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真岡りす村が閉園する話(栃木県真岡市)

栃木県真岡市にある真岡りす村が閉園を発表したのは
2020年9月のある日のことだった。

コロナによる経営不振により10月いっぱいで閉園するという記事が
ネットニュースに載っていた。

 
 
私は幼い頃に家族で一度りす村に行ったらしいが
記憶には残っていない。
運転中、真岡りす村の看板は見ていたし、存在は知っていたが
あえて行くことはなかった。

 
「真岡りす村は小さくてしょぼい。」

 
そう周りの人からよく聞いていたからだ。

実際、職場で他事業部の利用者と職員で数年前に行っていたが
あまり利用者からも反応は良くなかった。
抱き合わせで行った、益子焼や大前神社(日本一大きなえびす様が祀られている)の思い出ばかり利用者は話すし
写真にも真岡りす村はあまり写っていない。

姉は昔旦那さんとデートで行ったらしいが
旦那さんの手袋を動物に奪われた話しか聞かない。

 
 
真岡市には、井頭公園という巨大な公園がある。

そこは巨大な池があって、ボートに乗れる。
バラ園や植物園、アスレチック、サイクリングも楽しめるし
ウォーキング・ジョギングコースも一周4kmである。
運動場や一万人プールも敷地内にあるほど巨大な公園で
リス注意の看板があちこちにある。

りす村は有料だが
井頭公園は散策のみなら無料だ。
わざわざ、りす村にまでりすを見に行く必要はない。

 
井頭公園の近くには温泉やいちご狩りができる場所もある。
真岡鐵道という、鉄道や電車好きな人にはたまらないスポットもある。SLがあるのだ。
大前神社という、日本一大きなえびす様が祀られている神社もある。宝くじが当たると大評判の場所だ。

 
そんなわけで、真岡市に行くとなると
ついつい他の場所の方が脚光を浴びてしまいがちで真岡りす村はいまいち地味だった。

 
そんな中、コロナウィルスによる外出自粛が堪えたのだろう。

 
 
 
現金なもので、閉園するならば最後に一回行っておこうと思った。
最初で最後の真岡りす村だ。

 
私はりす村が井頭公園近くと認識していたが
実際調べてみると近くはなかった。
むしろ、大前神社の真裏のような位置だった。

 
益子町の陶器市目当てで、毎年大前神社に立ち寄っていたのに
例の真岡りす村が真裏にあるなんて気づきもしなかった。
灯台下暗しである。

   
 
コロナウィルス対策のため、なるべく晴れの日、平日に出掛けようと思っていたが
関東は10月になってぐずついた天気が続いた。

 
どうせ真岡りす村に行くなら
井頭公園や大前神社も行きたいが
なかなか晴れないまま時は過ぎていった。

 
天気予報でようやく晴れ予報を見たある日、私はついに真岡りす村に行くことにした。
ついでに、真岡りす村付近の和菓子屋さんがTwitterでバズっていたので、そちらも行くことにした。

 
地理的なことと、和菓子を持ち帰ることから
井頭公園→真岡りす村→大前神社→和菓子屋に行くことを計画し
張り切って自宅を出発をした。

 
 
その日は朝から気持ちの良い晴れで、私はウォーキングシューズを履いて井頭公園に着いた。

公園は8:30からやっていて
私が着いた9時頃には、すでにたくさんの人がウォーキングしていたが
公園は広いのでソーシャルディスタンスはバッチリである。
 
 
井頭公園は大きな池があり、池の周りをぐるっと歩くだけでいい運動になる。
緑が美しく、あたたかな陽射しが心身にパワーを与えてくれる。
小魚や鯉や鴨や亀やトンボ等
散歩をしていると様々な生き物が視界に入る。

 
生き物を見つけては、じっと立ち止まる。
アメリカザリガニの抜け殻もあった。
この小さな広い世界に、様々な生き物が生き、四季を巡っている。


足元にはドングリや栗も落ちていたし
歩いているとドングリが勢いよく落下して私の肩にぶつかった。
ドングリが地味に痛かった。こんなにドングリが痛いとは、それもまた新発見だ。
彩りの葉が地面に落ち、また少しずつ葉の色が赤く染まってきた。
秋だなぁとしみじみ感じる。

 
朝の散歩は気持ちいい。
駐車場に戻る頃には、すっかりいい汗をかいた。

 
 
 
 
