傾聴は全然聴くだけではないよ。という話①

コーチングカウンセリングを習うと、多くの流派では傾聴を学ぶことになると思います。

傾聴はクライアントの話を正確に理解するための聴き方です。だから傾聴が出来ずにはスタート地点に立てないわけです。

今回は、傾聴って何をすることなのか、スキル面の解説をしてみます。

そもそも集中して聴けているのか

僕は長年にわたりコーチングカウンセリングの指導をしていますが、中級者以上には文字起こしをしてもらうことがあります。

自分がやったセッションを文字起こしすることのメリットはたくさんありますが、その一つは、自分がいかに聴けていないかに気づくことです。

最初は文字起こししただけで、自分でも気づけるくらい、聴き漏らしがあります。

「クライアントがこんなこと言ってたなんて。。。気づいてなかった」
「ええええ。この言葉まったく記憶にない」

とか、自分で文字起こしすると驚くことがたくさんあるのです。

ベテランになってからでも、よく読んでみたら大切なところなのに、実際はスルーしていた部分があることに気づいたりします。

どうして聞き漏らすのでしょうか。人間はどうしても自動的に思考をしてしまうので、100%集中して話を聴くことができないのです。

そして、自分が集中できてないことに気づいてないことも多々あります。それなりに聴いているつもりでも、聴けていない。。。

これは、案外まずいですよね。
クライアントはコーチが聴いていないことに気づくと意欲が減退します。
コーチも聴けていない状態でセッションを続けるのですから、話が噛み合わなかったりするわけです。
※集中力が不足しているコーチは、これらのことにも気づけてなかったりします(汗

だから僕たちはマインドフルネス瞑想のトレーニングをしたりして、集中力を保てるように脳を鍛えたりするわけです。

いずれにしても、集中して聴く。言葉を聴き漏らさないように、今ここにい続けるというのが大切なことです。

そしてもちろん相手が発する言葉以外にも表情、姿勢、動き、話す声の大きさやスピード、トーンなどの非言語表現にも意味がありますので、五感をしっかり使っているとよいですね。

集中しているだけでは分からないこと

けれども、いくら集中して全部聴けたとしても、それだけで相手の話が理解できるかと言えばそうではないわけです。

「いやなんです」

とクライアントが言ったとしましょう。集中していれば言葉を聴きとることはできます。

そして「いやなんです」と聴いたら「いや」なことはわかりますよね。でも、それが何のことかは、さっぱり分からないわけです。

だって

いつ、
どこで、
だれが、
何を、
どうする、

ことが「いや」なのか?

どうしてそれが「いや」なのか?

さっぱり分からないんですから。

だから「明確化」が必要なのです。

CL「いやなんです」
CO「なんのこと?」

CL「いやなんです」
CO「何がいやなの?」

とか。当たり前ですね。

とは言え

CL「わたしもう自分のことがいやで。。。もっとポジティブに考えたいとおものに、いつも否定的なことばかり考えてしまって。。。とくにちょっと人から否定的なこと言われると。。。だから人生うまくいかないんだと思います」

くらいに情報量が増えると、ちょっとわかった気になりやすいんですね。そして例えば、目の前で話しているのが「私服の若い女性」なのか「スーツを着た中年男性」なのかなどに影響されて、勝手に相手の悩みの中身をイメージしてしまったりするわけです。

これは仕方ない部分もあります。日常のコミュニケーションはなるべくシンプルに済ませたいわけなので、少ない言葉から相手の状況を推測しながら関わっていくわけです。

でも、本当は何にもわかってないわけです

CL「わたしもう自分のことがいやで。。。もっとポジティブに考えたいとおものに、いつも否定的なことばかり考えてしまって。。。とくにちょっと人から否定的なこと言われると。。。だから人生うまくいかないんだと思います」

・もう ってどういうことなんだろう、何があったんだろう
・自分のことがいや  って何が、どういやなんだろう
・もっとポジティブ の もっと って何と比べて、どうしたいんだろう
・ポジティブに考えたい って何について、どう考えることなんだろう
・いつも否定的 の いつも ってどういうことなんだろう 本当かな
・否定的なことばかり って何をどう考えていることなんだろう

などなど、考え始めたら、実際に相手が何のことを言っているかは、全くと言っていいほどわかっていないのです。

なので、しっかりと理解をしたいと思ったら「明確化」が欠かせないわけです。

明確化のためには、まずは5W1Hの質問が使えるとよいですね。他に明確化のために便利な質問を僕は確認の質問と呼んで、使用法のトレーニングをしています。

確認の質問

使い方は以下の記事などを参考にしてみてください


本当に言いたいこと。語られていないこと

じつは傾聴のゴールは自己一致です。

自己一致とは何か?

簡単に言うと、まだ気づいてなかった自分の気持ちに気づくことです。

もしくは自分の無意識のメッセージに気がつくこと、身体が発しているメッセージに気がつくことです。

・不一致=自分の無意識のメッセージに気づいていない
・一致=自分の無意識のメーセージに気づいている

ということですね。

コーチングを受けると言うことは、自分の人生を何か変えたいということですね。
カウンセリングを受けるのは、人生で何か困ったことがあるからです。

どちらもクライアントは「このままではいけない」「変えたい」「なんとかしたい」などの気持ちがあるからセッションを受けに来るわけです。

でも本当は自分は何を望んでいるだろう。何を変えたいと思っているんだろう。。。

この辺り、わかっているようで分かっていないことが多いわけです。(僕の経験上は殆どのケースで、クライアントは自分の気持ちを理解していません。。。)

ということで、傾聴では、相手が語っていることを理解するだけでなく、

・語られていないこと
・本当は言いたいけどクライアント自身もまだ気づいていないこと

を聴きとっていくと言うことが求められているのです。

そのためには、どこに着目したらいいのでしょう?

