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数年越しの夢が叶った日

前の職場を4年前に退職してからずっと私は夢見てた。

いつか利用者のみんなとまた元職場で会える日を夢見てた。

前の職場を忘れたことは一日もない。
新たな場所で働いていても、元担当利用者にずっと会いたいと願っていた。

 
 
だけど、会わせる顔がなかった。 

退職した身分で軽々しく会いにはいけない。
同僚も面白い気分ではないだろうし、利用者も困惑するだろう。

退職とはそういうことだ。

退職の理由によってはまた会いに行けるのだろうが
私の場合は気軽には行けなかった。

 
 
退職してからこの四年間
偶然、もしくは仕事の関係で
何人かの利用者や保護者や同僚と再会はしたが
みんなとは会えていなかった。

私の元担当利用者は、学校でいえば一クラス分いる。

コロナ禍と職員人手不足で外出がなくなったこともあり、偶然外でみんなと会うのはますます難しくなり
コロナ禍の関係で外部の私が会いに行くのはやはり難しくなった。

 
町を歩くたび、元職場の誰かの姿を探していた。

そして4年の月日が流れた。

 
 
 
先日、元職場で新たにGHができたとのことで内覧会のお知らせがあった。
内覧会ならば、身内以外も入れるし、元身内でも入れるし、一般でも入れる。

私がかつて働いていた時から、GH建設は大きな目標で、でも色々課題があり、難航していた。
あれから更に月日が流れ、ようやく完成したのは感慨深かった。
しかも、GHの名前は私のもう一つのHNと同じ名前だったため、最初知った時は驚いた。

 
内覧会には元上司もいるらしく、それだけがネックだった。
元上司が案内だったら気まずいことこの上ない。
内覧会は予約制ではないらしく、何時に誰が来るかは分からない。

でも多分、開始時間や午後一が混むだろう。

私はそう考えた。
忙しくない時間帯なら、仲の良い元同僚や無難な関係の新施設長が対応してくれるはずだ。

 
どちらにせよ、通院やら予定やらがあったし、私はお昼手前にしか行けない。
お昼手前は混まないに違いない。それならば元上司が私を案内することはあるまい。多分。

私はそう睨んでいた。

 
 
内覧会前の日は久々に眠れなかったし、当日朝も早く目を覚ました。
予約は必要ないようだが、念のため新施設長に行く旨を電話した。

病院は思ったより混んでいて、内覧会に行くのは予定より遅くなった。

 
地図では分かりにくく、少し迷ったが、元上司が駐車場係で道に立っていたため、私はホッとした。
駐車場係ならば、会釈と挨拶だけで関わりは十分だ。

 
駐車場へ進むと、私がお母さんのように信頼し、尊敬している元主任と新施設長が受付にいて、駐車場には前施設長がいた。

 
「ともかさん、久しぶり。元気にしてた?今は何しているの?」

前施設長とは以前色々あったが、退職したことや時間が経ったことでまるで何事もなかったかのように前施設長が話しかけてきた。
私も何事もなかったかのように話した。
再会は4年ぶりだ。二人で笑い合って話した。

 
 
受付で元主任に挨拶し、名前を名簿に書いた後、新施設長がGHを案内してくれた。
GHは新築であり、とても立派で、広々としていた。
案内をフンフン、と聞きながら
気になったことはガンガン質問した。

事前にGHの案内は読み、質問事項は決めていたし、実際見たことでまた気になることは聞いた。

 
また、私はビジネスの話もした。
私は今の職場と元職場で関わりを持てないか企画していた。
今の職場には話してある。
今日の内覧会に来たのはその目的もあった。
電話ではなく、直に資料を見せ、新施設長と話をしたかった。そのためにも、人がいない時間帯が望ましかった。

ビジネスの話も無事できたのでよかった。

 
 
GHからは、元職場の建物が見えた。
でも誰も私に気づかなかった。
窓から大声で私は叫びたかった。

私はここにいるよ、と。

でもできるはずがない。

 
この四年間、元職場の前を通れなかった時期があった。会わせる顔がなかったから。
それでいて、元職場の前を通ることもあった。会いたくてたまらなかった。

 
内覧会は私の狙い通りで、私が行った時間はラッキーなことに誰も来ず、途中で案内に元主任も加わり、三人で話した。

働いていた頃から含めて、前施設長とガッツリ二人きりでこんなに話したのは初めてだったし、この三人で話したことも初めてだった。

 
「ともかさんは次々に新しいアイディアが出る方だから、転職先でも活躍しているのが浮かびます。」

前施設長からそう言われて驚いた。
そんな風な印象とは思わなかった。

 
「パンフレット、まだともかさんが載ったままなんですよ。」

前施設長が申し訳なさそうに言うが
私は嬉しかった。

パンフレットにも、HPにも、仕事をしている私がいる。

 
骨を埋めたいほど大好きな職場で働いていた私。
私が好きな私。

    
 
「この前、ともかさんのところの(前)施設長に会ったけど、優しくていい人ね。」
「作業や取り組みも画期的でとてもいいわ。」

 
元主任はそう言い、私は「いやぁ~…いい人とは………うーん。」と正直に言ってしまった。
悪い人ではないが、私にとって価値観が合わない人ではある。
作業や取り組みは素晴らしいが、人手不足や人事異動にも関わらず妥協しないため、現場は今疲れている……………とは、元主任は知らない。

 
 
