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税理士の先生が知っておきたい雇用をめぐる最近の法律問題#6 労働時間(6)

「働き方改革」といった言葉で表された一連の労働法規制の改正が行われてから数年、雇用関係をめぐっては続々と変化が現れてきています。
この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、最近の雇用をめぐる法律問題をご紹介していきたいと思います。
今回と次回とで、残業代をめぐる裁判で、事業主が抱える支払額が高額になるリスクについてご説明します。具体的には、消滅時効に関する法改正、遅延損害金、付加金、という3つのポイントについてです。

1.残業代に関する消滅時効は法改正で3年に

まずは消滅時効についてです。
消滅時効というのは要するに一定期間請求がされなかった場合に請求する権利がなくなるという制度のことですが、残業代を含む賃金についての消滅時効は、 以前は2年間とされていました。
ただ、2020年の民法改正によって時効制度についても様々な改正がされた中で、賃金債権の時効期間についても見直しが図られ、3年間に変更されました。
そのため、改正法が施行された2020年4月以降の賃金については、 消滅時効は3年間になっています。
中には1年間で数百万円の未払い残業代が生じるケースもありますので、消滅時効の期間が1年間延長された影響は決して小さくありません。

2.遅延損害金の利率が高い!

消滅時効の期間は3年間に延長されましたが、同じく民法改正によって法定利率が変更になったことをご存じの方も多いかもしれません。
以前は、民法で定める法定利率は5%、商事取引に関する法定利率は6%とされていましたが、民法の改正によって法定利率は統一され3%に引き下げられました
ここだけ取り上げると、未払い賃金に対して課される利息(遅延損害金)も、3%に引き下げられることになります。
ただ、問題は従業員が退職した後に紛争になった場合です。
この場合は、特別な定めが法律に設けられており、正当な理由なく賃金の支払が遅れた場合については、 退職後はなんと14.6%もの遅延損害金が課されることになっています。
例えば300万円の請求を裁判で1年間争った場合、従業員が退職後だとすると、その争っている1年間だけで実に43万8000円(300万円×14.6%)もの遅延損害金が加算されることになります。

3.まとめ

まず今回は 消滅時効と遅延損害金についてご説明しました。ただ、残業代請求について高額な支払となる最も大きな要因として、もう一つ、付加金という特別な制度が設けられています。
次回はこの付加金についてご説明します。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2023年6月号より


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