教育の指針として持つと良い4つのS(後編)

 アドラー心理学では教育に関する指針として4つのSというものがあります。

①尊敬
②責任
③社会性
④生活力

教育の4S

 家庭教育でも学校教育などでもこの4つのSを身につけてもらうことを指針にすると良いのではないかと思っています。

 前編では、尊敬と責任について説明しました。尊敬とは自分へも相手へも敬意をもって接すること。責任とは自分の行動の結果を引き受けることです。これらは社会の中で、自分の人生を生きていく上で、大切な基礎となります。

 親のどのような関わりで、尊敬や責任が身につくのか、もしくは損なわれるのか、例を紹介していますので、よかったら前編も参考にしてください

 後編では社会性と生活力についてお話しします。

③社会性

 社会性とは人と協力しながら生きていく能力や態度のことです。渡したたちは社会的な生き物です。基本的には集団で生きていくことしかできないのです。ですから、人とどうやって理解し合うか、協力し合うかを学び身につけることは重要です。

 アドラー心理学では、共同体感覚が大切だと考えています。自分も含めて皆がこの社会に所属しているという感覚。皆がこの社会の大切な構成員であり、それぞれが助け合える、貢献できるという感覚です。

 現代社会では、子どもたちは早いうちから競争原理の中で育てられることが多いですね。成績など決まった指標で評価される競争の中で人と比較され、優位であることを求められるわけです。

 それでは共同体感覚がなかなか育ちません。それぞれにもって生まれたギフト(才能)があり、その人なりの自己実現の仕方、社会への貢献の仕方があります。アドラー心理学では職業に貴賎なしと考えます。共同体に必要な役割をそれぞれが分担しているに過ぎないからです。それと同じことで、皆の存在や趣味嗜好には意味があり、その先にさまざまな可能性があり、大切にされるべきものなのです。

 だから、皆がお互いの才能や趣味嗜好を尊重しつつ、必要な部分は協力しあったり、補いあうことで、豊かな社会を作っていく。そのためには競争原理から協力原理にパラダイムシフト(考え方を変えること)していくことが必要なのではないでしょうか。それぞれの良さや特性を活かしながら、皆で成長していくために助け合うことを基本とするのです。

 そのためにも、尊敬の項目でも書いたように、大人が子どもに敬意をもって接することで相手に敬意をもって接することを学んでもらうこと。そして課題の分離と言われますが、子どもの課題に踏み込まずに、子どもが自分の課題に取り組むことを見守る態度が大切なのだと思います。指示命令しない、頼まれてもいないのに教えない、教え過ぎない、考えてもらう、行動してもらう、その結果から学んでもらうのです。

 そして、頼まれたら手助けすることも大切です。できる部分はやってもらうのが基本ですが、本人が難しいと感じることは、話をきき、手伝う必要を感じる部分は手伝う。そしてそこから本人が学んでできることを増やしていくのを手伝うのです。

 私たちがこのような態度を取ることによって、子どもたちは、人を助けることの意味を知りますし、上手に助けることができるようになるのです。

 先日、3歳の息子が「幼稚園に行きたくない」と言うので話をきいたところ、園庭で砂をかけてくる友達がいたとのことでした。「嫌だと言ったけどやめてくれない。目に入って痛い」ということでした。

 まだ幼稚園に行き始めて2ヶ月目ですから、どう対処していいかわからないわけです。僕は「砂をかけられなかったら、幼稚園には行きたいのかな?」と訊ねました。息子は「行きたい」と言います。なので僕は「それなら、どうしたら砂をかけるのをやめてもらえるかを一緒に考えようか」と言いました。そして息子と一緒に、本人にどう言ったらいいか?先生にはどう言ったらいいか?を考えました。

 そして息子は3歳なりに一生懸命考えて、お友達や先生とのコミュニケーションについて考えて、行動に移しました。このように相談に乗って一緒に考えるのも手助け手伝いですし、息子がしたい工作の一部分が難しいので手伝ってあげる(かわりにやってあげる)ことなどもあります。その際もなるべく一緒にできることは一緒にやるようにしていますし、やり方を教えられそうな部分はそうすることにしています。

 頼まれたら可能な範囲で親切に関わること。自分も助けてもらうこともあるわけですし、そうやって助け合って生きていけばいいのだと学んでもらいたいのです。

 アドラー心理学では共同の課題にすると言うこともあります。本来はそれぞれが自分の課題に取り組めばいいのですが、一緒に取り組む必要があるとき、取り組んでもらいたいときは、共同の課題として協力してもらえるように要請すればいいのです。

 相手に協力を要請し、一緒にゴールとそれぞれの役割を決めて実行すること。そのような体験をすることは子どもたちが社会性を身につける格好の機会になりますね。実際に生きていく上では必要であり続けるものなわけですから。

 ちなみに僕たちがしているコーチングやカウンセリングも、本来はクライアントの課題であることを、相手から依頼を受けて一緒に考えているわけです。僕たちはそれをプロとして仕事でやっていますが、友達から頼まれて相談にのるもの同じことですね。DIY得意な人が、友達の家のことをちょっと手伝ってあげるのと一緒です。頼まれた範囲で協力できる部分だけやる。それでいいわけです。これが仲間と一緒に生きていくということですね。