GHの管理者の求人はまだ出ている。
給料は今よりも高い。

またこの職場で働けたら。

内心、そう思ってしまう。
ただ、私はGH管理者になりたいわけではない。

 
 
内覧会にはまだ人が来なかった為、引き続き元主任や新施設長と受付で話した。

「ともかさんも座りなさいよ。」

元主任が椅子を差し出し、新施設長が飲み物を渡してくれた。ありがたい。
パッと見は、私も関係者だ。

 
 
元主任にはこの前会った時、母親が入院し、リハビリ中と軽く伝えたため
母について聞かれた。
この前会った時は忙しなくてろくに話せなかった。

 
私は母のことや近況を伝えた。
元主任は話を真剣に聞いてくれた。

 
元主任「あんなに元気なお母様だったのにね。私も年が近いから考えちゃうわ。ともかさんちは、大きな問題はなにもなく今まで来てたのにね。」

私「私が結婚できないくらいしか大きな問題はなかったんですがね。」

元主任「本当よね(笑)」

 
そんなふうにたくさん話した。
働いていた頃もこうしてよく話を聞いてくれた。

 
元主任は後に、「今日来た人の中でともかさんが一番熱心に話を聞いて見学をしていた。」と言っていたらしいが
私から言わせてもらえば、家族以外の人で元主任は一番母のことを心配し、熱心に話を聞いてくれた。

 
 
しばらく話したところで、元主任は言った。

「利用者に顔、見せる?今から一緒に行く?」

私はドキッとしながら、「…許されるならば。」と答えた。

 
「施設長に許可とりなさいよ。」

そう言われ、新施設長に聞いたら快くOKしてくれた。私の心は弾んだ。

 
 
私の車に元主任を乗せ、二人で元職場へ向かった。
許可をもらったのだ。
今日は堂々と中に入れる。四年ぶりに。

「私はお昼を食べるから、後は好きにしていていいわよ。」

元主任様々だ。
元上司は駐車場係でいないし、前施設長や新施設長も内覧会で忙しいことも幸いした。

 
私は元責任者だ。
上司や施設長がいなく、主任からも許可をもらった以上、他の誰も文句は言えないのだ。

 
今日は本当に色々重なっていい方向に向かった。
本来は出勤日だったが、別日に出勤がズレてラッキーとしかいいようがない。

 
 
私が玄関に着くと、いち早く利用者Aさんが玄関に向かって走ってきた。
パァッと明るい顔をして、「ともかさんだ!」と即答した。

「Aさーん!久しぶり~!」

私は嬉しくなった。

 
 
その声を聞いて、利用者Bさんも玄関に来た。

「ともかさんだ。」

Bさんも私を覚えていた。

 
「Bさん、私をみんなのところに案内して。」

そう伝えると、Bさんは私を活動室に案内した。

 
 
「皆さん、こんにちは~!お久しぶりですー!ともかさんです!覚えてますか?」

みんなは驚いた顔をしつつ、私に駆け寄ってきたり、抱きしめたり、話しかけてくれた。

私は一人一人に声をかけた。

 
私が一番大好きだった場所。
私が一番大好きなみんながいる場所。

ここに再び立てる日を夢見たけど、叶う日は想像つかなかった。

 
会えなかった四年間何があったかみんな教えてくれた。

利用者の姪が小学生になったこと。
利用者の兄弟が結婚してパパになったこと。
利用者の親は元気だったが、今は体を壊して入院になったこと。
4年という歳月を感じる。

 
利用者は何人も辞めてしまったし、今日来ていない人も何人もいたが、来ていたみんなは元気そうで嬉しかった。

 
普段土曜日は利用しない人がたまたま今日来ていて、私にこう言った。 

「ともかさんから最後にもらった写真や手紙は今でも大事にとってあります。今日来てよかった。会えてよかったです。」

当時から私を一番に慕い、退職時は大泣きしてくれた。
今でも想ってくれて嬉しかった。
涙ぐむ利用者の言葉に私も涙ぐみながら伝える。

  
「大切にとっておいてくれてありがとう。みんなのことを忘れた日は一日もないよ。退職してからもずっと気にかけてた。会いたかった。」

 
写真を撮りたいとせがむみんなと写真を撮った。

新しい職員さんや利用者さんにも挨拶したり、話した。
やはり居心地がよかった。

 
私がいた頃とは机の配置等も大きく変わってしまったし
新しい職員さんも増えたけど
昔からいる職員さんが今日も働いていたり、変わらない懐かしいものも置いてあり、嬉しくなった。

 
 
あまり長居しても迷惑だし、私は挨拶が一通り済んだら帰ることにした。
お母さんの面会時間の関係もあった。

「またね。」
「元気でね。」
「頑張ろうね。」

お互いに言い合い、手を振る。

 
退職前、利用者と写真を撮った時から4年が経ったが
今日の私の方が写真で明るい顔をしていた。

 
内覧会と元職場での利用者との関わりは合わせて2時間だった。
2時間だ。私は迷惑だと思いつつ、だいぶ長居をした。欲には勝てない。

  
退職したあの日からずっとこの日を待っていた。 
またみんなと会える日を望んでいた。

もう、悔いはないと思った。
今日死んでも何も悔いはない。
やっとみんなと会えたから。

 
そう、心から思うくらい、大好きで大切で、今でも私にとって特別な人達だ。

 
 
働いていた頃も退職時も転職後も色々あったけど
泣いた日もたくさんたくさんあったけど

笑って再会できた今日があるなら
私の今まではきっと、間違いじゃない。




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