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作業がないと余裕もない

障害者施設で働く職員の悩みの一つが
作業がないということである。

 
自社製品を作る場合であっても
下請け作業をする場合であっても
納期や売れ行き、職員体制、本人の能力ややる気の関係で作業が途切れるという経験を
必ず誰もが経験したことがあると思う。

 
最重度の利用者はともかくとして、今は障害者の自立や権利が叫ばれている時代であり
重度や軽度の利用者及び保護者は
特に保護者は
作業を望むことが多い。

 
しかし現実問題
様々な作業ができる利用者はほんの一部で
ほとんどの利用者ができない工程が多く
その一部の方と職員に作業が集中しがちだ。

 
最近、あまり作業が忙しくない。

自社製品作りも忙しくないし
下請け作業も忙しくない。

 
毎日全利用者に作業を確保することはなかなかに頭を悩ませる問題だが
なんとか工程を増やし
簡単な工程を増やし
重度の利用者に作業を提供している。

 
利用者のAさんは真面目でやる気はあるが、作業が苦手でほとんどの作業ができず、やるごとに雑になったり、不良品を作りやすい。

落ち込みやすいため、あまりハッキリとは伝えられない。

Aさんは真面目なので、周りが作業をしていると自分もやりたがるが、こちらは提供できる作業が限られている。

 
重度の利用者の場合なら
作業を短時間だけして余暇活動をするのも手だが
Aさんは余暇活動もできることが少ない。

テレビやDVD、音楽に興味がないのがなかなかにキツい。
運動も集中が続かない。
他のことも集中が続かない。

 
でも、本人は何かをやりたがる。
職員にかまってもらいたがる。

という、悩ましいところがある。

 
作業がある日ならばいいが
こうして作業が忙しくない日が続く時期は
いかに満足してもらうかが課題となる。

 
ある日、Aさんに某作業をお願いした。私が担当だった。

すぐに終わる作業を、工程を分けて時間を稼いでいた。

 
そこに、好奇心旺盛で多動のBさんがやってきた。
BさんはAさんの作業を奪った。
Bさんはスピードが速い。

好奇心旺盛だ。
やりたくなったのだろう。
作業が遅く、あまりよくできないAさんに、Bさんなりの優しさで手伝ってあげているのもあるだろう。

 
だが、私からしたら、Aさんからしたら、奪われたも同じだ。

 
Aさんはいい気はしないし
私にしてもそんなことをされては非常に困るのだ。

「Bさん、〇〇の仕事やってもらえない?」

障害がある方にはあまり「ダメ」とか「やってはいけない」とか否定的なことは言わない方がいい。

 
こうした提案に一旦Aさんは自分の任された作業に戻ったが
その後も離席をし
何度か来た。

 
更に私が焦ったのは、AさんがBさんが苦手だからだ。

 
Bさんは不穏になりやすく、機嫌が悪くなると物を破壊したり、破壊しようとしたり、暴言や危ない行動が目立つ為
Aさんは警戒していた。

今はケロッとしていたが
前日Bさんは派手に暴れたばかりだからだ。

 
何回か、仕事を奪われたところで(本人的には手伝っているのだろうが)
Bさんはふざけて作業資材を壊しだした。

 
それまではやんわり提案していた私も
Bさん担当の職員も
それに焦って咄嗟に壊さないように「それはAさんの仕事だから壊さないで。」と本人の行動を否定してしまった。

 
それに火がついたBさんは
不穏になり、更に激しく壊しだした。

 
Bさんは注意されると逆切れして、注意された原因であるものを壊す傾向がある。
一度壊し出すと、止めるのは容易ではない。

リーダーは壊したもの、壊そうとしたものをあえて全てBさんに渡し、好きにしたらいいと伝えた。

 
私はそれで冷静になった。

そうだった、大切な素振りをしたら逆効果だった、と。
知らんぷりをしているくらいの方が飽きやすかったのに、と。

私は対応をしくじった。

 
だけど、私は内心こうも思った。

前の職場なら、作業(資材)を大事にしない人は作業をやらせなかった。
余暇活動ならまだしも、作業資材だ。お金をもらうものだ。

それを悪ふざけで壊す人を怒ってはいけないのだろうか。

 
前の職場なら許さなかった。
何か悪いことをしたなら、利用者が謝るまで許さなかった。

 
だけど今の職場はBさんにはそれを求められない。
落ち着いた時に蒸し返して逆切れされても嫌だし、大変なことになる。

血がのぼっている時はこのザマだ。

 
手伝っている時にもう少し先手を打てたらよかった?
でも、別室で作業しても距離を置いても
勝手に部屋に入ってくる。

鍵をかけようものなら
扉を今まで何回も壊された。

だから、私やAさんが鍵のかかった部屋でやることさえできない。

 
この転職先では、謝罪を強く求める私のやり方は通じない。
挨拶とありがとうとごめんなさいが大切だと、前の職場では何度だって言えたのに。

 
Bさんも、Bさんの保護者も作業を望んでいる。
そのことにフゥ、とため息を吐きたくなる。

その日はそうだった。

 
前の職場ならば、重度の利用者も集中して真面目にやっていたのに。
利用者ができる工程がほぼ毎日あったのに、と。
 
だけど私は転職したわけだし
役職も責任者からただの下っ端職員になったわけだし
何ももう言えない。

言えない。

 
私の職場は職員のお昼の席が自由だ。

「一緒に食べようよ。」

屈託のない笑顔でBさんが私に言う。

もちろん、作業資材を壊した件を謝ることは全くない。

 
それに内心腹を立てる私は器が小さいなと思う。
思っても、内心イライラした。

 
私はその日、Aさんの横で給食を食べた。
Bさんには刺激を与えないよう、隣で基本的には食べないことになっているし、わざわざ隣に座らなくてもどうせ離席する。

 
不穏な様子を連日目の当たりにしたAさんは
昨日も今日もご飯を食べられなかった。

 
私もAさんと同じだ。

そんなにすぐには割り切れない。


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