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マンションを買いました。 〜頑張る山寺宏一と私〜

買うのかマンション物語を時々書いてきたが、買いますマンション物語となり、なんちゃらコミュニケーションという会社の山寺宏一(仮名)という住宅ローンの専門家とやらと私は、毎週密会を重ねて、マンション購入に向けて着々と進めていた。



最終日は、銀行で融資を実行する日、つまり大金が私の口座に振り込まれる日であった。
そしてそれが家主に支払われる日で、ということは、一瞬にして大金が消えてなくなり借金となり、延々と支払うローンを私が背負うという日でもある。
「なんか、よく分からないままここまで来ちゃったんですけど…。結局金利の細かな数字のことも理解できてないままです。でも、毎月○万円(何となく伏せたが片手で十分足りる数字である)払っていけばいいんですよね?払っていくというか、口座から勝手に落ちていくから、その口座にお金を入れといたらいいんですよね?そういう理解でいいですか?」と山寺宏一に確認すると、「それさえ分かってれば大丈夫です!」と軽く言った。
「最後まで軽いですね!」と山寺宏一に言うと、
「いや、賃貸で住み続けている家を改めて買うって形はどうしてもこうなりますよ。住む家についての下調べもいらないし、引っ越しもしなくていいし、何も変わりませんもん。僕らは、新しい家について知ってもらうために説明を重ねたりするのが一番大変なんですよ。それが今回、家のことを一番知ってるのはのりまきさんだけっていう状態だから、僕は特に何もすることはなかったです!」と言った。本当に山寺宏一は何もしてなかった気がする。
鼻がとんがっている化粧の濃いお姉さんが最終日に5月以来ぶりに私の前に現れた。そうか、このお姉さん(が担当している不動産屋)が家主の代理で、このお姉さんからマンションを買う、イコールこのお姉さんにお金をまとめて支払うということか、と最低限の事実を今更ながらに理解した最終日。
厚化粧のお姉さんは終始ニコニコしている。
「デカい(いや小さいか)仕事を取ったど!」という喜びが隠し切れないのだろうか。無駄に化粧が濃く無駄に笑顔だ。

それから、銀行の個室ブースに通されて、半沢直樹とその仲間たちみたいな人たちがぞろぞろと現れる。
偉いさんが何人も並び、「このたびはお取引ありがとうございます。」とかしこまって言うだけのおじさんA、頭を下げるおじさんB、若手に指示を出すおじさんC、ちょこまか動くおじさんDが続々と現れる。
若手お兄さんEが通帳を出してくださいだのなんだのをこちらに言う係で、おじさんA~Dまでは全員置物であった。
それから、登記するとか言って、また司法書士のおじさんFとおじさんGが名刺をくれる。最終日の何もしない置物と、司法書士という名のハンコもらい屋さんなどは面白いくらいに男(おじさん、いやジジイ)だらけのホモソーシャルで、仕事ができる富田靖子もおらず、これぞ日本の企業、銀行、半沢直樹の世界だなあと正直何だか気持ち悪かった。
その後は、色々と時間のかかる手続きが多く、待ち時間が長かったせいか、山寺宏一と色々と話をする羽目になった。
賃貸の間に無償で直してもらうべきところを直してもらえましたか?」と山寺宏一が聞いてくれて、そりゃあもうあちこち直ってインターホンまで新しくなってバカでかいガラステーブルも撤去してもらえた話をすると、「それは良かったです」と山寺宏一は喜んでくれた。


