中核3条件と傾聴の基礎スキル
前回の記事で解説したロジャーズの提唱する「態度」と傾聴のスキルをつなげてみましょう。傾聴はスキルより態度が大切と言われますが、スキルも知っていて、つかえたほうがもちろん良いわけです。今回はとても簡単なところからスタートしたいと思います
傾聴の7つのポイント
「一致」「受容」「共感」の態度は大切ですが、実際はどのように関わったら良いのでしょうか?このことに対するロジャーズの回答が「傾聴(アクティブリスニング)」です。今回は「傾聴」をコーチングの実践に応用しやすいように7つのポイントに分けて解説します。
コーチングでは「質問」が大事だと思っている方も多いですが、まずは「聴き方」を変えることからスタートするのがおすすめです。「聴き方」がベースなのです。ベースが出来ていなければ、良い切り口の「質問」が出来ても、相手の答えが深まっていかず、必要な気づきにつながっていかない場合があります。まずはベースとなるスキルを自分のものにするべく「聴き方」の練習に取り組むとよいでしょう。
①今ここリラックスした集中
中核3条件の「一致」と関連するものです。まずはリラックスを心がけてください。無理にコーチを演じる必要はありませんし、あなた自身であることが大切なのです。そして、自分もクライアントも含めて広く、今この場所を感じてください。リラックスしているからこそ、良く見て、良く聴いて、良く感じることができるのです。あなたがリラックスしていると、相手も緊張しにくいですし、歓迎されているようにも感じやすいです。
②心の温度をあわせる
楽しい、悲しい、緊張、興奮、リラックスなど。クライアントの心の状態を感じます。それが例えば「楽しい」であったとしましょう。「楽しい」の中にも「すごく楽しい!」や「まぁ楽しい」など温度感(ニュアンス)がありますね。それを感じとったら、コーチであるあなたも少しだけ相手の温度感に合わせてみます。少し似たような雰囲気でいる方が、相手も話しやすいですし、あなたも相手と一緒の体験をしやすくなります。一緒の体験は共感的理解の入り口です。
③ペースを感じながら相槌
あなたが相手の話に関心を持っていることを表すのに相槌が使えます。「うん。うん」「そっかぁ」「それで?」など、相手が心地よく話し続けられるようにサポートしてください。その時に大切なのは、相手のスピードやテンポに乗っていくことです。話すテンポを乱されると相手は話にくくなります。相手のペースを感じながら、そこに合わせていくことができるようになってください。
相手が話すペースは変化していきます。クライアントが自分の世界を探求し始めた時、話すペースはゆっくりになることが多いです。その時、あなたの相槌がそれに合わせて、ゆっくりと落ち着いたものになると、クライアントは探索を続けていきます。(これも共感的理解の入り口です)
もう一つ大切なことは「沈黙」への対応です。「沈黙」もクライアントのペースの一つです。それを尊重して待ちましょう。「沈黙」に耐えられず焦って質問したり、あなたの思ったことを話し始めたりしたら、「傾聴」は終わってしまいます。リラックスして穏やかに待ちましょう。必要なら相手に対して「ゆっくり話してくださいね」などと伝えても良いかも知れません。相手の話がもう終わったようであれば「話したいこと全部話せましたか?」などと確認するのもよいでしょう。
④キーワードを繰り返す
相手の話の中から、キーワード(大切な言葉、繰り返される言葉、感情が乗っている言葉)だなと思うものがあれば、あなたもその言葉をおうむ返しして(繰り返して)ください。専門用語ではバックトラック と言います。あなたがクライアントの言葉を大切に聴いていることが伝わりますし、キーワードを繰り返してもらえることで、クライアントの中で反芻が起きます。自分の言った言葉をあなたの声でもう一度聴くことで、あらためてもう一度感じなおすことができるのです。このことが話を深めて行ったり、展開させて行ったりすることがあります。
あなたがキーワードを繰り返すことによって、相手はそのキーワードと関連する話をし始めることもあります。このようにあなたの関わりによって、クライアントは内省を深めていくのです。ぜひあなた自体もその言葉の意味をさらに深く感じたいという思いを込めて、繰り返しのスキルを使ってください
⑤基本はY E S「そうなんだね」
コーチの聴き方はノージャッジです。良いも悪いも決めつけず、ただ受け取ります。「受容」の精神で、相手の話をそのまま受け取りましょう。まずは相手が話したいことを話したいように話してもらうことです。ちょっと変だな?と思う話でも、まずは相手が気持ちよく話せるように聴いていきます。その姿勢があるから相手はあなたを信頼しますし、あなたの質問も真剣に受けとめて考えてくれるようになります。逆に否定的に聴いてしまうと、相手は自分の立場により固執したり、あなたにこれ以上話すのをやめてしまったりします。
肯定的に話を聴くことと、分かったふりをすることは違います。だから話の内容が良く分からない場合には、肯定的に受け止めた上で「どういうこと?」とか「もう少し教えてくれる?」などと質問してみてください。例えば「結局全部私が悪いんですよ」「そっか。もう少し教えてくれる?」「だっていつもあの人は〜」などのように、そのまま受けとめた上でもう少し話してもらうのです。「変えようとするな、知ろうとせよ」の精神で関わります
