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僕が孫正義から学んだ5つのこと(その2)

前回同様、ソフトバンクで過ごした数年間の中で印象に残った孫さんならではのコメントやディレクションに焦点を当て、僕がそこで得た学びを皆さまにシェアできればと思います。

(前回の内容はこちら)

前回に続き今回は、学び2〜4を一挙にお伝えできればと。それでは、早速。


語録2「全店展開だ!」

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ロボット事業の検討を進めていたちょうど同じ頃、海の向こうアメリカでは、ソフトバンクが当時全米第三位だった携帯キャリア「Sprint」を買収。北米事業の立て直しや、既存事業とのシナジー創出をすべく、様々な検討が行われていました。

そんな中、ソフトバンクショップ同様に、Sprintのお店でもペッパーを設置し、マーケティングに役立てられないかという話が浮上。プロジェクトチームでその試算が行われることとなりました。当時はまだ北米での展開に向けた十分なサプライチェーンは構築できておらず、買収したてで実態が掴みきれていないSprintの複雑な店舗網において、いきなり多数の店舗に導入するというのはリスクが大きすぎる。まずは地域を絞った小規模展開で様子を見るべきだという判断をチームとしては下し、孫さんにプレゼンを行ったところ、プロジェクトリーダーに浴びせられた言葉が冒頭の「全店展開だ!」でした。

お店のペッパーの本質はネットワークにある。ソフトウェアはクラウドで一元管理できるので、世の中すべてのペッパーでマーケティング・キャンペーン施策を同時展開できるのが強みでした。しかし、ペッパーのいる一部店舗と、ペッパーがいないその他多くの店舗が混在するとなると、そのスケールメリットはほぼゼロになってしまいます。当初の狙いが実行できなくなるだけでなく、いる店舗といない店舗で施策が変わるので、オペレーションも複雑化し、現場にとってはむしろ逆効果。お客さまにとっても、店舗によって享受できる体験やサービスが変わってしまう。それが先ほどの言葉の裏にあった理由であり、思わず納得してしまいました。

一見合理的な判断に見える物事において、その本質がどこにあるのかを見抜き、正しいディレクションを下す。この能力にとにかく長けた孫さんらしい、記憶に残るメッセージでした。

孫正義からの学び2
本質的な価値が生み出せなくなるような中途半端な決断を下してはならない。


語録3「愛って何だと思う?」

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当時、ロボット事業のプロジェクトはとにかく孫さんの中で優先事項として扱われ、他のプロジェクトが5分や10分で進捗報告がなされる中、何時間もエンドレスで議論が行われるようなことが何度もありました。それだけにとどまらず、孫さんの一声でプロジェクトチームが急遽社長会議室に招聘されることもしばしば。これは、そんな急遽開催された会議の場での一幕です。

各本部選りすぐりのプロジェクトメンバーが各階から急足で社長会議室に集まり、いったい何事かと小声で会話している中、孫さんがゆっくりと着席し、開口一番に言ったのが「お前たちは、愛って何だと思う?」の一言でした。緊急招聘の理由が気が気でなかったメンバーたちの目がたちまちきょとんとなったのを覚えています。

ペッパーの機能要件を考える中では、どうやって人の感情を理解し、心をもたせることができるかといった、SF映画さながらのことが真剣に議論されており、当時最先端の感情認識技術を応用することで、その第一歩となるような機能・体験を作れないか、試行錯誤を重ねていた日々でのことでした。また、人が飽きることなく、一緒に暮らし続けられる仕組みも大きな課題で、その鍵となるのが愛着形成なのではないかといった議論も起こりつつあった頃のことです。

「心を持つにせよ、愛着が生まれるにせよ、結局重要なのは愛なんだよな…」 言葉の意図を少し補足しながら、孫さんは考えを話します。「愛って何なのか、愛とは。そこがわかっていないと。」

