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#37 「行動経済学が最強の学問である」

今回の読書録は「行動経済学が最強の学問である

少し前にX(Twitter)で「行動経済学を学ぶならこの1冊がよい」と紹介されていたのでポチった1冊。
行動経済学については以前も読書録を書きました。

ただ書いた内容は全く覚えておりません。本の内容をできるだけ忘れないように、自分の血肉とするために続けている取り組みなのに…笑
改めて1から勉強する気概でまとめていきます。


機会コストを意識する重要性

上手くいっていないプロジェクトを「今まで頑張ってきた」「ここで終わらせたら何も残らない」とズルズル続けてしまったことはありませんか?
このまま続けてもたぶん意味がない、と思っていてもです。

これは「今までにつぎ込んだお金や時間を回収せねば!」という気持ちから発生する意思決定です。大抵の人はこういった行動をとります。

ですがここで失われているのは、今までのお金や時間だけではありません。そのお金や時間で他にもっと成功につながることができたはずなのに、それができなかった。つまり新しい機会を失っている。これが機会コストです。

例えば転職もそうです。「転職することによって失うこと」に目が向きがちですが、機会コストの視点を取り入れると「転職しないことによってどういうチャンスを失っているか」という新しい角度が生まれます。

この考え方は私が以前勤めていた証券会社でも使っていました。クライアントの「損失が出ているからしばらく様子を見るしかない」という考えに対して「この資金で他の商品を買ったら、もっと値上がりが期待できるんじゃないか」と何度か提言したことがあります。
これは「単に証券社員が顧客に売買させたいだけ」という見方もできますが、実際に商品を乗り換えて挽回できたケースを私自身幾度も見てきました。

と、書いてはいるものの、現実は機会コストを自分の頭にインストールして実行するのは結構難しいと思います。あきらめたり途中でやめたりすることって勇気がいるんですよね。
ただ仕事をする上で「視野を広げる」「可能性を探る」といった意味では、機会コストへの意識は持っていた方がよいと思いました。

人間の理解には考察よりも観察

ユーザーの理解を深めたい時に、クライアントへヒアリングをしたりユーザーにインタビューしたりすることがあります。
これは決して間違いではありませんが、著者は「考察」には限界があり、より大事なのは「観察」であると述べています。

なぜならヒアリングやインタビューは、その場で考えた限りの回答であることが珍しくないからです。
見栄を張って賢そうな理由を述べたり、質問者の顔色を見て相手が喜びそうな回答をしてしまったりすることはよくあります。このような状況から聞き取った内容で真に理解が深まるかは疑問です。

実際の行動はもっと非合理で、その日の気分や陳列棚の順番、天気や時間帯などさまざまな無意識の要素が働いています。
そのため著者は「エスノグラフィー」と呼ばれる対象者の生活に密着し、ありのままを観察する調査方法を推奨しています。当然全部のプロジェクトで行うのは難しいですが、主となるサービスや商品だけでも行うとよいでしょう、とのことです。

現実問題、ユーザーを直接観察することへのハードルは高いでしょう。クライアントがそこに投資してくれるかどうかも定かではありません。
ただ少なくともインタビューやヒアリングを過信しないマインドは持っておいた方がよさそうです。あくまでも仮説の一つとして持っておき、実際にユーザーへ働きかけていくことで検証を進めた方が確実でしょう。

世界の注目分野「身体的認知」

身体的認知とは、脳が身体を動かしているばかりではなく、身体が受ける情報は神経伝達物質として脳にフィードバックされることです(難しい)。

わかりやすい例を挙げると、実際には面白くも楽しくもない場面でわざと笑うことで、脳が「笑っているなら楽しいに違いない」と錯覚し、実際に楽しくなる、みたいな話です。マンガを読む時も、しかめっ面で読むよりも笑顔で読むほうが面白く感じられた、そんな研究結果もあるそうです。

あとは温かいお茶を出してもらうと相手のことを「この人は温かい人だ」と思い、冷たいお茶だと「この人はなんだか冷たい人だ」と錯覚してしまう。「本当か?」と思うことが、どうやら人間の無意識化では行われているそうです。

