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2XXX年の未来予測(脳×人工知能)

こんにちは、東京大学で脳の研究をしている紺野大地と申します。

池谷裕二先生との共著『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』が、本日(2021年12月16日)発売開始となりました!

本書の「イントロダクション」では、神経科学や人工知能がこのままの勢いで進歩したら、将来的にはどんな世界が待っているのかを私なりに大胆に予想しています。

そこで本noteでは、この未来予想図の部分を抜粋して紹介したいと思います!

2XXX年の未来予測


脳や人工知能の研究がこのままのペースで進歩したら、いったいどのような未来が待っているのでしょうか?
ここで、未来の世界に暮らすあなたの一日を想像してみましょう。

睡眠を司る脳領域を刺激して、一瞬で目が覚める

2×××年のあなたの一日は、人工知能が「睡眠や覚醒を司る脳領域」を刺激することで始まります。この領域は睡眠や覚醒を司っているため、ここを刺激されたあなたは一瞬で目が覚め、眠気に悩まされることのない一日が始まります。

脳刺激でスッキリ覚醒・睡眠?
イラスト:須山奈津希さん、図版:アトリエ・プラン


未来のマインドフルネスで、常に脳を健康な状態に保てる

起きてまずすることは、脳状態のチェックとメンテナンスです。脳活動記録デバイスが1分で脳の状態をチェックしたところ、あなたは日々の疲れが溜まっており、このまま放置するとうつ病になりかねないという結果が出ました。でも安心してください。人工知能はそのようなサインを決して見逃さず、未来の神経科学に基づいてあなたの脳を適切に刺激し、常に脳を健康な状態に保ってくれます。ジムで定期的に身体のメンテナンスをするのと同じように、未来の世界では脳のメンテナンスが当たり前になるでしょう。日々脳の状態をチェックすることで、うつ病になってから治療するのではなく、そもそもうつ病にならずに済むのです。

未来のマインドフルネスのかたち?
YouTube:Kernel Flow Live Streamより


味覚を司る脳領域を刺激して、あらゆる食事を味わえる

忙しい朝の食事は、一日に必要な栄養がすべて詰まったサプリメント一粒です。味気ないと感じるかもしれませんが、ここで役に立つのは脳刺激デバイスです。本当に食べているのは一粒のサプリメントであるにもかかわらず、味覚を司る領域を刺激することで、あたかも一流レストランのモーニングを食べているかのような感覚を味わうことができます。私たちが日々感じる世界は、最終的には脳の活動に過ぎません。そう考えれば、視覚や味覚、嗅覚を適切に刺激できれば、「目の前にリンゴがないにもかかわらずリンゴが『視える』」「実際にはオムレツを食べていないにもかかわらず『おいしいと感じる』」ことが可能なはずです。未来の世界では、こういったことも実現されていくでしょう。

AIが「やる気スイッチ」を押してくれる

さて、仕事の時間です。今日の仕事は根気が必要でなかなかやる気が出ませんが、人工知能はそこもお見通しです。すぐさま「やる気を司る脳領域」を刺激してくれるでしょう。「やる気スイッチ」を押してもらったあなたは、重要なタスクを普段の数倍のスピードで終えることができました。やる気ブーストのおかげで、今日の仕事は午前中で終わりです。

いつでもやる気スイッチをONにできるようになる?
出典:やる気スイッチのスクールIE

「食べ過ぎて太る」という概念がなくなる

ここからはお昼を楽しみましょう。とはいえ、一日に必要な栄養は朝のサプリメントですでに摂取し終えています。ですからお昼ご飯は栄養摂取のためではなく、純粋に楽しむことが目的です。ここでもまた、視覚や味覚、嗅覚を司る脳領域の刺激によって、好きなものを「味わう」ことができます。コッテリしたものが食べたいと思ったあなたは、濃厚魚介つけ麺を楽しみました。十分に味わったと言ってもあくまで脳が刺激されただけなので、決して太ることがない点も大きなメリットです。この世界ではもはや、「おいしいものを食べ過ぎて太る」という概念が消滅しているのです。

