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ミルク・アンド・ハニー/村山由佳

この作品は「ダブル・ファンタジー」の続編だ。

 
夫との平凡で窮屈な生活を捨てた脚本家の高遠ナツは
様々な男性に惹かれ、体を重ねてきて
物書き志望の大林と恋に落ちた。

 
それが「ダブル・ファンタジー」の大雑把なあらすじだが
今作は大林との同棲から話が始まる。

なお、まだ離婚は成立しておらず
旦那も、ナツと大林の同棲を把握している。

 
というのも
ナツと旦那の関係は稀なのだ。
セックスレスな夫婦は割とよくある話だが
ナツの場合、旦那公認で他の男性と関係を築いてもいいのだ。
それがいい脚本に繋がるなら、と。

 
ナツは売れっ子の脚本家で
旦那は家事全てを引き受け
懸命にナツを支えている。
反面、ナツの仕事を選んだり、仕事に口出しはしてくる。

そしてセックスレス。
おざなりなセックスに不満だったのだ。

 
ナツはそれが耐えられなかった。
彼女は性欲が強く、性への探究心が強いから。

 
村山由佳さんというと、「天使の卵」や「おいしいコーヒーの入れ方」シリーズが有名作の一部であるし
それらは透明感のある瑞々しい恋愛や青春物語のような印象がある。

 
昔はそんな印象の村山由佳さんは近年
女性の性をテーマとした作品を世に生み出している。

 
謂わば官能小説のようなそれを読んだ方は
ギャップに驚くかもしれないが
どちらの作品も村山由佳さんの一部であり、全てなのだろう。

近年になって書いただけであって
もともと性への思い入れは強い方だったのだろう。

 
「ダブル・ファンタジー」と同じように
様々な人と体を重ね
出会いと別れ、再会を繰り返すナツ。

 
大林は仕事も家事もセックスもせず
優しくもないどうしようもない男性で
そんな人早く別れればいいのに、と読んでいる人は何度も思うだろう。私も何度思ったか分からない。
ナツが浮気するのも分かる。

 
647ページという分厚い小説の中で
ナツはずっと体を満たす何かを探していたけれど
本当はただ、寂しかっただけなのだ。
キリン先輩が言ったように。

キリン先輩や従兄弟の武のように
ありのままで話せる相手なら楽なのに
好きになるのはダメンズばかりなナツ。

 
恋人がいても、家族がいても、性の衝動に逆らえないナツ。

 
私は自分とナツを重ねた。
姉や友達からもよく、私はダメンズばかり好きになると言われたし
実際自覚もある。

 
女性で性欲の強さはあまり表に出してはいけないような、はしたないような考えが未だに世間ではあるけれど
私は自分の性衝動に正直に生きてきた。
ナツにだから共感するのだ。

もっとも、私は誰かと付き合っている時に
同時進行で誰かと体を重ねたりはしなかったが。

 
心が満たされないと辛い。
体が満たされないと辛い。

それはきっと
誰しもが感じたことのある感情だ。

 
いい人だけでは惹かれないのがやるせない。
むしろ、ちょっと悪い人の方が惹かれてしまうのはなんでなんだろうか。

 
 
「ダブル・ファンタジー」「ハニー・アンド・ミルク」がジョン・レノンとオノ・ヨーコの共作アルバムのタイトルと
私は本文を読んで初めて知った。

そして、私はこの二作を読んで気づいたのだ。
あぁ、ナツは村山由佳さんの化身なのだと。

 
だから本文を読み進めていくうちに
この人とはこうなって
あの人とはこうなるのだと
私は気づいてしまった。

 
だって私は村山由佳さんが今
どこで誰と暮らし、幸せなのかを知っているから。

Twitterをフォローし、知っているのだ。

 
村山由佳さんは軽井沢に住み
ナツは長野に住んでいる。

 
そして村山由佳さんもナツも母親が大変厳しく
それにより、本音を飲み込む性格になってしまった。

 
…うん、そこで気づくべきだった。

 
ナツは長い長い長い時間をかけて
ある人に出会い、ようやく満たされた。

 
それはまるで、シン・エヴァンゲリオンでシンジくんがマリと駆けだした瞬間を彷彿させた。

 
 
これは余談だ。

エヴァンゲリオン時代、庵野監督はまだ未婚だったが
やがて結婚した。
それから作ったのがシン・エヴァンゲリオンだ。

 
シンジくんがレイでもアスカでもなく
最終的に新キャラであるマリと上手くいったのは
つまりはそういうことだ。

 
庵野監督の奥さんはマリに似ているのだ。

 
物語の作り手は
自分を反映させることもある。

村山由佳さんや庵野監督のように
私もいつか出会えるのかな。

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