書籍の中では具体的な例がもっと紹介されています。例えばプロダクトの形やロゴを置く場所などで人が受ける印象は変わります。人間は脳で認知しているだけでなく、身体(五感)でも認知している。とても興味深いお話でした。

情報は多すぎてはいけないのが行動経済学

伝統的な経済学では「情報は多ければ多いほどいい」とされています。なぜなら経済学の基本は「人間は正しく合理的な意思決定をもとに行動できる」です。
たくさんの情報があってもその中からベストを選び、最良のものが手に入れられる、というわけです。

しかし行動経済学は人を「非合理な意思決定をする生き物」として捉えています。
一般的な人は大量の情報にさらされると集中力を失います。次第にメンタルと体力が奪われ、最良のものを選ぶところか面倒くさくなって行動すら起こせなくなります。書籍では情報オーバーロードとも表現されていました。

よくある「指示やフィードバックは簡潔に」というのは行動経済学的には"情報オーバーロードを回避せよ"です。情報が多すぎると理解する気力がなくなり、わかろうとする努力もしづらくなります。結果として決断や行動につながらなくなりがちです。
情報オーバーロードを回避する、webディレクターとして肝に銘じたいと思います。

テクニック編

ナッジ理論

ナッジとは「(注意を引くために)そっと突く、そっと動かす」という意味です。ナッジ理論は、人が強制的にではなく、よりよい選択を自発的に取れるようにする方法を指します。

例えばクラフトビールが100種類置いているお店があるとします。「当店には100種類あります」と言われても、顧客はどれを選べばいいのかわかりません。
なので「本日のビール」や「人気ビール」「気分爽快になりたい方はこちら」とお店側でオススメを用意してあげると顧客は選びやすくなります。
そりゃそうだよね、という話です。

私たちが生きているのは選択オーバーロード(選択肢が多すぎる)の世界です。ナッジ理論はユーザーへの小さな提案(選択肢)を通して、さりげなく、でもスムーズに行動を促すものです。webサイト制作でもよくありますよね。

おとり効果

おとり効果とは、誰も選ばないような選択肢(おとり)をあえて用意することで、もともとあったものを選ばせるという理論です。

書籍の中ではホームベーカリーの事例が載っていました。そのお店はもともと275ドルのホームベーカリーを1つ売っていたのですが、売れ筋はいまひとつ。そこであえてより高い415ドルのホームベーカリーを隣に置いたところ、275ドルのホームベーカリーがバカ売れした、というお話です。

iPhoneが複数のストレージを用意しているのも同じ意図だそうです。
あえて選択肢を複数用意して、顧客に落とし所を作る。さまざまな場所で応用できそうです。

自律性バイアス

人には、物事を「自分の意思で決めた」と思いたい性質があります。この性質を著者は「自律性バイアス」と呼んでいます。これを活用したコミュニケーション術が紹介されていました。

例えば目の前の人にプロジェクトを手伝ってほしい時に

  1. 「忙しいからプロジェクトを手伝って」

  2. 「プロジェクトを手伝ってほしいんだけど、書類の手直しをデスクリサーチ、どちらかお願いしてもいいかな?」

2つのどちらの方が頼まれる側は気持ちよく手伝ってくれるかというと、当然後者です。これは言い方の問題よりも、「自分は書類の手直しを選んだ」と自身の意思で決めたと思えるところがポイントです。
(実は裏にはこの聞き方は手伝うことが前提なので断りにくいというポイントもあります。いいか悪いかはさておき)

これは仕事をお願いする機会の多いwebディレクターは押さえておきたいテクニックでしょう。相手に主体性を持たせることは仕事でも子育てでも重要です。


以上、行動経済学が最強の学問であるの読書録でした。

行動経済学を仕事に活かしたい。そんな風に思って読み始めましたが、それより何より行動経済学ってシンプルにおもしろい。改めてそう思いました。

この読書録にはとても書き切れないおもしろさがまだまだあります。
気になった方はぜひご一読ください。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

X(Twitter)がんばってます。ぜひ覗いてみてください。

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