大学教員の採用人事を知る1―応募書類編

若手研究者の現実は厳しい

若手の研究者にとって、大学の専任ポストは喉から手が出るほどほしいものだ。「このまま非常勤で終わってしまうんじゃないか・・・」とか、「ポスドクで終わってしまうんじゃないか・・・」と悩んで夜も寝られない人も多いだろう。

自分もかつてそうだった。非常勤講師を何校も掛け持ちしながら、せっせと論文を書いて、学会発表をこなして、そして少しでも自分に関係のある分野から公募が出ると手あたり次第に履歴書を送っていた。

非常勤講師だから、一応は「大学の先生」と呼ばれる。でも、そう呼ばれて嬉しいのは最初だけで、身分収入ともフリーターと同等かそれ以下と気づくのに時間はかからない。研究の道を諦めようにも、30歳を超えた文学博士号持ちの社会しらずのおっさんを雇う会社なんか、絶対にない。せめて25歳ならな・・・とか、せめて資格あったらな・・・とか悔やんだものの、どう足掻いても時間は戻せないのだ。

給料やボーナスをもらって、結婚して、子供をもうけて、幸せそうに暮らしている同年代の友達とは、だんだん疎遠になっていってしまった。そういう人たちが眩しくてしょうがないし、自分がみじめだし、そもそもお金がないから遊びについていけない。「おまえ将来どうすんの?」って言われるのもつらいし。

結局、同じ境遇の若手研究者同士で一緒にいるしかなくなる。みんな同じだと思うと明るい気持ちになれるし、気を遣うことも遣われることもない。先輩は後輩に研究の世界の何たるかを説き、後輩はそれをありがたく聞くのだ。そうやって30歳過ぎの「大学の先生」が、大学生と同じ安い居酒屋で、一銭にもならないムズカシイ議論をしながら夜を明かしていたものである。

なぜ公募に通らないか?

そんな暮らしで満足している若手研究者は、ふつうはいないだろう。自分も早く抜け出したくて、JREC-IN(研究職公募掲載サイト)を毎日チェックし、少しでも関連する分野の公募を見つけては応募書類を送り、そして落ちまくる日々を過ごしていた。落ちた数、実に100である。将来の不安を消すように書類を送りまくっていたのだが、不採用通知を受け取りまくることになり、余計に将来が不安になってしまった。

そんな中、運よく某中堅私立大学の准教授になることができた。30代半ばで准教授なので、結果的にはまあまあ「早い」出世だったと自負している。そして、かつては必死に応募していた自分であるが、今は選ぶ立場に変わった。送られてきた履歴書の写真に、ふと、かつての自分を重ねてしまうこともある。

大学教員を採用する立場になってびっくりしたのは、選考の基準や方法である。

かつて落ちまくっていた時期、自分はなぜ通らないのかと本当に不思議に思っていた。採用条件なども十分満たしているのに、業績もそこそこあるのに、なぜ選ばれないのか。採用される人と自分の違いは何なのか。それがわからなかった。

今なら、かつての自分に「それは通らないからやめておけ」「そこは可能性があるから頑張れ」と教えてあげられるだろう。少なくとも100校も送って郵送費を無駄にすることはなかっただろう。1回の郵送費もバカにならないので(高いときは1000円近くした)、浮いたお金でプチ旅行くらいできたかもしれない。

これから書く選考基準や方法は、採用する側になってはじめてわかったことである。かつてはコネ採用などもあったと思うが、現在は基本的にそんな時代ではない。いわゆるガチ公募である。だから、選考基準や方法には、明確な指針がある。それを知らなかったがゆえに、自分は落ち続けていたのだ。逆に、それを知っていたら、もっと早く大学教員になれたのは間違いない。

この記事を必要とする人へ

かつての自分にそれを伝えることは叶わないが、現在公募に苦戦している若手研究者には教えることができるのではないか。そう思って、これを書いている。事実、非常に惜しい応募者もいれば、この公募には絶対通らないのになぜ応募したんだろうと首をかしげてしまう応募者など、「選考の基準や方法」を知っていたらよかったのにと思う応募者は少なくない。

私自身、かつて落ちまくっていた経験があるので、将来有望な若い研究者を落とすのは本当につらい。そんな彼らに採用の現場のすべてを伝えることで、落とすことの罪悪感を少しでも癒すのと同時に、若手研究者の将来の手助けをしたいと思っている。

この記事は、『大手企業の現役人事担当者が語る就活の極意』などと同じ位置づけにある。が、大学の人事採用についてはそういう類の情報が圧倒的に少ないのが現状だ。ゼミの指導教員も、なぜか具体的なことを教えようとしない。不思議に思わないだろうか?そういう情報があったら、自分も100校は落ちなかったに違いない。

その意味でこの記事は、若手研究者にとって数少ない指南書になるはずである。誰にでも読めないように有料になっているが、その分、これを読んだかどうかでライバルと差がつくと確信している。

記事は全3回を予定している。

1:応募書類編―足きりにあう人、あわない人

2:書類審査編

3:模擬授業・面接編

この3編を参考にすれば、間違いなくアカデミックポストに近づける。この『応募書類編』は、約10,500字の情報量で、主に足きりフィルターについて書いてある。足きりフィルターの種類や、足きりフィルターに残るおおよその人数などを包み隠さず書いた。年齢フィルターについても詳細に論じているので、年齢を気にしている若手にとっては必読である。

いままさに人事を担当している大学教員が書く、大学教員人事採用のポイントである。本当に大学で働きたい人にとって、ゼミの先輩と飲みに行ってご高説を賜るより、はるかに価値があると自負している。

それでは早速、『応募書類編』の本篇へ進んでいこう。

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