BrainTech勉強会〜脳とドラッグ〜
先日、「脳とドラッグ」についてBrainTechの観点から勉強会を行ったので資料を公開しようと思います。
最初に結論を述べます。
・"ドラッグ"には、「治療薬」と「違法薬物」という全く異なる2つの意味がある
・"ドラッグ"は神経科学と結びつくことでまだまだ可能性が広がる、極めてポテンシャルの大きな領域である
以下は先日のツイートです。
簡単に自己紹介です。
東京大学の大学院で脳の研究をしている紺野大地と申します。
Twitterでは脳や人工知能の最新の研究について発信しているので、興味のある方はぜひご覧ください!
このnoteでは、発表スライドをベースに解説していきます。
では、よろしくお願いします。
脳科学と「ドラッグ」
自己紹介
そもそも「ドラッグ」とは
広辞苑によると、「ドラッグ」には2つの意味があります。
「麻薬」としてのドラッグ
まず「②違法薬物・麻薬」について考えてみます。
その前に、脳内の「報酬回路」を見てみます。
報酬に関わる脳領域は以下の図の黄色で示された部分です。
なかでも「内側前縦束(MFB)」は「ピュアに快感を司る神経繊維」と言われています。
内側前縦束(MFB)によってもたらされる快感はすさまじく、ここを刺激されると食べることも忘れて快感に夢中になるという研究があるほどです。
このように、報酬系を刺激することでまるで麻薬のような「ドラッグ」を生み出すことが可能となります。
「くすり」としてのドラッグ
次に、「①くすり」について考えてみます。
最近、たて続けに2つのソフトウェアが「治療薬」として承認されました。
・株式会社CureApp、世界経済フォーラムのテクノロジー・パイオニアを受賞
・ADHD児向けゲームを承認 「デジタル療法」初のゲーム
今後は錠剤や粉末薬だけでなく、「ソフトウェア」が処方される時代となっていくのでしょう。
脳の直接刺激がしたい
上記の「ソフトウェアによる治療」も素晴らしいのですが、個人的には「脳の直接刺激」に興味があります。
脳の直接刺激に興味を持ったきっかけは、2019年7月にイーロン・マスク率いるNeurainkが突如「2020年中に人間に電極を埋め込む」と宣言したことです。
とはいえ、イーロン・マスクも「まずは四肢麻痺患者さんを対象とする」と明言しており、「健康な人に電極を埋め込む」にはまだまだ時間がかかると個人的には考えています。
(Neuralinkから2020年8月28日に最新の報告があるそうです。乞うご期待!)
そこで注目しているのは非侵襲的な(人体を直接傷つけない)脳の直接刺激です。
なかでも、電気・磁気・超音波に着目しています。
さて、脳を直接刺激できると何が嬉しいのでしょうか?
以下で、「具体的にこんなことができるかも」というアイディアを紹介します。
脳の直接刺激で出来る(かもしれない)こと
1. Neuroscience-based のび太
脳内には覚醒と睡眠を司る領域が存在することが知られています。
ここを直接刺激できれば、
・瞬間で眠りにつく
・瞬間で苦もなく目覚める
などが可能になるかもしれません。
2. Neuroscience-based ライ○ップ
脳内には食欲を司る領域も存在するので、ここを直接刺激できれば「食べていないのに満腹感を感じ、苦痛なくダイエット」が可能になるかもしれません。
3. Neuroscience-based 冬眠
つい先日、脳内のある領域を刺激するとネズミを人工冬眠させられることが報告されました。
人間への適用はまだまだ先ですが、この領域を直接刺激できれば、いわゆる「コールドスリープ」が可能になるかもしれません。
冬眠様状態を誘導する新規神経回路の発見~人工冬眠の実現へ大きな前進~
(なお、上記はいずれも2020年時点では人間ではまだまだ不可能である点にご注意ください。)
まとめ
Take home messageです。
・脳刺激は「治療」として用いることができる
・脳刺激は「麻薬」としても用いることができる
・個人的には、非侵襲的な脳の直接刺激に興味がある
見てきたとおり、「ドラッグ」は神経科学と結びつくことでまだまだ可能性が広がる、極めてポテンシャルの大きな領域だと考えています。
おまけ
上でも述べましたが、Twitterで脳や人工知能の最新研究を紹介しています。
興味があればぜひ覗いてみてください!
また、上記資料のPDF版をSlideShare、Speaker Deckにもアップロードしているので、興味のある方はご自由にダウンロードいただければと思います。
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