脳科学・神経科学入門ガイド
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脳科学・神経科学入門ガイド

Daichi Konno / 紺野 大地

(最終更新:2022年3月)

こんにちは、東京大学で脳の研究をしている紺野大地と申します。

私が脳科学・神経科学に興味を持ったのは2010年頃(大学1,2年生)、真剣に研究を志したのは2016年(初期研修医2年目)のことでした。

本noteでは、過去の私のように「なんとなく脳科学・神経科学に興味がある人」「しっかり学問として学ぶまで」(そして、その後研究を始めるまで)にどのようなステップを踏めば良いのかについて、当時知っておきたかったなと思う情報をまとめています。


補足1
"脳科学(Brain Science)"
は「それまでの神経科学に閉じることのない、広範な人間理解のための科学を創っていこう」という意図で、1997年に理化学研究所の伊藤正男先生により作られた単語・学問分野になります。

補足2
世界的には、"脳科学(Brain Science)"よりも"神経科学(Neuroscience)"という単語が用いられることが一般的です。
以降、本noteでは"神経科学"で統一します。

補足3
このnoteでは神経科学の産業応用であるブレインテック・ニューロテックではなく、神経科学の学問的な学び方について扱います。

ブレインテック・ニューロテックを学び始めたい人は、本noteと対になるこちらのnoteをご覧ください😊


では、具体的な内容に入っていきましょう!
神経科学を学問として学ぶためのフローチャートは以下になります。

1. 一般書を読む
2. 専門書を読む
3. 論文を読む
4. 研究室に入る
5. その先へ...

それぞれ解説していきます。

1. 一般書を読む

まずとっかかりやすいのは一般書でしょう。(というより、一般書から神経科学に興味を持つ人が多いかもしれません。)

個人的に、万人におすすめできる一般書は以下の6冊になります。

進化しすぎた脳(池谷裕二)

私が神経科学に興味を持ったきっかけの本。高校生に対する連続講義を書籍化しただけあって、意欲のある中学生以上ならスラスラ読める。もう15年以上も前の本だが、今読んでも新たな気づきがある思い入れの深い一冊。

単純な脳、複雑な「私」(池谷裕二)

「進化しすぎた脳」の続編。「進化しすぎた脳」があまりにも面白くて、読み終わった当日にこの本を買いに走ったのを思い出す。池谷先生自身も、「一番思い入れがあって、一番好きな本」と述べている一冊。

脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線(紺野大地、池谷裕二)

手前味噌で恐縮ですが、私の初の著書(池谷先生との共著)。
「脳と人工知能が融合する未来」について、最先端の研究をふんだんに取り上げながら考察している。
「2022年時点での脳科学、人工知能研究の最先端はどこにあるのか」を一冊で俯瞰できる内容になっている。

意識はいつ生まれるのか(ジュリオ・トノーニ)

科学における最大の謎のひとつ、「意識」を解明しようという新たなパラダイム「統合情報理論」。提唱者であるトノーニ先生自身が軽やかな語り口で統合情報理論を解説した、知的興奮間違いなしの一冊。
(この本を読んだ後しばらくは、意識の研究をしようと思っていました笑)

メカ屋のための脳科学入門(高橋宏知)

帯に書いてある、
エンジニアの視点から脳を眺める、まったく新しい解説書。機械系の学生はもちろん、生物を学ぶ若者にこそ読んでほしい。」
「脳科学はアイデアの宝庫だ!脳科学が人工知能を変える!
という謳い文句そのまま。
2冊シリーズとなっており、個人的には2冊目の方がより面白かった。

この2冊は、「一般書と専門書の中間」くらいの位置付けです。

追記:ここでは扱いきれなかった本を以下のnoteで取り上げているので、興味のある方はぜひこちらもご覧ください😊


2. 専門書を読む

上記の本を読んだら、次は専門書にトライしてみましょう。専門書は数百年かけて先人たちが積み上げてきた知が体系的にまとまっているので、効率良く知識を吸収するのに最適です。

一方で、専門書を一人で黙々と読むのはなかなか辛いので、神経科学に興味がある友人を何人か誘って輪読会のように取り組むのが良いかもしれません。

ここでは、4冊の教科書(+1つのアプリ)を紹介したいと思います。

カンデル神経科学(エリック・カンデル)