 
お次は本命の真岡りす村である。
正式名は真岡りす村ふれあいの里というらしい。
りす村というが、りす以外の動物もいるらしい。

井頭公園から細道を走ると、ややレトロなテイストの建物や門が見えてきて場所が分かったが
駐車場がどこだか分からず、徐行する。

道が狭い。一通である。

駐車場とおぼしき場所を見つけて駐車したが
なかなかに狭いし、バック駐車しようと一旦前まで進むと溝に真っ逆さまになりそうで怖い。

 
大前神社裏手側だが、やはり立地もあまりよくない。
分かりにくい場所なのと、一通の道や道の形から走りにくさや行きにくさを感じた。

 
車は既に何台か来ていた。
おそらく私と同じように、閉園を惜しんで来た方だろう。

 
駐車場横のりす村の建物に近づくと、チケットは別場所で販売していると看板に書いてあり、また係の人にも言われ
私は看板に従って道路を渡り
レトロな門をくぐった。

 
門をくぐると、レトロな動物やアニメキャラクターの石像が通路両脇で出迎えた。
苔から年季を感じた。
活気づいた様子は見られない。
看板に従って門からトボトボ歩く。

 
小さな池には鯉がいて、鴨やアヒルがいた。
フェンスや看板はくたびれている。
野外のトイレもあまりキレイではなく、全体的に日が差し込まずに暗い。

ちょうど先程井頭公園を歩いたから尚更
真岡りす村との雰囲気の差を感じた。
門からチケット購入場所まで1kmほど歩く中、私はどんどん気落ちしていった。

 
ようやく、チケット購入場所とおぼしき場所に着いた。
足の消毒をセルフでやる場所があり、行った。
受付の向かい側では、激しい工事の音や振動が響く。
どうやら子供用の乗り物や遊具を撤去しているらしい。
おびただしい瓦礫の横にトラック等が止まり、男性複数名が作業をしていた。

あと数週間で終わる。

それを感じずにはいられなかった。

 
 
受付がある建物は、子供用の乗り物とウサギとモルモットがいる小屋で
男性二人が、乗り物のチェックをしていた。
チケット購入売り場には人がいなかった。

「すみません。チケット売り場はこちらですか?」

男性二人はチラッとこちらを見て
目をそらして作業を続行した。
無視された!?

「あのー…すみません」

と私が言ったところで
気怠そうに女性が「チケット購入はこちらですよ。」とぶっきらぼうに言う。

チケット代を渡すと無言でチケットを差し出し、その女性は受付の奥にさっさと消えていった。
その場に私しかお客さんはいないというのに。

 
 
モヤモヤしたが、気を取り直して受付近くのウサギと戯れていた。
ウサギはお腹が空いているのか、私を見るとみんなが激しく主張した。
一匹一匹が錆びた小屋に入り、なんとも切ない気分になったところで
先程の女性が「そっち立ち入り禁止ですけど。」とだけ告げた。

いや、それは先に言ってくれ。

確かによく見ると、足元に手書きで小さく立ち入り禁止が書いてあったが、私は気づかなかったし
10匹以上と戯れてからヒョイと顔を出されて注意されるのは不快だ。いや、私が悪いのだけど。

 
ウサギのスペースには、使わなくなった子供用の遊具がギュウギュウに押し込まれていた。
確かにあと数週間で営業終了だが、受付でこれを見させられると更にテンションが下がる。

 
見れば、受付の人と遊具作業員が談笑していた。
仕事の話かもしれないが
接客態度に私はモヤモヤしていたので
他にお客さんがいる中で談笑はどうなんだと更に苛々した。

 
モルモットふれあいコーナーには数百匹のモルモットが野外の小屋にいた。
日当たりが悪いせいか、ほとんどのモルモットが寄り添うように端っこに固まっていた。
なんだか可哀想になって、触るのもどうかと思い、そのコーナーから離れた。

モルモットコーナーは死角であり、その時は私一人である。
大人だから大丈夫なのかもしれないが、係が誰もつかないことに疑問を感じた。

 
彼らはまだ談笑している。

 
 
入園料が700円でなかったら、もう帰っていたかもしれない。

もともと、個人的に真岡市にはあまりいい印象はなかった。
たまたま仕事で関わった人複数人がみんなクセがあり
真岡市の人は冷たいという印象があった。
真岡市民全員が冷たいのではないと思うが
たまたま色々な場面で、なんとも言えない思いを私がしたのだ。

私はヤギや羊エリアに行った。
やはりこちらも死角であり、係の方はいない。
動物にお客が何をやってもバレない防犯システムに疑問を感じたが
まぁ係の方がいてもあの態度じゃ、いない方がマシだろう。

 
ヤギは私を見掛けると近寄ってきた。
ヤギの背中には赤とんぼが止まった。秋を感じた。

 
 
 
ヤギや羊を見てから、別のエリアを目指す。

真岡りす村はコースが枝分かれしていて、動線が分かりにくい。
これもまた、廃れた要因でもあるだろう。

 
 
