見出し画像

未練と無念と

職場で利用者、職員共に陽性者が複数いるため
今週は半日勤務になった。

 
原則は半日勤務だが
残業をしたかったらしてもいい。

だから午前から来る人もいれば
午後から来る人もいるし
一日仕事をする人もいる。

 
 
その日は私と新施設長とリーダーの三人が仕事に来た。

リーダーの私服に胸キュンしていたが
リーダーはその日、早々と帰ってしまった。
ガッカリだ。

 
だからその日
施設には私と新施設長しかいなかった。

 
私は新施設長といる時は
大抵静かな時が流れる。

 
リーダーにはつい話しかけてしまったり
リーダーから話しかけられ
楽しく過ごしたりするが
私と新施設長は静かだ。

 
たまに仕事の話はするが
二、三言話してまたお互いの仕事に戻る。

 
そんな中、施設長と某仕事の検品をした。
ふと雑談になり
私は新施設長にこう問われた。

 
「真咲さんは…責任者に未練はありますか?」

 
その言葉は予想外だった。
私は一瞬言葉に詰まる。

 
「うーん…………少しリーダーが羨ましくはあります。未練がない、と言ったら嘘になりますね。」

それは本当だった。

 
リーダーが羨ましかった。

私もかつては
みんなの前で一日の予定を話したり
相談員や保護者の方と話したり
支援計画書を作ったり
契約をしたり…

今のリーダーがやっていることをしていた。

 
かつての自分が何度も重なった。

 
私もやりたい、と思うことも多々あった。
退職した今はできない、ともそのたびに思った。

 
だけど私は分からない。
今転職先でやりたいかは分からない。
未練があるのはあくまで“前の職場での”責任者なのかもしれなかった。

 
私は前の職場で社会人一年目から責任者だった。
10年以上責任者だった。

だから全てを割り切って
今ここにいるわけではない。

 
新施設長の考えとしては
私とリーダーをツートップにしたいようだった。 

リーダーを一番上にし
私をその下にしたいようだった。

若い男性で、今の職場での働き年数があるリーダーと
前の大きな職場で様々な経験があり、責任者をこなしていた女性の私。

 
私はリーダーを慕っているし
リーダーは誰とでも仲が良いから
二人で組むのは上手くいきそうな気がした。

 
前施設長は私の責任者としての仕事や大きな職場で働いていたことをあまり評価していない印象があったが
新施設長は去年から…社会人一年目から、私を評してくれた印象があった。

それは転職先で
私と新施設長だけの共通点だったのもあるだろう。

 
他の職員は高齢者施設出身で初めての障害者施設がここだった。
障害者施設で働いたことがある人もいるが、あちこちを転々としていた。

 
私と新施設長だけ
大手障害者福祉施設で長く働いていて
今の小さな施設に転職した。

転職した思いは似ている。

仕事が嫌いだったわけでも
利用者や同僚が嫌いだったわけでもない。

 
ただ、大きな組織で一職員の私達は
あまりにちっぽけ過ぎた。

前の職場のやるせなさは
共感し合えた。

 
「新施設長は未練はないですか?責任者と事務長補佐。」

新施設長も昔は大手福祉施設で責任者だった。
前施設長が休まなければ
今でも事務長補佐だったはずだ。やがては事務長になったはずだ。

 
「責任者の未練は全くないですね。」

その言葉は清々しかった。

 
「…でも自分は、施設長になりたいわけではない。事務のままでよかったんです。」 

その言葉はなんとも言えなかった。

 
前施設長がいつ復帰するかは分からない。
復帰しても、前のようには働けないのは明白だ。  

今、前施設長がいない施設を
私達は私達なりに支えている。

きっと前施設長が戻ってきても
もう前には戻れないだろう。

 
 
この前、事務長が「真咲さんも先のことはまだ分からないからね。」と言った。

「採用してよかった。」とも
「ずっと働いてほしい。」とも
私は転職先で言われたことはない。

 
きっと私の本音が透けているのもあるだろう。

前の職場では「採用してよかった。」とか「柱になってほしい。」とか「ずっと働いてほしい。」とか
色々な人に言われた。

私は採用されてよかったと思ったし
柱になりたかったし
ずっと働きたかった。

 
だけど今は
心からそんな風に思えなかった。

 
来年どこにいるのかさえ読めなかった。
今でも。

 
前の職場も
前の仕事も
何もかも手放さなければいけなかったのは
未練と無念だ。

 
だけど転職して
今の職場で約二年働いて
別の感情が生まれたのもまた確かなことだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?