを、当時まだ汚れていない目と耳に、しかと焼き付けることができました。

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若くしてそのような貴重な経験を得られた結果、僕には特殊能力のようなものが身につきました。あえてその能力に名前をつけるとすれば、「絶対孫感」といったようなものです。言葉にすると滑稽ですが、僕の頭の左斜め上あたりに小さな孫さんがいて、事業やサービスの企画で悩んでいると、その「ミニ孫さん」が存在感というか、オーラみたいなものを放ってくるのです。そしてそのたびに僕は、「孫さんだったら何て言うだろう」と自問自答し、ひとたび「絶対孫感」が発動した暁には、「孫さんだったらきっとこういうふうに考えるんじゃないか」「孫さんならこういう指摘をするんじゃないだろうか」といったようなトランス感覚に苛まれるようになりました。いわば、孫正義の「傾向と対策」といった感じです。過去問を浴びるように目の前で見せられたおかげで、感覚的に「地雷」がどこにあるのか、「急所」がどこにあるのか、そういった言葉で説明しづらい大切なポイントが自然とわかるようになってきました。数年後にソフトバンクを離れ、エージェンシー(クライアントワーク)の立場で経営者や事業責任者と対峙する中で、彼・彼女らの抱える課題や考えが手に取るようにわかるようになったのは、きっとこの時の経験のおかげだと思います。

少し話が脱線しますが、僕は起業し、スタートアップを立ち上げたい学生には、まずはソフトバンクや楽天、DeNA、サイバーエージェント、リクルートのような、新規事業に対し、門戸を開いている大企業・メガベンチャーに就職することをおすすめしています。おすすめする理由は、優秀な経営者やリーダーと、そのもとに集まる新規事業人材に囲まれながら、ビジネスを作るということの基礎を給料をもらいながら学べ、トライアンドラーンをリスクゼロで経験でき、僕における「絶対孫感」のようなものを効率的に獲得できるからです。こんな最高の環境は他にはありません。自分で事業を立ち上げるのはその後でも全然遅くはないと思います。

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さて、先述の記事でも書いたとおり、ソフトバンクでの新規事業立ち上げの経験は僕にとってかけがえのないものになりました。さらに言えば、その中でも孫さんとご一緒させていただく時間は特別で、就職間もない社会を知らない若造にとっては、あまりに刺激が強く、その後の人生を狂わすような鮮烈な体験となりました。前置きが少し長くなりましたが、今回はそんな価値ある数年間の中から、僕が孫正義から学んだ5つのことをご紹介したいと思います。

これから挙げる内容は、記憶に強く残っているものなので、少しトリッキーな内容が多いかもしれません。これら以外にももちろん、収支の話だとか、黒転が何年後になるだとか、PL/BSがどうだとか、基本的なことから複雑なことまで、事業や経営に関する様々な議論が行われていました。僕の理解が追いつけないほどのスピードで会話や検討がなされ、最適解が導かれていくわけですが、それをここで書いても楽しい話にはならないので、どうせ書くならと、僕が印象に残った孫さんならではのコメントやディレクションに焦点を当て、紹介できればと思います。

では、早速。


語録1「そこのお前はどう思う?」

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社長会議でPepperの機能・コンセプトについて喧々囂々と議論している際に、手前に座っている人から順番に意見を求められる機会がありました。一人ずつ自分の考えを答えていくのですが、孫さんは今ひとつ納得したような表情を見せません。次第に主要なプロジェクトメンバーが回答を一巡し、いよいよ孫さん自らが自身の考えを述べるのだろうなと誰もが思った次の瞬間、孫さんが発したのが「そこのお前はどう思う?」という言葉でした。

プロジェクトメンバー誰もが「誰のことだ?」と振り返った先にいた、一番遠くの席で必死に議事録を取っていた新卒2年目の若手が、当時の僕でした。メモを取るのに必死で自分のことだと気づかなかった僕に誰かが、「(おい、聞かれてるぞ)」と小声で合図してくださり、我に返った時には頭は真っ白。まさかこんな若手の僕に、ただの議事録係の僕に、あの孫正義が意見を尋ねるなんて。信じられないような瞬間でした。

その後、僕は何か咄嗟に答えたと思うのですが、緊張しすぎてよく覚えていません。孫さんの反応も少し期待外れなように僕には見て取れ、悔しかったことだけはよく覚えています。それ以降、いついかなるときも、自分の意見を常に持ち、備えておくべきだと痛感した大切な経験であり、ソフトバンク時代の大きな後悔のひとつでもあります。

そう感じたこと自体、大きな学びではありましたが、このとき僕が孫さんから受け取ったメッセージというのが、「立場に関わらず、すべての人と平等に向き合い、発言を促し、彼・彼女らの意見に傾聴せよ」ということ。

他の役員や管理職と同様に、入社したばかりの僕にも等しく発言権が与えられる。そしてその意見にしっかり傾聴してくれる。自らの意見の押し付けをしない。一見、世の中からはワンマンな人物像にも映りかねない剛腕経営者が、何十歳も歳の離れた若者と同じ目線で会議のテーブルについてくれている。大切なことだと頭ではわかる一方で、これを実際に日々実践できている人は少ないのではないでしょうか。一方で、日本を代表する経営者が、巨大組織のトップが、それを当たり前にやっていることに、僕はとにかく驚きました。

組織における自分のポジションが上がるにつれて、周りにはどうしても圧力が働き、イエスマンが多くなりはじめます。それを意識的に認識し、裸の王様にならないよう心がけながら周りと接するその大切な姿勢を、僕はこのときの孫さんの一言で学ばせていただきました。

孫正義からの学び1
立場に関わらず、すべての人と平等に向き合い、発言を促し、彼・彼女らの意見に傾聴せよ。


さて、次回は学び2〜4を一挙に共有できればと思います。ではまた。


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