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我が子、正和よ 栃木リンチ殺人事件被害者両親の手記/須藤光男・洋子

1999年に栃木県で起きた、栃木リンチ殺人事件の被害者のご両親の手記である。

事件当時、私は中学生で
「日産の人が殺された。石橋警察署のお偉いさんの息子が犯人で、解決に時間がかかった。石橋警察署、しょうもないな。」

そのくらいの認識だった。

 
同じく中学生の頃、通学路付近で遺体が見つかってニュースになった(ずっと昔に人を殺したことを自首して発覚した?)こともあり 

栃木県も物騒だなぁ、こんな田舎なのに。
そう思ったことを覚えている。

 
先週読んだ「加害者家族」の本で
栃木リンチ殺人事件についてチラッと触れられており
ネットで詳細を調べたら想像以上に酷たらしく
気になってこちらの本を読んでみた。

 
被害者である須藤正和さんは真面目で優しい、友だち思いな青年で
県北の田舎に生まれたらしい。
上三川町も田舎だが
黒羽町なら更に田舎だろう。
本書からもそれはよく伝わる。

前半は生まれた日のことや小さい頃の思い出を慈しむように書かれ
ところどころに写真が添えられ
ページを1ページ、また1ページめくるごとに大号泣。
こんな優しい人がなんであんな目に遭わなきゃいけないんだと思うと
両親の、生きている内にあれもこれもやってあげればよかった、という記述が
あまりにも胸に突き刺さる。
 
 
 
正和さんは高校卒業後、県内でも大企業である日産自動車の栃木工場(上三川町)に就職する。
寮生活だったが月に2回は帰宅し
毎日仕事に真面目に励んでいたそうだ。

 
ところが就職して半年ほど経った9月を最後に帰宅しなくなり
友人や同僚、家族からお金を借りるようになる。
仕事も休むようになる。

 
両親は違和感を感じる。

学生時代もぜんそく持ちでありながらわずか一日しか学校を休まなかった正和さん。
無駄遣いをせず、親が何かを買ってあげると言っても「自分で買うよ。」と言った正和さん。
長髪を好んでいたのに、久しぶりに勤務した時には坊主で眉毛もなかったという正和さん。

 
確かに本を読んでいても、何か起きたとしか思えない変貌ぶりだ。

会社や警察に掛け合っても相手にされない。
お金の催促は止まらず、最終的に監禁されている二ヶ月間に700万以上正和さん名義で借りたという。

段々と正和さんの背後に複数の男性の存在が浮かび上がり
会社や警察はアテにならないと、毎日毎日走り回り
お金を作り(お金を貸さないと息子がどうなるか分からないから)
必死に息子を探し続けてきた須藤さん夫妻は
まさに親の愛情というか執念というか
凄まじいものがあった。
前半は涙涙だが、後半は緊迫感の連続である。

結果的に
人より真面目で優しかったという理由だけで
悪い人達に目をつけられ
お金を巻き上げられ
熱湯を浴びせる等凄惨なリンチを複数人に毎日され(本書よりも具体的内容はネットや黒木昭雄著の「栃木リンチ殺人事件」に描かれている)
殺されてしまった正和さん。

 
被害者も加害者も(お金を巻き上げられた同僚も)日産自動車勤務だった故
組織から「面倒はごめんだ」とばかりに切り離され、見捨てられてしまう須藤さん家族。

主犯格の加害者の父親が警察署に勤務していたのも手伝って、警察も積極的に動かない。

 
事件は須藤さん夫妻の執念と、加害者グループ末端の少年自首により大きく動くが 
あまりにもひどい事件だ。
事件発覚後の石橋警察署、日産自動車、加害者、加害者家族の言動は
愛息子を殺された須藤さん家族の神経を逆なでする。

読んでいて本当に腹立たしかった。

 
私の知人も悪い人に脅されてお金を奪われた、と昔聞いたことがある。
渡さなかったら殴られた、と。
その知人も真面目で大人しく、優しい人で
その話を聞いた時に思った。

そういう人に絡まれた時、どうやったら被害は最小限で済むのか、と。

栃木リンチ殺人事件の後のことでしたから
私は地元の栃木の警察への信頼度が下がってしまった。
 
 
また
昔、夜に我が家に幼い子どもが迷い込んできて保護したことがあるのだが
警察からはうちの家族が誘拐犯だとまず決めつけられたのが気に入らない(栃木の警察よ…)。

推測するにうちは住宅街でたくさん家があるが
その子がわざわざうちを選んだのは
我が家の灯りが温かかったり、家族の声が大きかったり、窓から人の姿が見えたか何かで
歩き疲れた時にふっ……と引き寄せられたのだ。

結果的にはその日の内にその子は親元に帰れたのだが
親は子どもがいなくなったことにすぐには気づいていなかったのだ。
うちの家族より先にそちらの家族のあり方について何かしらを思ってほしい。

 
警察は縦社会。
「事件にならないと動かない」のが警察。
警察全員がこうではないのは分かっている。 

だけど救いの手を伸ばした時に警察が動いてくれなかったら
もしも自分の身内が正和さんだったとしたら
どうやったら今回の事件を防げたのだろうか。
 
本当に悲しい、忘れてはいけない事件だ。

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