犬とヤギがいるであろう巨大なフェンスを覗くと、動物はみんな遠くにいた。
付近に飾られた巨大看板には「頑張ろう真岡」だか「一歩踏み出せ」だか長々とメッセージが描いてあったが
私には全て空しく思えた。

もうここは、閉園する前から終わっている。

 
そう内心冷めていた私の元に、小柄な年配の方がいらっしゃった。
服装や、両手に箒や草を入れた袋を持っていることから察するに、係の方のようだ。
また不躾な態度なのだろうか。

「いらっしゃいませ。こんにちは。ようこそ、りす村へ。」

その方はニコッと笑いながら言い、私の元へより近づいた。

  
 
そして犬とヤギについて説明したり、犬やヤギを私に見させようと近づかせてくれた。

 
「こちらにはダチョウがいますよ。」

 
その方は、笑顔で私を案内した。 
確かにダチョウである。
何頭も何頭も巨大なダチョウがいて、私はおののいた。

「あんまり近づくとくちばしでやられてしまいますので、近づくのはこちらまでにしてください。」

その人はキチンと注意点を口頭で伝えてくれた。

 
 
ダチョウは私の姿を見ると、檻をくちばしでカンカンつつきだした。
怒っているのだろうか。

「この子らは、くちばしで遊んでいるんですわ。ご機嫌なんですよ。」

そう教えてくれた。

 
 
個人的に、お気に入りの一枚である↓
(何故か写真が横表示になってしまう)

 
この前、ヤギの赤ちゃんが生まれたことを教えてくれたり、ダチョウの向かい側にいたミニチュアホースを呼び寄せたりしてくれた。
私がミニチュアホースを見ていると、「これはダチョウの卵なんですよ。」とダチョウの卵を持ってきてくれて、触らせてもらった。
ダチョウの卵に触るのは初めてだった。
噂には聞いていたが、想像以上に大きくて重い。

係員「りすはこれからかな?来た道をそのまま戻ってお進みください。楽しんでいってください。」

 
私「ありがとうございます。こちらで働いて長いのですか?」

 
係員「いやいや、ただのアルバイトですよ。」

 
私「今日はお忙しい中、丁寧に対応していただきまして、どうもありがとうございました。」

 
 
私がダチョウの檻から離れる際、その方は仕事があるのだろう…私に会釈をし、その場を去った。
年齢70歳前後だろうか。

私はその人の後ろ姿を見ながら、なんとも言えない気持ちになった。

 
その人は、かつて私が職場で一緒に働いていた70代の方を彷彿させた。
あの人も小柄で、正職員ではなかったが…正職員並、いやそれ以上に熱心で真面目で信念を持って働いていて、朝早くから夜遅くまで働いていた。
私の父親のような存在というか、実際私と同い年の娘がいるらしいから、私を娘みたいに思っていたかもしれない。
私が理不尽な退職になった時、激しく怒ってくれて、そして退職後の私を心から心配し、また応援もしてくれた。
私はあの人が大好きだった。

不意に寂しくなって、涙ぐんでしまった。
退職してからあの人には会っていないし、連絡もとっていないが
元気にやっているのだろうか。

 
 
私の足取りは明らかに変わった。
軽くなったのだ。

その係員が丁寧に接してくれたことで、心は上向きに変わった。 
先程来た道を逆走しているだけなのに、晴れやかな気持ちで動物や鯉を見ることができた。
私は単純だ。

近くには親子が二組いた。
3歳くらいの子どもや6歳くらいの子どもが無邪気に鯉にはしゃいでいた。
その姿を微笑ましく思った。

もうすぐ真岡りす村は閉園する。
だけどまだ、終わりじゃない。

 
私は二組の親子とすれ違うような形で先に進み
りすがいる建物に向かった。
建物の前では、石像のりすが出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ。どうぞお入りください。」

促されるまま、私は建物の中に入る。
入り口そばにはカラフルなインコ等がいて、私を出迎えてくれた。

 
 
入り口を通り抜けると、りすがたくさんいた。

各ゲージにりすが一匹ずついて、ちょこまかと動き回っている。
かわいい。かわいくて、速い。
とにかく写真を撮ろうとするとぶれた。

 
私の他にお客さんが5人くらいいた。
各グループはキャッキャしながらりすに餌をやったり、写真を撮っている。
私もりすには餌をあげよう、と100円をガチャガチャに入れる。
ヒマワリの種が出てきた。
軍手を着用し、ヒマワリの種を持つ。

