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第57号 神経精神疾患のオーダーメイド治療という新たな時代〜過食症の脳刺激治療、メタバース×神経科学のキラーコンテンツは何ですか?

// 2022年9月23日 第57号
// 1. 今週の注目ニュース:神経精神疾患のオーダーメイド治療という新たな時代〜過食症の脳刺激治療
// 2. 質問コーナー:メタバース×神経科学のキラーコンテンツは何ですか?

こんにちは、東京大学の池谷裕二研究室と松尾豊研究室で脳や人工知能の研究をしている紺野大地です。

9/17(土)20時から行われた神経科学×メタバースのイベント「未来のメタバース大討論会」に参加いただいた皆さん、ありがとうございました!
YouTubeのアーカイブで見れるので、興味のある方はぜひご覧いただけると嬉しいです😊


では、今回も始めていきましょう!

1. 今週の注目ニュース:神経精神疾患のオーダーメイド治療という新たな時代〜過食症の脳刺激治療

今回取り上げるのは、
「過食症患者に対し、"食欲がコントロールできなくなる直前"に側坐核(報酬系の一部)を刺激することで、食欲を確実かつ長期的に抑えることができた」という驚きの論文です。

個人的には、今年読んだ中でも現時点でトップ3に入るインパクトです。

「神経精神疾患のオーダーメイド治療」という神経科学・医学上の大きな流れはこの先確実に進むと思われ、この論文もまさにその流れを担う重要な研究です。

「神経精神疾患のオーダーメイド治療」とは一体どのようなもので、この先どのように進んでいくのでしょうか?
以下で、この研究の内容を深掘りしながら見ていきましょう。

背景

私の著書でも取り上げましたが、神経科学を代表する研究者の一人であるニューヨーク大学のGyörgy Buzsáki先生は、著書「The Brain from Inside Out」において、「脳科学における次の時代の目標」として以下の3点を挙げています。

  1. 高い空間・時間解像度で脳機能をモニター・操作する非侵襲的技術

  2. BMIなどを用いた神経・精神疾患の治療

  3. 赤外線、紫外線、放射線、磁気などの新たなモダリティの知覚獲得

このうち「2. BMIなどを用いた神経・精神疾患の治療 」は、「理想的ではあるものの実現まではまだしばらく時間がかかるのではないか」というのが2021年中盤までの個人的な考えでした。

そんな中、2021年10月に「うつ病患者の脳活動を常時モニターし、”落ち込んでいるパターン”が検出されたら電気刺激することで気分を急速かつ持続的に改善できた」という衝撃的な研究が発表されました。

これは去年読んだ中で個人的にナンバーワンの研究であり、著書やBrainTech Reviewでも詳しく取り上げました。

そして今回紹介する研究は、「過食症」を同様の発想で治療した、という内容です。
具体的には、いったいどのようにして過食症のオーダーメイド治療に成功したのでしょうか?

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