それが相手の

・表情や姿勢、声のトーンなどの非言語表現
・それらから感じ取れる相手の感情

なのです。これらは相手の無意識の表現だからです。ここが相手の無意識のメッセージへの入り口なのです。

だから

CL「やっぱり、やります」
CO「やります って言ったときに、声が小さくなったけど、何が起こってるのかな
CL「。。。うーん。。。ちょっと勇気が出ないというか。。。」
CO「。。。。どういうことだろう」(明確化)
CL「。。。。。やっぱり。。やりたくないんだな。。。もう」
CO「言ってみてどう?」
CL「。。。。もうやりたくない。。。んだと思います」

の太字部分みたいに、相手の言っていることと、非言語がやっていることの不一致を感じたら、そこをフィードバックしたりするのです。

他にも

「気がのらないけど、やるしかない、って感じかな」
「何か悲壮感みたいなものを感じたけど、どう?」

などと、相手から感じ取った感情をコーチ側が言語化することもあります。これが反映とか感情反映と呼ばれるスキルです。

このように、相手の立場に立って、相手がまだ正確に理解していない「自分の内側で起こっていること」を知ろうとして関わる姿勢を共感的理解と読んでいます。

自己一致についてはこちらで解説しています。こちらの記事ではフォーカシングという技法を使って自己一致を進めていくやり方を見ることができます


傾聴スキルの使用例

では、以下に傾聴スキルを使って、相手の話をきちんと理解しようとしているコーチの関わりの例をあげてみます。ちょっと変わった事例ですがどうぞ!!

CO どうしたの?
CL 耳が突然聞こえなくなっちゃって
CO 突然聞こえなくなっちゃったんだ(繰り返し)
CL 少しは聞こえるんだけど。でも多分心因性だと思うんだ
CO 心因性?(繰り返しを疑問文にした明確化)
CL 疲れてるとか。。。あとはストレスかな。。。
CO疲れているし、ストレスがある。。。(繰り返し)
CL 仕事しすぎなのかな?
CO しすぎって?(明確化)
CL しすぎっていうか、仕事しかしてないというか。。。
CO 。。。。。。。(沈黙)
CL なんか楽しくないのかな
CO 楽しくない(繰り返し)
CL そう思ってなかったけど。でも楽しくないな。ずっと仕事ばかりだし。
CO ずっと仕事ばかりして。。。なんだろう。。。(明確化)
CL うーん。あぁ、しかも人には「もっと楽しめ」って言ったりして。笑
CO なんかさ、いま笑ってるけど、悲しそうな感じがしたよ(感情の反映)
CL えっ。悲しい、の、かな。。。。。。うん。なんか寂しいね。何やってんだろう
CO 人には楽しめというけど、自分のことは置き去りにしてるのかな(言い換え)
CL 置き去り。。そっかずっとそうかもな。。。自分は楽しんじゃダメみたいな。
CO ダメなの?(明確化)
CL ダメじゃないけど、最後というか。十分頑張ってからのご褒美みたいな感じ。。。
CO そっか。。。。。。(沈黙)
CL それが嫌なんだな。なんか自分は後回しで、大切にしてない。
CO 大切にしてない。。(繰り返し)
CL もう嫌なんだな。頑張ってるんだから普通に楽しんでいいんだよな
CO もう自分にも楽しんでいいよって言ってあげたいのかな(言い換え)
CL あー。そうだね。なんか休むだけじゃなく、もっと好きなことしたいんだな

※この事例はコーチングカウンセリングのゴールは自己一致のケースの傾聴バージョン(創作)です。実際のフォーカシングバージョンと比較するのも面白いと思います


傾聴スキルの解説

いかがだったでしょうか。解説していなかったスキルを解説しますね

・沈黙 
 こちらが黙っていることで、相手もゆっくりと自分の言葉を吟味したり、続きを考えたり、それを話してくれます

・繰り返し
 相手が言いたがっていそうなこと、その奥にさらに何か思いがありそうな言葉を繰り返します。そのことにより、相手はさらに深く自分の言いたいことにつながっていきます

・言い換え
 相手が言っていることをコーチがどう解釈したかを伝えること。コーチの言葉が刺激となって、クライアントの言語化が進みます

すでに解説済みの技法も2つ使われていましたね

・明確化(相手の話を明確にする関わり→確認の質問)
・感情反映(相手の非言語や感情の言語化)

さて、

上記ケースは傾聴です。こう見ると全然ただ聴いてるだけではないですよね。傾聴のスキルを用いて相手の話を聴くとこんな感じになるのです。

そしてコーチの質問やフィードバックによって、クライアントの自己理解が深まっているのがわかりますね。これが傾聴です。もちろん、クライアントがもっと長々と話すのを「うんうん」と聴いていることもあります。けれど傾聴とはただ聴いているだけではなく、このように質問をしたり、コメントをしたりフィードバックしたりすることで、

クライアントが自分の心の声を聴いていくのを助けるプロセスなのです。

開発者のカール・ロジャーズは「傾聴の目的は、クライアントが自分の声を傾聴できるようになること」という趣旨のことを言っています。

次の記事では、スキルよりも重要な傾聴の態度について解説をします。

つづく

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