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お金と投資の読書:キケン!読んだらあかんこんな本、あんな本(その1)

「FXの教科書」えー・・・アホなの?

私の行きつけの書店には、入り口近くの目立つ場所にお金に関する本が置かれていますが、私がおすすめする本は目立たない場所に一冊程度あればいい方です。

代わりに売れ筋として目の高さにディスプレイされているのが、「株の教科書」そして「FXの教科書」つまりFX証拠金取引のノウハウを教えるものです。投資の経験がない初心者がこんな本を買って読んでいるのかと思うと背筋がぞっとします。なぜってFX証拠金取引は「投資」でなく完全な「投機」つまりギャンブルでしかないからです。

「投資」と「投機」の違いはなんでしょう?お金を出して、それが増えたり減ったりするなら、それはすなわち広義の「投資」である、との考え方もありますが、私はあえてこの二つを区別したいと思います。

「投資」には経済的な見返りが生まれる「仕組み」がある

「投資」とは、お金を出して、それを受け取った相手(株式や債券の場合は企業などの発行体)が事業などにそれを使って、収益を上げ、その収益から、投資家とあらかじめ合意した契約に沿って何かしらの金銭的・経済的な見返りを返すことをいいます。

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例えば企業が発行する社債の場合。投資家は企業に対してお金を「貸して」います。借り手側の企業は、社債を発行した時に約束した「利金(クーポン)」を投資家に払う義務があります。また、社債の満期(償還)時には「元本」を投資家に返却します。満期まで保有する場合、投資家にとっての見返りは「利金」が「経済的な見返り」になります。(貸し倒れなど不測の事態が起これば利金や元金が支払われないか遅れる場合もあります)

株式の場合は、投資家は企業に対して「資本金」を提供しています。「資本金」は企業にとって「投資家に返す必要のないお金」であり、企業が倒産した際には価値がゼロになるお金です。その代わり、企業の業績に応じて「配当金」が支払われます。また、猛スピードで成長する企業の場合は「株式分割」等が行われ、株主の持つ株数が増えることもあります。また割引券などの「株主優待」も経済的な見返りの一つです。

まとめると、社債の「見返り」は「利金」、株式の「見返り」は「配当金」「株数が増える可能性」「株主優待」になります。

値上がり益は単なる「おまけ」

上記の「見返り」には「値上がり益」が入っていません「値上がり益」は「投資」の本来的な見返りではないのです。上場株式はいつでも取引所で売買ができるようになっているので、買い手がいれば売ることができる。その際に自分が買った値段より上がっていれば「儲かり」ますが、それはあくまでも「おまけ」。株式投資は本来的には出資行為で、出したお金(元本)が企業から戻ってこない代わりに、値段(株価)がついて人に売れるだけのこと。その際には上記の「見返り」の予想に見合うと買い手が思う値段がつきます。将来的に一切配当が出ないと大半の投資家が思えば、値段はつきません。破綻した企業の株価がゼロになるのは、そういう理由です。株価は発行体である企業の「将来の配当を出す能力」をいま評価したものに過ぎないのです。(注)株価が企業の何を評価したものであるかという理論は複数存在しますが、ここでは配当割引モデルを念頭に置いています。

社債も償還までの間に売買をすることは可能で、その間に値上がりも、値下がりもあります。しかしその時に売買した損益は、企業という発行体が投資家のあなたに「約束」したものではありません。あなたが勝手に償還日の前に手放したので「儲かった」り「損する」だけなのです。

「投機」には「値上がり益」しかない

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一方、FX証拠金取引で期待できるのは「為替レートの方向性が当たった場合の値上がり益」のみです。長年その資産を持っていれば利息が付くとか、配当金が出るような性質のものではありません。そもそもそこには、あなたの資金を受け入れてなんらかの経済活動をする「発行体」という「主体」がいません。為替はモノやサービスの値段を表す指標に過ぎないので、あなたの投じた資金は何かの役に立っているわけではないのです。

「でも、為替の値動きには国の経済や金利の動きが関係あるじゃない。それを勉強すれば方向は当てられるよね」というのは愚の骨頂。為替の動きを正確に当てることはプロでも至難の業です。だからこそ輸入・輸出に頼るところが大きい企業などは為替予約などの手段で為替変動が業績に与える影響を防いでいるのです。企業の為替予約は「為替で稼ぐため」ではなく商品やサービスの取引で「為替差損を防ぐため」にかける「保険」です。経済や需給に詳しいプロでも「当てる」ことを目指していないのに、個人がなぜそんな極端なことをするのでしょうか。さらに証拠金取引は「借金による売買」です。「借金」をして「当てに行く」と損失は元手より大きくなります。借金をしている時点でもうそれは投資ではありません。

