見出し画像

第60号 アルツハイマー病の新たな治療法〜脳深部刺激療法、今年のNeuralinkの進捗報告はどのような内容になると思いますか?

// 2022年10月29日 第60号
// 1. 今週の注目ニュース:アルツハイマー病の新たな治療法〜脳深部刺激療法
// 2. 質問コーナー:今年のNeuralinkの進捗報告はどのような内容になると思いますか?

こんにちは、東京大学の池谷裕二研究室と松尾豊研究室で脳や人工知能の研究をしている紺野大地です。

10/31に予定されていたNeuralinkの進捗報告が11/30に延期となりました。
発表があり次第、BrainTech Reviewでじっくり取り上げたいと考えていますので、ぜひお楽しみに!


では、今回も始めていきましょう!

1. 今週の注目ニュース:アルツハイマー病の新たな治療法〜脳深部刺激療法

今回取り上げるのは、
「アルツハイマー病患者に対する脳弓・分界条床核(BNST)の脳深部刺激により、認知機能が改善した」というプレプリント論文です。

40人以上で検証している点も素晴らしく、
根本治療薬が存在しないアルツハイマー病研究にとって、大きな一歩となるかもしれません。

以下で、この研究の内容を深掘りしながら見ていきましょう。

背景

アルツハイマー病は認知症の一種であり、全認知症の約2/3を占める神経変性疾患です。
日本では2022年時点で400万人以上の患者が存在し、今後もしばらくの間増え続けると予想されています。
海外では2019年時点で5,000万人以上の患者が存在し、2050年には約3倍の1億5,000万人を超えると予測されています。

このように世界的に極めて重要な疾患でありながら、根本治療薬が存在しないというのがアルツハイマー病を考える上で重要なポイントです。
現在世界的に用いられているドネペジルやガランタミン、リバスチグミンなどはいずれもアセチルコリンを減らすなどの対症療法的な薬に過ぎず、根本治療薬は未だ存在していません。
つい先日、アミロイドベータ抗体薬のレカネマブが登場し大きく期待されていますが、効果や薬価の面で色々と課題も多いことをBrainTech Review58号で取り上げました。

私が東大病院の老年病科に進んだのは、アルツハイマー病をこの世からなくしたいという思いでした。
このようにアルツハイマー病には個人的にとても関心があり、その動向は注意深くウォッチしています。
以前のBrainTech Review15号では、「超音波による周波数刺激療法によるアルツハイマー病予防・治療」について紹介しました。
個人的にかなり期待しており、今後の進展に注目しています。

そんな中、今回は「脳深部刺激療法(DBS, Deep Brain Stimulation)によりアルツハイマー病患者の認知機能が改善した」という研究を取り上げます。

脳深部刺激療法は歴史的にはパーキンソン病、本態性振戦などの身体症状の改善の目的に用いられ、近年では強迫性障害、うつ病、摂食障害、統合失調症といった精神疾患治療にも用いられつつあります。

脳深部刺激療法には個人的にかなり注目しており、「神経精神疾患のオーダーメイド治療」という神経科学・ブレインテックにおける大きな流れの1つとして、BrainTech Reviewでも複数回取り上げてきました。

その流れの一環としてこの研究では、アルツハイマー病に対して脳深部刺激療法を行い、認知機能を回復させることに成功しています。

以下で詳しく見ていきましょう。

ここから先は

3,152字 / 6画像

¥ 250

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?