口直しに紅茶が飲みたくなったあなたは、脳刺激により中世のイギリスにタイムスリップします。当時の街並みや雰囲気を肌で感じながら、本場の紅茶を堪能しました。

このように脳研究と人工知能の進歩は、私たちを時間や空間、身体といったあらゆる制約から解放し、人類の可能性を大きく拓いていくことでしょう。

アイデアをもとに、あっという間に文章が書きあがる

さて、今日の仕事は午前中で終わっているので、午後は純粋に自分のための時間です。あなたは最近、本の出版を目標にしています。ただし、これまで本を書いた経験はなく、執筆スキルに自信がありません。ここでも手助けしてくれるのは人工知能です。「人間と遜色ないレベルの文章を生成してくれる」という人工知能GPT-3が2020年に話題になりましたが、その進化版GPT-Xがあなたのアイディアをもとに、あっという間に本一冊分の文章を書き上げてくれました。あなたはその内容を読み、意図と異なる部分を指摘すると、これまた一瞬であなたの意図を完璧に反映させた文章に生まれ変わりました。
現代では「文章を書く」というスキルの獲得には長い時間をかけた修行が必要ですが、人工知能の進歩はあらゆる人のスキルをブーストしてくれます。未来の世界は、「才能がない」という理由で夢を諦める世界ではなくなるのかもしれません。

脳を介して「医師の知識」にアクセスできる

さて、現実の太陽光を浴びたくなったあなたは散歩がてら近くの公園に出かけます。すると、突然目の前の人がうめき声をあげてその場に倒れこんでしまいました。話しかけても反応はなく、どうやら心臓が止まっているようです。日々身体をモニターしているとは言っても、あらゆる病気を完全に予測することはまだできません。あなたは真っ先に救急隊に連絡をしましたが、救急車が到着するまで数分はかかりそうです。一般に、脳は酸素が途絶えてから数分で脳死状態に陥ると言われており、一刻の猶予もありません。あなたはすぐさま救命救急医の知識に脳を介して直接アクセスし、目の前の患者の救命処置を始めました。まもなく救急車が到着し、患者は病院へと運ばれていきました。数時間後、素早い対応のおかげで患者は後遺症もなく無事に回復したという連絡が届きました。
このように、将来は他人のスキルに自在にアクセスできる時代が来るかもしれません。逆に、あなたのスキルをアップロードすることで、世界中の人々に貢献することもできるでしょう。さらには、過去の偉人のスキルとして「アインシュタインの脳」を一時的に借りることもできるかもしれません。これらのスキルや知識のライブラリは、まさに人類全体の財産となるでしょう。

アインシュタインの脳を借りることができる時代が来る?
イラスト:須山奈津希さん、図版:アトリエ・プラン

さて、ようやく夜ごはんの時間になりました。ここでも、今日一日の栄養はすでに取り終えているので、目的は純粋に食事を楽しむことです。夜は「お母さんが昔よく作ってくれたカレーライス」をメインディッシュに、仮想空間を通じて田舎に住む両親や祖父母、海外に住む娘夫婦や孫と一緒に楽しいひとときを過ごします。

睡眠を司る脳領域を刺激して、一瞬で眠る

充実した一日を終え、明日に向けて就寝の時間です。ここでも、起床と同じように人工知能が「睡眠や覚醒を司る脳領域」を刺激することで、あなたは一瞬で深い眠りにつきました。
明日もまた、素晴らしい一日が待っていることでしょう...…。


この未来予想図を読んで、みなさんはどう感じたでしょうか?
このような未来予測はさまざまな本で行われていますが、本書では脳研究と人工知能の進歩に焦点を当てたのが特徴です。

「こんな未来が来るはずがない」と夢物語に感じている方もいるかもしれません。
しかし、すでに研究が進んでいるものも少なくないのです。
たとえば、「覚醒を司る脳領域を刺激するとネズミが目を覚ました」という研究や、「人間が書いたものと区別ができないレベルの文章を書く人工知能が誕生した」という研究などがすでに報告されています。

人間が想像できることは、必ず実現できる

もちろん、実現までにまだまだ時間がかかったり、極めて困難なものも数多くあります。

ですが、SF作家のジュール・ヴェルヌは、
「人間が想像できることは、必ず実現できる」という言葉を遺しています。

実際に近年では脳研究と人工知能の組み合わせにより、これまででは想像もできなかったような成果が次々と生まれ始めています。

本書では、脳と人工知能が融合する分野におけるこれらの最先端の研究を紹介しながら、その先にどんな未来が待っているのかを考えていきたいと思います。

脳や人工知能の研究がこれからの時代のフロンティアになることは間違いなく、この分野の最先端を知っておくことは未来を見通すことにもつながると私は考えています。

この本に興味を持った方は、ぜひご一読いただければ嬉しいです!


P.S. メルマガ「BrainTech Review」では、最先端の脳や人工知能研究を月3回解説しています。興味のある方はぜひこちらもご覧ください😊


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