それから山寺宏一は、「僕の家も実は今、毎週水曜日に物がどんどんなくなってるんですよ。」と言い出し、ツカミ最強に、私の興味をそそる話の始め方をするもんで、ついつい気になって「なんでですか?」と聞いてしまったが最後、山寺宏一劇場の始まり始まり。
山寺宏一の家庭が今離婚調停中の別居状態であること、妻が毎週荷物を持っていくこと、まずは調味料からやられて食べるものがなかったこと、離婚の原因、妻の実家とのトラブルの話なんかを語りだし、山ちゃん独演会となった。
お前、そんなことまで私に話していいのか?と心配するくらいに内部事情を話し続け、何度か銀行員が書類の確認に戻ってきて、山ちゃん独演会にインターバルが入るものの、銀行員が個室から出て行った途端に、「で、向こうの弁護士はなんて言ってるんですか?」と私も前のめりに聞いたりなんかしていて、そんなことをしている間に銀行から私の口座に大金が振り込まれた。
そして、山寺宏一夫妻と両者の弁護士同席の場で「ねえ山ちゃん、私のこと愛してるって言ってよ!!ねえ!」と妻に怒鳴られたエピソードの辺りで、私の口座の大金は不動産屋に振り込まれたと思われ、厚化粧の女性はニンマリと笑っていた。多分。どちらも緊迫するシーンであった。
私の口座で私の人生史上かつてない金額が右から左へと流れていったその時に、私は何の会社の何の仕事か分からない男の人生の山場を聞いていた。
なぜだ。よく分からないがこれもご縁だ。
私は全てが完了するまでの間、山寺宏一の話を親身に聞いて相談にのってあげた。
ついつい話も佳境を迎えて「で、山寺さんはその時なんて言ったんですか?」とつい本当に「山寺さん」と呼んでしまい、「え?山寺?僕○○です」と本名を改めて名乗られて焦ったが、「すみません、間違えました〇○さん、それで?」と言ったら、大して引っかからずに話は続いた。危ない危ない。noteで山寺宏一と書きすぎてあの人の本名をすっかり忘れていた。ふぅ。
娘と息子を引き取るために実家の山口から母親を呼び同居を始めたこと、親権を取るために戦うのだといういまだかつてない山寺宏一の情熱を帯びた表情と力強い声に、私に対してもそれくらいの情熱を持って仕事をしてくれていたのだろうかと不安になった、彼の仕事が何かよく分からないが。
山ちゃんの妻は、山ちゃんの話だけ聞くと、かなり精神的に問題を抱えている女性のようだったので、子供たちが心配だ。山ちゃん妻側からの話も聞きたいところだが、いよいよ私がなぜそんなことをするのか分からないことになりそうだったから、それは別の人に担ってもらおうと思う。どうしても私が聞かなきゃいけない話ではない。そして聞いてる場合でもない。
「○○さん(ちゃんと山寺宏一の本名)、これから頑張らないといけないですね、2人のお子さんのためにも。」
「ありがとうございます、のりまきさん。頑張りますよお父さんは!」
って何のこっちゃなタイミングで、マンションは私の物になり、私は晴れて無事住宅ローンを抱えた女となった。
この銀行の個室で、誰がどう見てもこれから頑張らないといけないのは、ローンを返していかないといけない私だ。

そんなこんなで、山寺宏一には「僕の愚痴を聞いてくれてありがとうございます」と言われ、「いえいえ、頑張りましょうね」と私から言って別れた。
何ちゃらコミュニケーションという会社は、予想を越えて客と密にコミュニケーションをとる会社だったらしい。
彼の仕事が何の仕事なのか最後まで謎だったが、「何かローンで不安があればこれからもいつでも連絡をください」と言われた。きっともう山寺宏一に電話はしない。
山寺宏一と2人の子供たちの幸せを遠くから願い、山寺妻が然るべき治療を受けて立ち直ることを祈り、養育費かのごとく、私は淡々とローンを返していくつもりだ。
なんか間違えている気がするが、どうしてかそんな気持ちになっている。
マンションを買うって、最後はこんな感じなのかよく知らないが、とにかく私はマンションを買ったらしい。
あっけなくマンションを買ったし、生き別れた子供への養育費のようなローン。とりあえず働くぞ!という気持ち。
何でそうなったのかよく分からない着地点。私は責任感に満ちている。

買うのかマンション物語は、何の感動もないまま謎の着地点となり、これにて終焉。
この「買うのかマンション物語」は、マンション購入を考えている人たちに向けて何か今後の参考になればという気持ちもなくはなかったが、驚くほど何の参考にもならないまま、最終回です。豆知識も知るべき情報も何もお伝えしていません。
ただ、よく分からんままマンションを買ったというお話。
さようなら山寺宏一。
頑張れ山寺宏一。そして私。
ありがとうみなさん。
読んでくださりありがとうございました。



DIYについては引き続き、更なる高みを目指していきます。

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とっくに私の城になっているベランダからの夕焼け




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