お金と投資の読書:読んだらあかん、こんな本、あんな本(その3)
その1とその2を読んだけど忘れてしまった方、読んでない方のために下記にまとめを書きました。とりあえず復習から始めましょうか。
(その1)の復習
1)書店に平積みにされている投資指南本は、必ずしも個人投資家にとって有益なものではない。書店員は投資の知識があるわけでも、専門家の助言に基づいて本を仕入れているわけでもない。
2)書店で売れる指南本の多くは、一般人が抱く「投資とは相場を当てるもの」という思い込みを利用し、一般人がわかるレベルで「こうすれば当たる」との示唆(チャートなどのもっともらしい雑学)を与えるものでしかない。実際の投資理論はチャートなどを全く重要視していない。
3)「相場の方向性を当てないと儲からない」ような方法や金融商品(FXや暗号資産)では、長期投資による資産形成は困難。
4)「当てずに長期で持てばリターンが上がる可能性が高まる」資産(株式や債券)は資産形成に向いている。
(その2)の復習
1)株式や債券は個人の資産形成に向いた資産だが、それも「当てる」ことを目指すと難しくなる。
2)個人向けによく売れている「株の教科書」は、「優れた株を見分けて持つ」「投資タイミングを(チャートなどで)当てて安い時に買い、高い時に売る」ことを示唆している。それでは、短期間での売買を繰り返す動機づけになり、むしろ分散投資と長期投資が阻害されるおそれがある。
3)「勉強して個別銘柄を選ぶ、これから成長する国や業種を選ぶ」というと聞こえがいいが、情報の質・量や分析力が限られている個人投資家の場合は、自己満足に過ぎない。10年程度の運用成績を株式インデックスファンドと比べた場合、確実に勝てるような運用(再現性のある運用)は、プロでも至難の業。
タイミングを当てることは不可能
「その2」では売れている(らしい)株式投資入門書の内容がいびつに単純化されていると書きました。個人投資家は「タイミングよく売買」することが「株式投資」だと思っているようですが、それ自体が大きな勘違いです。世の中に出回っている「個別株式投資指南本」や「投資ブログ」の多くがこの個人投資家の勘違いに付け込んだものです。
「投資タイミングを狙って売買」するのは、一見とても効率的に見えます。誰だって暴落は避けたいし、逆に上昇気流には乗っていきたいですよね。しかし株価チャートなどに頼って売買することは、市場が情報を織り込む効率性を全否定しないと成立しないため、先進国の大型株式(時価総額が大きく流動性の高い銘柄)に適用しても意味がありません。
また株式市場全体で見ても、適切な売買タイミングを正確に当てることは不可能と言っていいでしょう。後付けでは何とでも言えますが、実際に市場の上下動を予測することでコンスタントな運用成績を上げた再現可能な手法はありません。仮にそのような手法があれば、市場参加者の大半が模倣しますので、結果として「勝つ」ことはできないのです。運用会社等の機関投資家は、再現可能な成果を目指す計量モデルやアルゴリズムなどを有しており、個人投資家と事情は異なりますが、これらも常に改良を重ねて市場と追いかけっこしているのが実情です。
競馬に通ってお金持ちになった人、知っていますか?
こう説明すると個人投資家はたいてい自分は「市場に勝つ」必要などない、自分の買った銘柄が値上がりすればいい、と反論します。しかし「タイミングを当てる」ということは、自分以外の大多数が同タイミングで同じ方向性の売買をしないこと(つまり市場に「勝つ」こと)を前提としています。そうでなければその売買によって狙った利益を得ることはできません。
これは競馬などのギャンブルと似ています。自分が勝ち馬を当てたとしても、他の大多数が当てれば掛け金が還ってくるだけで「儲け」はありません。多くの個人投資家が見過ごしているのはこの点で、投資家ブログに書かれた相場や銘柄の方向性の話を信じてしまうのも「そんなにいい話なら公開しないはず」という基本を見過ごしているからです。
「毎日ニュースをチェックする」「四季報を見る」のが無駄というのも同じ理由です。公表されている情報は投資家全員が見ており、発表と同時に行動を起こしたとしても、自分の売買は他の多くの投資家の売買と同じ方向であり、それが当該銘柄の需給バランスを崩して株価を変動させるのです。結果としてあなたはニュースに影響された株価で売買を行うことになります。ニュースが出る前の株価で売買できない以上、ニュースで売買することの意味はありません。また、仮にニュースを公表前に知り売買したとすれば、あなたはインサイダー取引で法令違反となってしまいます。
長期投資と分散投資が阻害される
チャートなどで株価の方向性を当てようと「タイミングよく」売買することは、無意味であるだけでなく、投資資産の成長にとっては有害でさえあります。タイミングを計って売買すると、一時的にであれ株式市場への投資比率が変動します。また個人投資家が個別銘柄で十分な分散投資を行うことはそもそも難しいのに、タイミングで売買するとさらにポートフォリオが崩れてしまい、分散効果が減ってしまいます。
チャールズ・エリスが説くように、長期の資産形成を目指すのであれば「株式という資産の組み入れを長期にわたって継続すること」が最も重要であり、また長期投資に伴うリスクをコントロールするには徹底した分散投資が必要という観点から考えれば、個別銘柄を頻繁に売買することが有害なのは理解できるでしょう。
信用取引やデリバティブは「危険なギャンブル」
それでも、ZAI編集部の株入門書はまだ良心的な方です。初心者向けの株式投資入門書をうたった書籍の中には、信用取引やデリバティブ(金融派生商品)の活用を薦めているものもあるからです。信用取引は文字通り「借入」を行って株式を売買することで、取引開始の際には借入の実感がないものの、自分が最初行った売買とは逆の方向に株価が動けば証拠金を積み増す必要があります。深みにはまれば最初の取引額を失うだけでは済まない損失となります。
市場が下がっている場合にも利益が上げられる、と聞いて先物やオプション等のデリバティブで「売り」を試してみる人もいますが、これこそ「方向性を当てる」ギャンブルに他なりません。買ってもいない株や株価指数を「売る」ということは、その対象が値上がりすると損をするということです。配当金や株主優待といった見返りはゼロ。資産形成のために株式投資をするなら「売り」から入る取引は一切封印すべきでしょう。
個別株投資は「趣味」と割り切る
定年後の脳トレとして株式投資を始める人もいると思います。個別株式投資で10年先の老後資金を作ろう、などと無理なことを考えず「社会勉強」「頭の体操」として行うならそれはそれでいいでしょう。その場合、個別株式を自分で選ぶ範囲を最大でも金融資産の5%程度に抑えて、なおかつ信用取引やデリバティブによる手持ちの現金以上の投資を決してしないなどのルールを事前に決め、それを守ることが必要です。例えば金融資産が1億円の人なら500万円程度が個別株投資の上限になります。もしある時点で全体が半値以下になったら「手仕舞う」つまり個別株投資を止めてしまう、もし運よく値上がりしても、投資資金を追加せずあくまで最初の枠内で行う、という事前に決めたルールをきっちり守っていくことが重要です。
なお、金融資産という場合、家屋等不動産などの実物資産は入りません。不動産投資については、今後の「読んだらあかん」で取り上げます。(株式入門書の項は終わり)
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