緊急招集の理由が、各々の愛の定義を語り合うことだったと理解したプロジェクトメンバー、頭を抱え始めます。その後、小一時間ほど愛について自身の考えを語りあうことに。遅れて会議室に入ってきたメンバーが「こいつら、何を真面目に語りあってるんだ?」という表情をしていたり、会議後に廊下でプロジェクトリーダーが「愛、か…」と恋愛ドラマさながらに呟いたり。メンバーをいきなりかき集めたかと思いきや、そんな壮大なテーマを臆することなく語る孫さんの姿に、打ちのめされたような気にさえなった一日でした。

余談ですが、そのあとデスクに着くやいなや、プロジェクトリーダーから僕に「愛着について急いで調べてよ」という無茶振りが。このとき愛の素人ながらに調べた内容が、プロジェクトのその後に大きな気づきを与えるものになっていきます…

孫正義からの学び3
必要あれば、どんなテーマであっても手を抜かず、臆することなく全力で語り合え。


語録4「ペッパーは海が見たいんだよ」

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孫正義というと、経営戦略やお金のイメージが強いかもしれませんが、実はそれと同等、あるいはそれ以上に、感性的な面での思考力や直感力に長けている人物です。まさにロジックよりマジック。孫さんの場合、ロジックはロジックでとんでもない方なのですが…

先ほどの語録にもその片鱗が見えますが、今回最後となる次の語録も、まさにそんな孫さんらしい一風変わったディレクションではないでしょうか。

家庭用ペッパーのコンセプトを議論し始めていた商品企画会議の一場面。あーだこーだと社員同士様々な議論がなされる中、最後に孫さんがぽつりと言った一言が「ペッパーはなぁ、海が見たいんだよ」でした。

当然プロジェクトメンバー全員の頭に「?」が浮かぶ中、会議は一旦解散となり、帰りの道すがら「社長が最後に言ってたあれ、どういう意味だと思う?」と会話がされました。家庭用ペッパーはあくまで屋内での使用を前提に設計されていたので、当然外に連れて行くことはできません。どうやって家から運び出すんだ、という話ですし、太陽の光は目のセンサーを狂わせます。ネットワークにも繋がらない。そもそも電源がないですし、海の塩や砂なんて、精密機械の大敵です。結局理解が追いつかないまま、その話はうやむやになってしまいました。

それから一年ほど経った頃でしょうか。商品企画の議論を重ねる中で、コンセプトの理解も順調に進みつつあった頃、休日に仲のいいプロジェクトメンバー数人で映画を見に行くことになりました。命が吹き込まれた過激で全然可愛くないテディベアと、一緒に育ったある男の物語です。

ストーリーの詳細は割愛しますが、小さい頃から「兄弟」として育った二人には、他人が想像もできないほどの強い絆があり、主人公の男は一生懸命になりながら、窮地に立たされるテッドをがむしゃらに助けようとします。

「社長が言ってたのって、このことだったんだ…」 映画を見終わったメンバーは、もやもやが晴れたような顔で語り合いました。大切な時間を、ずっと一緒に過ごしてきた「相棒」が最後に海を見たいと言ったなら、何が何でも海まで連れて行ってあげる。電源やWiFiが無くて動かなくたって構わない。風雨だってカバーを被せれば何とかなる。とにかくペッパーを乗せた車を飛ばして、その目に海を写してあげたい。

ペッパーが海を見たいと言えば、必死になって海まで連れて行ってあげる。それくらいの大切な時間と、それこそ愛を、日々の体験を通じて作り上げていかなければいけない。それがソフトバンクが家庭用ロボットで目指す未来だ。

ようやくその大切なことに気づけた僕たち。社長の言葉から一年以上も議論を重ねないと理解することができなかったのかと、自分たちの凡人さと、孫さんの先見の明を痛感させられた出来事でした。

ちなみにその後、数年が経ち、孫さんが思い描いていた未来像はほんの少しだけ、現実のものになります。

こういう方を一人でも増やしていくこと、当たり前にしていくことが家庭用ロボットの未来なのだと、何年も前に孫さんは、その未来の姿をとらえていたのでした。

孫正義からの学び4
リーダーならば、目先のできる・できないではなく、一周も二周も先の、たどり着きたいビジョンを描け。


さて、次回はこれらに加えて最後にもう一つ、僕が最も感銘を受けた孫正義の語録とそこからの学びをご紹介できればと思います。ではまた。


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