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どうぶつと、私と、島と。


朝……いや、もう昼なのかな。
起きてすぐにやることといえば人間たくさんあるのだが、
私にとっては1つしかない。

顔を洗う?
……いや、違う。

歯を磨く?
……いや、違う。

朝ごはんを食べる?
……いや、違う。

「おはよう!だぴょん。」

私の朝必ずすることは。
この島に住んでいる「ホウサク」に、話しかけにいくことだ。

彼は緑色のワニで、なぜか四足歩行ではなく二足歩行で歩く。
こないだプレゼントした”DAL”のTシャツを着まわし、すっとぼけた顔をしながら、
半端に出た腹は何処へやら、「キントレ」について熱弁を始める。

「今日はいい天気だなー!絶好のキントレ日和だな。だぴょん!」

……ったく、どこを鍛えているというのだ。腕立てもスクワットもしなくていいからそのぽっこりお腹をなんとかするために腹筋をしてくれ。

そう思いながら、どこかこの間抜けなワニを恨めず、「かわいい」と思っている自分のことをおかしいと感じながら、毎日声をかける。

いい日常だ。
虫取りするより魚を釣るよりホウサクと仲良くなることが使命だ。彼を引っ越しさせたくない。
商店でお金を持ってないがために新しい家具を購入できなくても……。

いやいやだめだ、それはそれでつぶきちが悲しそうな顔をするな。
貯金した金を下ろすか…。

なんにせよ、だ。
今日もこの島は平和だ。

世界は今、新しいウイルスが蔓延し大変なことになっているらしい。
確か……「コロナ」って名前だったはず。
この島には関係ない。

失業者も増えているし、
少なくとも減収になる人たちも多いらしい。
日本は希望したらみんな10万円もらえるかも?とのことだ。
この島には関係ない。

まあなんにせよ、私たちには関係ない。
なぜかわからんが二足歩行をして、人の言葉を喋る動物たちとともに、
1時間も歩けば全土を回れる程度の広さの島で、
程よい金銭と、自由と、なぜか空かないお腹を得て私は悠々自適なスローライフを送っている。

この島に来るまではできなかった貯金も、
この島に来るまでは興味のなかった園芸も、
この島に来るまでできなかった工事も、
なぜか知らぬ間にできるようになり、今では自然と人工が程よい形で交わった理想的な島になった。

毎週金曜日には今まで聞いたこともなかった「とたけけ」という謎の白いわんこが
「有名バンドだ。」とドヤ顔で街の真ん中でライブをする。
おそらく、これは嘘だろう。有名なのに誰もライブを見にきていない時すらある。
話しかけると私に会った歌を作ってもらえる。

役所的なところもある。
これまただらしないお腹を半分出しているタヌキのたぬきちが、
「島の開拓をして欲しいだなも!」
と、自分の職務を放棄して私に島の工事から家の建設、住民の勧誘まで任せてくる。
その癖私の自宅のローンはちっともまけてくれない。

「いつでもいいから、ATMから支払って欲しいだなも!」
もはや彼は闇金たぬきだ。

とはいえ。
とはいえだ。

今日もこの島は平和だ。
明日やることも、将来のビジョンも、老後のこともな〜んにも考えなくていい。
なんなら、今日何するかも決めていない。

はあ。「生きる」って、なんだろな。

そんなことを考えながら、私は今日も生きている。

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