⑥もっと知りたいから確認「〜ということ?」
「正確な共感」のためには、分かったふりを避けることが大切です。自分の理解を確認するために「〜ということ?」「〜という理解でいいかな?」などと確認してみます。この時に大切なのは、より正確に理解したいという気持ちを込めてきいてみることです。不思議なことですが、そのような気持ちできいた場合、相手が言い換えたり、補足してくれたりして「正確な共感」に近づいていきます。
相手の言ったことをそのまま要約するのでなく、自分が受け取った「相手が言いたいであろうこと」を言葉にして返してみることは「言い換え」と呼ばれるスキルです。傾聴とは、相手がまだ言葉にできていないことを言葉にしていくプロセスです。なので、相手がまだうまく表現しきれてないことを聴き取ろうという姿勢で聴くことが大切です。相手がまだうまく話せていないことを聴きとるのが傾聴なのです。「言い換え」はそのためのスキルだとも言えます
そして、相手の話が抽象的だったり部分的だったりする場合には、確認の質問を使うことも大切です。確認の質問については以下の記事を参考にどうぞ。
⑦観察からフィードバック(感情)
最後はフィードバックです。フィードバックは相手を観察して気がついた事実を伝えることです。傾聴では、相手の感情や心の動きと関連しそうなことをフィードバックすることが大切です。
感情は共感的理解の入り口です。心で起こっていることで、まだ言葉になっていないことを言葉にするのが共感的理解ですから、そのためにはまずは心の動きを押さえていくのが大切だというわけです。
「いま声が明るくなりましたね」「この言葉が出てくるの3回目ですね」「眉間が寄りましたね」などです。相手の中で何かが起こっているのを感じたとき伝えてみてください。その上で「何が起こっているのでしょう?」などと相手に返すと、相手は自分に起こっていることを探索し始めます。相手の意識が身体の体験に移ることで、大切な気づきにつながりやすくなるわけです。
ただし、十分な信頼関係が出来てないときにこれをしたり、しつこかったりすると、相手の話す意欲が下がります。使い方には要注意です。
実践例
傾聴というと、相槌を打ちながら、ただ聴いていくイメージを持っている人もいると思います。もちろんそれがベースなのですが、ここまで見てきたようにそれだけではありません
この短いパートでも
ダイエットしたいんだ(繰り返し)
太り過ぎ?(明確化/バックトラック質問)
の2つのスキルが使われています。ほとんど相手の言葉を繰り返しているだけですが、クライアントはそれを受けて話を深めていますね。
このようにクライアントの話を深めていくのが傾聴のききかたです
コーチは積極的に沈黙も使っています。コーチが沈黙すると、クライアントの手番が続くので、クライアントは言葉を紡ぎ出すことになります。
そしてバックトラック質問(繰り返しの語尾をあげて質問にする)をつかって、クライアントの発言の趣旨を明確化することを続けています。
そして
CO あきれてる感じなのかな(感情の反映)
このような関わりが反映とか感情反映と呼ばれるものです。コーチが感じ取ったクライアントの感情を言葉にして相手に投げかけています。
引き続き明確化を進める関わりをしています
CO いーね。他には?(明確化 網羅)
のように、まだ語られていない部分を網羅していくための質問も重要です
コーチは思い切った言い換えをしています。最初の「仕事ばっかりじゃなくて」の言い換えは必ずしもヒットしていませんが、それでいいのです。このように投げかけることで、クライアントが言いたかったことはより明確になりますし、コーチも自分の解釈がずれていたことが理解できるので、お互いに意味があるのです。
そして最後のフレーズでコーチングに繋げていこうとしていますね
クリアリングとコーチングに望ましい状態
「傾聴」を使って出来ることに「クリアリング」があります。「クリアリング」とは、ただ相手の話を傾聴することを通じて、相手に「クリア」な状態(スッキリした状態)になってもらうことです。私たちには「ただ話を聞いてもらいたい時」もあります。そんな時には「傾聴」の姿勢でただ話を聴いてください。そのことだけでも相手はスッキリしたり、少し気持ちが落ち着いたりします。
そしてこの「クリアリング」が出来るようになるとコーチングにも役立ちます。クライアントに気がかかりがあるとコーチングは上手くいきません。クライアントがコーチングに集中できないからです。そんな時には、まず、クライアントが話したがっていることを、ただ聴いてみます。内容は何か気になっていることについてでも、嬉しかったことでも構いません。クライアントが話をしてスッキリしたら、コーチングにスムーズに入っていける可能性が高まります。もしまだ話す必要がありそうなら、それをコーチングのテーマにしてもよいのです。
今回は、傾聴のベーシックなスキルの話でした。まだ使っていないスキルがあればぜひ練習してみてください
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