  
りすエリアには係員の方が二名いて、先程挨拶した小柄な方も後から加わった。
私は軽く会釈すると、その方がヒマワリの種を少しオマケでくれた。
優しいな。この人。

「普通に写真撮るとブレるから、餌をあげた瞬間の方がよく撮れるよ。」

と教わり、なるほど、確かに餌を食べている間は比較的ブレずに撮れた。
ただ、両手に軍手をしているし、左手はヒマワリの種を持っているので、なかなかに時間ロスをする。
りすは食べるのが速い。

「よかったなぁ。かわいい人にかわいく撮ってもらえて良かったなぁ。
もう最後ですから、どうぞたくさん撮ってあげてください。かわいい写真、残して下さい。」

係員の方は笑顔だったけど、私はその言葉を優しく感じつつ、寂しかった。

 
りすやプレーリードッグは建物の中にいるが、建物を抜けると外のエリアに繋がっていて
別の種類のりすもいた。灰色っぽいりすだ。
外には、小動物用の遊び場のエリアがあった。

きっとここで運動させたりもしているのだろう。
だけど、ここを走り回れるのもあと数週間…

 
私が少しセンチメンタルになっている時、一般客の方が「閉園したら動物達はどうなるんですか?」と聞いていた。
私もそれは気になっていたので、顔をそちらに向ける。
係員の方の話によると、近隣の動物園等に引き取られるらしい。
「あ~よかった!気になっていたんです。」とその方は言い、私は心の中で同じ事を思った。

 
ネットニュースでは閉園について触れていたし、そこで働く人の処遇は検討としていたが、動物については一切触れていなかった。
それにより、「動物はどうなるんだ?」という意見や怒りがネットに溢れていた。
「受け入れ先は決まっていないらしい」という噂もあり、私も気になっていたのだ。

 
 
外のエリアにはしまりすの小屋があり、係員の方が案内してくれた。
しまりすの小屋は人数制限があるらしく、たまたまその時は私だけだった。

「しゃがんで、ヒマワリの種を差し出してお待ち下さい。」

私は係員の方の指示に従い、そのようにすると
小屋のあちこちにいたしまりすが私のそばにやってきて
餌を食べたり、足元でじゃれたり、肩に乗ったりしてくれた。

か、かわいい………!

胸キュンである。
りすはこんなに人懐っこかったのか。

 
 
係員「お客さん、りすが体に乗って嫌じゃなかったですか?」

 
私「かわいくてたまりません。」

 
係員「それならよかったわ。人によっては、爪が痛かったり、体に乗ることを嫌がるから…。」

 
その人の横顔が少し寂しそうだったのは、おそらくそういったお客さんから心ない言葉を言われたり、その様子に心痛めたからだ。
きっとその係員の方が、しまりすを好きだからだ。

 
 
 
しまりす小屋を出ると、青空が頭上に広がっていた。

係員「閉園のお知らせをしてから、土日はものすごく混むから、今日来られたのはよかったと思います。」

 
私「10月いっぱいですしね。」

 
係員「人がたくさん来ちゃうと、私達は飲まず食わずで業務に当たります。でも、もう最後だから……遠くからわざわざ来られる方もいらっしゃいますし、せっかくなら皆さんに喜んでいただきたいんです。

動物と触れ合っていただきたいんです。だから、休憩がなくても平気なんです。」

 
係員「今日はありがとうございました。お気をつけてお帰りください。」

 
 
私は真岡りす村を後にした。 
涙が込み上げた。

ダチョウの係員の方…そして、りす担当係員の方は、動物やお客さんに真摯に向き合っている。
だけど、皆さん年配だった。

真岡りす村がなくなるということは
彼等が仕事を失うということだ。

 
また新たに別場所で働くのだろうか。
それとも、これを機に仕事から手を引くのだろうか。
年齢から察するに、なんとなく、後者な気がした。

  
ちくしょう、と思った。
雑な対応をした人達は彼等より若かった。
次の仕事は決まりやすいだろう。もう決まっているかもしれない。

だけど、動物とお客さんを大切にしている彼等は多分………
10月いっぱいで終わるのだ。
閉園と共に、色々なことが終わりを告げるのだ。

 
終わりムードが漂う中
最後だからと手を抜く人。
最後だからこそ、仕事により向き合う人。 

真岡りす村はそんな係員の方が混雑していた。

 
 
解体工事の音は帰り際も響いていた。

私はもう、これで真岡りす村には行かない。
最後だ。
ありがとう。

さようなら。

 
 
 
 
私は車を走らせて、大前神社参拝へと向かった。
大前神社では、転職が上手くいくことをひたすらに祈った。

 
帰り道、私はTwitterで話題になっていたかわいらしい和菓子を購入した。
動物を愛でたり、動物の形をした和菓子を食す。

そんな動物尽くしの一日だった。

(御菓子司 紅谷三宅さんの和菓子です)

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