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7月は夏2個目

事務室で一人パソコンで書類を作っていると
利用者が入ってきた。

 
事務室はクーラーがついているので
作業に集中しきれずに離席した利用者が
クーラー目当てで入ってくる場合もある。

 
「今日から7月だろ?」

そう言いながら利用者は
私のそばにある卓上カレンダーをめくった。

 
書類の関係上あえて6月のカレンダーを見ていたとは言えず
「そうだね。7月だね。」と返す。

 
その利用者は事務室の他のカレンダーをチェックし
「よしっ。」と言った。
他のカレンダーはきちんと7月になっていた。

 
そして再び私の隣にやってきた。
カレンダーをめくりながら言う。

「夏も2個目だな。」

??

「6月が1個目で、7月が2個目、8月で夏が3個目。夏が終わりだ。」

 
なるほど、季節。そういう意味か。
その人は続けた。

「9月は秋1個目、10月は2個目、11月は3個目。じゃあ12月は…」

 
「冬1個目!冬スタートだね!」

私は答えた。

 
「冬スタートか。冬スタート……秋と冬が好きだから、早くスタートしないかな。」

 
「本当ね。早く秋になればいいのに。暑すぎる。」

 
「!?真咲さん、秋好きなのか!?俺と一緒じゃん!!」

私が秋が好きなのが意外だったのか
自分と同じ事が嬉しいのか
利用者の声は弾み
とてもにこやかになった。

 
そして満足気に部屋を出て行った。
まだ作業時間だから
作業室に戻ったのだろう。

 
夏2個目かぁ…そんな発想、なかったな。

 
…その人は本当に分かっているのだろうか。

夏3個目になると
大好きな施設長がいなくなることを。

大好きな秋や冬には
施設長がいないことを。

きっと寂しくなるだろうなぁ。

 
カレンダーを一枚一枚めくる彼を見ながら
夏も秋も冬もその先も
こうしてここで一緒に過ごせたらいいのになぁと思った。

 
 
福祉施設での仕事の宿命だ。

例え事務室にいても
必ず誰かしらの利用者がやってくる。

 
場合によっては話が止まらなかったり
手を止めなければいけなかったり
パソコンを中断して現場にかけつけなければいけない。

仕事がはかどらない時もある。

 
だけど何故だろう。

事務室に利用者が尋ねてきた時
私は嬉しくて
ホッとする。

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