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第84号 「痛み」の脳活動バイオマーカーを発見、光ポンピング磁気センサ(OPM)を利用した高感度脳磁計はこの先普及するでしょうか?

// 2023年6月29日 第84号
// 1. 今週の注目ニュース:「痛み」の脳活動バイオマーカーを発見
// 2. 質問コーナー:光ポンピング磁気センサ(OPM)を利用した高感度脳磁計はこの先普及するでしょうか?

こんにちは、東京大学で医師かつ脳や人工知能の研究をしている紺野大地です。

政府による「新しい資本主義」の実行計画改定案に、 「脳科学の国家プロジェクト創設」が含まれる見通しというニュースがありました(以下有料記事内)。
アカデミックな研究はもちろん、脳神経科学の産業応用であるブレインテックにとっても、心強い追い風になりそうです!

「将来的に富の大半をAIが生み出す時代が来たら、人類は何をして生きていくのか?」
というnoteを先日書いたのですが、多くの人に読んでいただき感謝しています!
まだご覧になっていない方がいらっしゃれば、ぜひ読んでいただけると嬉しいです😊


では、今回も始めていきましょう!

1. 今週の注目ニュース:「痛み」の脳活動バイオマーカーを発見

今回取り上げるのは、
「侵襲的脳データを用いて、痛みのバイオマーカーを同定した」、という論文です。

「人が痛みを感じている時にどのような神経活動が生じているか」を客観的に記述できる意義は非常に大きく、将来的には「神経活動に基づく痛みの評価・診断」なども可能になるかもしれません。

一方で、個人差などツッコミどころも多く、今号ではその辺りまで深堀りして解説したいと思います。

まず背景から見ていきましょう。

背景

「痛み(疼痛)」は、誰であっても避けたいものだと思います。
医学的には、疼痛は「急性疼痛」「慢性疼痛」とに分類されます。
これらは、痛みが発生してからの期間や病態生理的なメカニズムに基づいて以下のような異なる特徴を持ちます。

  1. 急性疼痛
    急速かつ一時的な痛み。
    通常は傷害や疾患による組織の損傷や炎症などの明確な原因によって引き起こされ、部位も明確であることが多い。
    一般的に数日から数週間以内に解消する傾向があり、組織の修復や炎症の収束に伴って痛みも軽減される。
    例として、怪我、外科手術に伴う痛み、骨折、火傷、創傷などがある。

  2. 慢性疼痛
    痛みが3か月以上続く場合に診断される。
    原因が不明確で、痛みの場所や性質が一定しないことが多い。
    例として、腰痛、関節痛、慢性頭痛、神経障害性疼痛などがある。

疼痛の評価は主に患者自身の報告に基づくことが多いですが、どうしても主観的になってしまいます。
もし疼痛を客観的に評価できるバイオマーカーが存在すれば、医学における大きなイノベーションとなることは間違いありません。
疼痛も結局は脳で感じているため、疼痛が生じている際の神経活動を詳しく見てみよう、というのがこの研究の出発点となります。

以下で方法を見ていきましょう。

方法・結果

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