 あと子どもと関わる上で大切にしたいことは、一緒に決めることと約束を守ることでしょうか。

 習い事のことでも旅行の行き先でも、今晩何を食べるかでも、可能な限りお互いの意見を言って一緒に決めてみること。そのことを通じて、お互いに意見を大切にしながら、納得のいく結論を導くことができるのだという体験を沢山してもらいたいのです。

 そしてそのときにした約束を大切にすることも重要ですね。大人のそのような態度によって、子どもは社会性というものを身につけていくのだと思います。

④生活力

 生活していくために必要な能力のことです。対人コミュニケーションスキルも大切ですし、昔の言い方だと「読み書き算盤」も生きていく上では大切です。これらも放っておいて身につくものでは必ずしもないので、積極的に身につけてもらうような関わりをすることがが大切ですね。

 学校で教科の勉強をするのも、受験のためというよりも生活力のためだと考えています。数学や科学の知識はなくても生きていけるという人もいますが、最低限の知識がないと、さまざまな情報の中で、何を信じたらいいのかの選択を間違うということが起こります。また専門的な仕事につきたいと思えば、しっかりと教育を受けることは大切ですね。

 とはいえまずは小学校、中学校の義務教育の範囲をしっかりと理解できれば、生きる力のベースとしては十分なのではないかと思います。実際には我々大人も理解の怪しい部分を持ちながら生きていますし(笑)

 だから義務教育の範囲くらいは大人の義務として、子どもたちに身につけてもらえるように働きかけ続けるのが良いと思います。そして教科の理解をするためには、生活体験というものが大切だということも忘れてはいけないと思います。

 国語の文章を読むのも、四則演算や物理法則を理解するのも、歴史や地理を学ぶのも、実際の生活体験がベースになっているわけです。小さな頃から、さまざまなものに触れ、観察したり触ってみること。植物や動物を育ててみること。いろんなものを工作してみて、動かしてみて、それがどうなるのか体験すること。いろんな場所に出かけ、その自然や文化を五感で体験すること。さまざまな人に触れ、話を聞くこと。人と一緒に何かに取り組むこと、お互いの気持ちや考えに触れること。そういったことが、世の中を理解するベースになっていますね。

 私たち大人の役割は、子どもたちにできるだけ様々な生活体験をしてもらうこと。そして体験を活用して、理論を理解し、それを応用していくことを励ますことだと思います。

 現代社会で生きていくためには、情報処理能力や外国語でのコミュニケーション能力が必要であると感じることもあると思います。いずれにしてもそのベースになるのは、相手の言っていることを理解する能力、そして自分の言いたいことを言葉にし、伝わるまで伝える力だと思います。

 だから私たち大人は、子どもが自分の気持ちや考えを「他人に伝わる言葉」にしていくことを手助けしたいのです。私たちが忍耐強く、子どもの話に耳を傾けること、そして本当に言いたいことは何なのかを理解するために確認の質問を投げかけること。私たちのそのような姿勢から、子どもは自分の考えを伝わる言葉にすることを学びますし、同時に、どのように他人の考えを理解すると良いのか、その方法を学ぶわけです。ですから私たち大人がきちっとした傾聴のスキルを持っていることは大切だと思います。よかったら以下の記事を参考にしてください

 そして、大人である私たちは、自分の考えを相手に強要することなく共有する伝え方。そして一緒に決めていくコミュニケーションのやり方も実践して、子どもたちに体験してもらう必要があります。

 一般的にはアサーションなどと言いますが、相互理解相互協力のコミュニケーションを私たち大人が学び、そして子どもといっしょに実践することはとても大切なことだと思います。※アサーションについてはいずれまとめて記事にする予定です

 まとめると、子どもがしっかりと自分の考えを言葉にできるように傾聴のスキルを使って助けること。そして子どもがそれを周りの人に伝えることを励ますこと。そのためにも私たち大人自身も自分の気持ちをきちんと言葉にして、相手に押し付けることなく伝えたり、理解をしてもらうためのコミュニケーションを子どもに対しても大人同士でも実践すること。それらが子どもが社会で生きていく能力を身につけるための重要な体験となるのです。

 そう言った意味では、私たち大人がコーチングの考え方を学び、子どもたち相手に実践することはとても大切なことだと思います。子どもたちの話を良く聴き、質問を投げかけて考えてもらい、自分の思いを社会の中で
実現する行動をとることを励ますこと。そして自分の行動の結果から学び成長できるように手助けすること。このようにコーチとして関わることが、子どもたちの生活力(社会で生きていく能力)を実践的に上げていくやり方なのだと思います。

 私たちのこのようなかかわりを通じて子どもたちが

私はできる
人々は仲間である

『嫌われる勇気』から

 と思えるようになること。そしてその感覚をベースに、自分らしく他人と協力しながら未来を切り開いて生きていくこと。それが私たち大人のフォーカスではないでしょうか

 終わり

僕たちと人生を創るコーチングを身に付けたい人は


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