見出し画像

お弁当を落とした人への言葉

毎週月曜日は利用者と共に
スーパーにお昼を買いに行く。

買い物やお金の使い方を学ぶ為だ。

 
どのお店に行くか
誰と行くかはその日によって違う。

気持ちを伝えられる人はその人が行きたいお店に行き
難しい場合は職員体制によって
施設長が割り振りをする。

今回は施設長が他者と雑談をしていて
確認がなかなかとれず
全体的に出発が10分遅くなった。  

 
私は歩くことが一番ゆっくりな方と二人で
遠くのスーパーに行くことになった。
 
その人は自分の気持ちを言葉に出せない。

 
内心
私はその人にはそのスーパーは遠いと思っていたし
同僚はそれを口にもしたが
施設長が「行けるよ。」と言い
決定は覆らなかった。

 
出発が遅れただけでなく 
その方はショートカットの道を嫌がり
遠回りの道を選んだ。 
更に、いつもより足取りも重い。

他の利用者となら片道30分で行ける場所に
一時間かかって到着し
私は途方に暮れた。

施設に戻る目安は11:45。
私達がスーパーを出たのは11:36だった。

 
私達以外の利用者や職員は施設に戻っていると思うと
私は急かされているような気分になった。

早く戻らなければいけない。

だけど
利用者に急ぐ気配はない。

  
誰か迎えに来てくれないかな…

と思いながら
また来た道を戻った。

 
疲れが出たのだろう。
帰りは更に利用者の足取りは重かった。

職員グループLINEに戻りが遅くなりそうなことを伝えたが
誰からも返信はない。

 
やるしか、ない。

 
 
二人で手を繋ぎながら
とぼとぼと道を歩いた。

 
あと20分くらい歩けば施設に着く…
 
と思った時
私は驚愕した。

 
利用者が持つエコバッグの中に
お弁当の中身は全てこぼれてしまっていたのだ。

 
私は半泣きになった。
全てが無駄になった気がした。
責められるとも思った。

 
施設長に連絡したら
近くのコンビニでお弁当を買い直すように言われ
私達はコンビニに寄った。

 
コンビニにはその人好みの物がなく
選ぶことに時間がかかった。

そんな時に
施設長から連絡が入った。
今から同僚が迎えに来てくれるらしい。
 
  
なんとかお弁当を選ぶと
レジで利用者が店員さんに
エコバッグを差し出した。

内部がお弁当だらけのエコバッグだ。
 
 
一目見て障害者と分かったのだろう。

店員さんは「入れましょうか?」と笑顔で言ってくれた。
店員さんはバッグの中にお弁当がひっくり返っているとは咄嗟に気づかなかった。

 
私が慌てて一部始終話したら 

「それは大変でしたね。帰り道、気をつけてくださいね。」

と言われた。

思わず泣きそうになった。

 
 
コンビニを出て駐車場で少し待つと
同僚が車でやってきた。

私はホッとした気持ちと共に
情けなさや不甲斐なさが込み上げ
下を向いた。

迷惑をかけてしまった。
お弁当もダメにしてしまった。  
お金も無駄にしてしまった。  

 
私は内心落ち込んでいた。 
  
 
 
 
そんな私に同僚は言った。

 
「焦りましたね。」

 
思いがけない言葉に私は顔を上げた。

 
「あそこのスーパーはちょっと遠いですよね。」 

「私もその人と前に一緒に買い物行った時、アイスを片っ端から触りだして焦ったことがありましたよ。」

 
その人は私を励まそうとしたのだろう。

私が未熟ではなく、誰にでも失敗はあるのだと言いたかったのだろう。

 
車内で同僚の優しさに触れたり
同僚と話したことで
私の心はあたたかくなった。

 
だが
戻ってからは
施設長から支援不足なことを指摘され
私は再び自分が情けなくなった。

そして
気持ちが上向きになれないまま
空元気で仕事を続けた。

 
施設長からは
あぁした方がいい、こうした方がいいと言われてばかりだ。

さぞかし私は
何もできない職員と思われているだろう。
   
  
 
 
施設長が会議で不在な夕方
他の同僚とその件の話になった。

 
そしたら
他の同僚はこう言ってくれた。

「私が一緒に買い物行く時も、お弁当斜めになってるよ。」

「俺だってあるよ。真咲さんだけじゃないって。」

「エコバッグ振り回すの好きだしね。斜めに持っちゃうし。」

「そもそも、(施設から指定された)エコバッグ、使い勝手悪いんだよね。お弁当とサイズがあってなくて隙間できちゃうし。」

 
 
「だから真咲さんは施設長に言われたこと、気にしなくていいんだよ。」

 
 
「今日は仕事終わり!さ、定時でみんなで仕事上がろう!」 

 
私は同僚と共に定時で仕事を上がった。
心は確かに軽くなっていた。


   
  
仕事でミスをした時
誰よりも自分で自分を責めてしまう。

そんな時に誰かから正論を言われてしまうと
更に自分を責めてしまう。

 
だけど
誰かの優しさや言葉によっては 
心は軽くなる。

そして
注意された時よりも優しくされた時の方が
もっと頑張ろうと
前向きになれる。

人はそういうものだ。
 
 
 
私は人の痛みに気づき
人に寄り添う人でありたい。

 
そして、今週も仕事を頑張りたい。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?