値段のあるものを売買すると、何か「投資」をしていると錯覚しがちですが、そのお金が何か実態のある事業等に使われて結果として利益がかえってくるのでなければ、それは「投機」つまりギャンブルでしかないのです。暗号資産つまり仮想通貨も同じ。暗号資産は、資産自体には何の成長性もなく「長期にわたって」資金を投じる意味は全くありません

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「値段が上がるのは成長性があるから」という誤解

個人投資家によくある誤解として「値段が上がるのは成長性があるから」があります。メディアに出演するコメンテーターなども「仮想通貨は将来性があるので、いま投資しないと」とアホなことを言ってのけます。もし仮想通貨業者の成長に投資したいのであれば、仮想通貨業者に出資、つまり株式投資をすればいいでしょう。仮想通貨自体は「お金の代替」として発行されているものですから、タンス預金となんら変わりません

「じゃあ、どうして値段が上下するの?株と同じじゃない?」という方は、2020年の前半にマスクが値上がりしたのを思い出してください。仮想通貨に限らず、モノやサービスの値段は、需要と供給のバランスが変われば上下します。仮想通貨の価格の上下はすべてこれ、需給のバランスでしかありません。日本で仮想通貨が導入された際には、インサイダー取引規制が整備されていなかったので、アフィリエイト広告などで素人に自分の会社の仮想通貨を買わせ、値段が上がったところで業者側の関係者が売り抜ける、という方式で何人もの関係者が巨額の富をなしたと考えられます。いまは法制が整備されましたが、そうした法律の網をかいくぐるような真似で儲けた人たちを「お手本」とするのは、かなりズレていると言わざるを得ません。

需給で価格が上下するのは株式や債券などの有価証券も同じです。特に短期間の値動きは需給で説明がつくものがほとんどです。しかし、株式や債券の場合は、利金や配当といった経済的な見返りの仕組みが裏にあってそれを買い手が評価した結果の需給ですので、仮想通貨の場合とは意味合いが違います。仮想通貨を持っていても、仮想通貨に利息はつきませんし、その仮想通貨の会社が儲かった時に、1単位が2単位に分割されるわけではありません。マスクを大量に買って1年間持っていても、1年後にマスクをひと箱追加でもらえるわけではないのと同じ。世の中にマスクが出回ると、大量に買ったマスクの値段は暴落し、手元には損が残るだけです。このように主に需給で値動きが決まるものは、総じて「自分以外の大半の人が次には売るのか、買うのか」を外せば手元に何の見返りも残らず、損失が残るだけです。その分値動きも大きく、上記で説明した株式や債券とは明らかに性質の異なる「投機」と言えるでしょう。

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「当てに行かず持つ」で資産が増えないものはダメ

まとめると「資産自体に経済的見返りや成長性がなく、長期の資産形成に適していない」つまり「方向性を当てないと儲からないので、計画的に資産運用ができない」ものはギャンブルであり、投資ではない、と言えます。

個人投資家の多くは「投資=当てに行くこと」と誤解しており、「方向性を当てる必要などない」「当てに行くことは資産の長期的な成長を阻害する」という基本を理解していません。そのため、投資を始める時に「経済や企業のことを勉強しなければ」と「当てる」ための勉強に時間を費やし、自分なりにわかったと思った時点で「相場を当てに行く」ギャンブルを始めます。

退職後のサラリーマンがチャートなどの「テクニカル分析」に納得したり、四季報を真剣に読んだりするのは、自分がイメージする「勉強」のイメージに合致しているからでしょうが、そんな小手先の方法で儲かるならプロがとっくにやっています。しかも、そんな誰でもわかるような方法で「当たる」のであれば、いろんな人が同じ方法で売買し「需給で価格が動き」あなたが狙った値上がり益を得ることはできません。こうした本で紹介されている「必勝の手法」などは、読者のレべルに合わせて「わかった」と思わせ、読者を満足させるために紹介されている単純化された俗説にすぎません。あるいは著者が投資理論に関して無知で、まじめにテクニカル分析などを信じている「信者」の場合もあるでしょう。

最後に一言、宝くじを含め、ギャンブルはすべて胴元が一番儲かるようにできています。私は、暗号資産やFXを継続的にやる人はギャンブル依存症か、無知なのに自信家という投資に向かないタイプだと思っています。(続く)

次回も「キケン!読んだらあかん、こんな本、あんな本」パート2です。

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