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思わず引き込まれた話のまとめ

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ついつい語り口に引き込まれて最後まで読んで感服した話のまとめ。
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2021年7月の記事一覧

バイバイ、また明日

最近暑い日が続いてる。 もう8月がやってくる。 最近、月日の流れがすごく早くて。 特に今年は「もう8月かぁ」という感じがしてる。 私にとって。 8月は少しだけ特別。 大事なことを改めて思い出す日があるから。 いや、正確にはいつでも覚えてるんだけど。 ただ、8月は特別。 そんな感じかな。 先にお断りしておきます。 今回ここに書くことは。 ちょっとマジメなお話です。 そういうの苦手な人はここで引き返してください。 ひとつの出来事について。 自分の中にしっかり区切りをつける

憧れだったカウンターの向こう側

社用で外出し、信号待ちをしていたときのことだ。何気なく道路傍の用水路に目を向けると、カルガモの姿が目に入った。10羽のカルガモたちは、時に泳いだり、戯れあったりしながらテクテクと川の方へ歩いていく。 一生懸命に歩く様がとても可愛い。 同じ場所にいるはずなのに、全く違った時間の流れがそこにはあった。仕事のスイッチがONになっていた私は、フッと肩から力が抜けていくのを感じた。 ♦︎ 金融機関に勤めていた頃、私はカウンターの向こう側に憧れを抱いていた。来店されるお客さまは皆

マンションを買いました。 〜頑張る山寺宏一と私〜

買うのかマンション物語を時々書いてきたが、買いますマンション物語となり、なんちゃらコミュニケーションという会社の山寺宏一(仮名)という住宅ローンの専門家とやらと私は、毎週密会を重ねて、マンション購入に向けて着々と進めていた。 最終日は、銀行で融資を実行する日、つまり大金が私の口座に振り込まれる日であった。 そしてそれが家主に支払われる日で、ということは、一瞬にして大金が消えてなくなり借金となり、延々と支払うローンを私が背負うという日でもある。 「なんか、よく分からないままこ

織る

はじめて機織りをしたのは、八丈島に行ったときだった。 黄八丈という、伝統的な布地を機で織る体験をさせてもらった。とん、からり、という淡々としたリズムのなかで織ってゆく。時間を忘れて、無心に織った。 そのとき織った布地は先方の手違いで紛失してしまったらしく手もとにないのだけれど、あの機を織るという体験は、深く自分のなかに残っている。 私の祖母はいつも縁側で縫物をしていた。雨の日など、畑に行けないときは一日じゅうお針仕事をしている。よく遊んでいた友だちの家には、足の悪くなった

短編小説 「遠い星から来た人」

久しぶりに雨が上がった7月の日曜日、初めて凪沙(なぎさ)に会った。あちこち残った水たまりに、街から漏れた油が小さな虹を作っていた。  母親に連れられたその少女をモノレールの駅で最初に見た時、この子とこれから夜まで一緒に過ごすなんて絶対に無理だ、と佐藤は思った。姪とはいえ、ほとんど会ったこともなく、まして中学生だ。伏目がちの瞼の先でたよりなげに震える彼女のまつげを見ていると、佐藤の心の底に澱んでいた物憂い感情がむっくりと湧き上がって来た。 「あなたって、どんどん殺風景な

▶︎ネイルとわたしの距離感

私が中高生だった頃は、かぎ爪のような長いつけ爪や、ストーンやパーツをたくさんデコレーションした爪がとにかく流行っていた。いや、爪だけではない。当時、JKの最先端的な存在だった「ギャル」と呼ばれた人たちはみな、あらゆるところを「盛る」ことに命を懸けていた。 髪の毛やまつ毛、携帯電話にカバン。 私は別に「ギャル」に染まっていたわけではなかったけれど、キラキラにデコレーションされた携帯電話に憧れていた節はあった。私が初めてセルフネイルに興味を持ったのもこの頃で、雑誌のセルフネイ