神経科学におけるバイブル。1,700ページ近くあり、いざとなれば枕や鈍器としても使える(噛んでる人もいる)。私自身は研修医2年目に半年くらいかけて通読したが、基本的には「興味がある部分や気になった部分を参照する本」と思っておくのが吉。

スタンフォード神経生物学(リクン・ルオ)

カンデル神経科学と並び、万人におすすめできる神経科学の教科書。700ページ強とカンデル神経科学に比べればコンパクトだが、神経科学の幅広い分野を網羅する充実の一冊。

マイヤーズ心理学(デイヴィッド・マイヤーズ)

「心理学」というタイトルがついているが、"記憶"や"精神疾患"というように神経科学に関わる内容がかなり多い。カンデル神経科学よりも読みやすいので、まずはこの本から読み始めるのもおすすめ。

病気がみえる<脳・神経>

医学生にはおなじみの「病気がみえる」シリーズ。神経科学というより、臨床神経学の本だが、脳の構造や機能についてのイメージをつかむにはとても良い一冊。

ヒューマン・アナトミー・アトラス

本ではなくアプリだが、とても有用なのでここで紹介。3Dの脳をグリグリ回転させながら解剖できる。脳だけでなく体全体について学べるので、特に医学生には必須とも言えるアプリ。


3. 論文を読む

ここまで来たらいよいよ論文を読み始めましょう。

とはいえ、一口に論文と言っても様々な種類があり、個人的なおすすめルートは以下になります。

日本語総説→英語Review→英語Article

日本語総説:特定のテーマについて歴史も踏まえながらまとまっている。なんと言っても日本語なので読みやすい。

英語Review:英語版の総説。英語ということで出版数が桁違いに多く、ほとんどの場合、日本語総説よりも情報が新しい。

英語Article:個々の研究についての論文。Articleが研究における最新情報なので、実際に研究を始める際には必須となる。

私自身、読みはじめの頃は英語ReviewやArticleを1本読むのに数時間かかりましたが、現在はDeepLなどがあるので初学者でも半分くらいの時間で読めるかもしれません。慣れてくると〜30分くらいで読めるようになると思います。
(とはいえ、原文を読めるだけの英語力は当然必要です。)

なお、論文はPubMedGoogle Scholarで調べるのが王道ですが、タイトルや著者が分かっている場合はこれらを使わずにGoogleで直接調べています。


4. 研究室に入る

「英語論文を読める」「実際に研究に携わる」の間にも大きな隔たりがあります。
教科書や論文を読んでいるだけだと、
「こんなこともできるのでは?」
「1つの論文を出すのに時間がかかり過ぎじゃない?」
などという思いが浮かびますが、実際に研究をすると、
「1つの論文の裏にはこんなに膨大な実験が隠されていたのか」
と圧倒されること間違いありません。

そのあたりの肌感覚は実際に研究を始めることでしか実感できないと思うので、英語論文が多少なりとも読めるようになったら、興味のある研究室に通うのが良いと思います。


5. その先へ...

実際に研究を始めたあなたには、
「こんなことがしたい」
「自分はこういう分野が好きだ」
という興味が芽生えていることと思います。

ここから先は、ぜひ自らの好奇心にしたがって道を切り拓いてください!
(などと偉そうなことを言っていますが、私自身も修行の最中です。)


おまけ1:研究室に入る前にやっておくと良いこと

個人的には以下の2つです。

1. 英語論文をなんとか読めるようにする

最低限の英語力があれば、論文を読むことの難しさはだいたい「専門知識の不足」(専門用語や用いている手法を知らないなど)です。
つまりこれは「日本語で読んでも分からない」という状態なので、日本語総説がだいたい理解できるようになってから英語論文にチャレンジするのが良いと思います。

2. プログラミングに触れる

いよいよ義務教育でもプログラミングが必修となることを考えると、研究室に入る前に「プログラミングに拒否反応を示さない」程度に慣れておくとすごく楽だと思います。

教材として、東京大学の「Pythonプログラミング入門」は無料にもかかわらず非常にクオリティが高いので、こちらから始めてみるのも良いかもしれません。

おまけ2:情報収集源

研究を行う上では情報収集のスキルも非常に重要です。
私が利用しているのは主に以下の2つの情報源です。

1. RSSリーダー

神経科学を学ぶ上では、CNS3誌(Cell, Nature, Science)+ Nature Neuroscience, Neuronあたりは必須。
私はRSSリーダー(Feedlyなど)を利用して、新しい論文が出るたびに通知が来るようにしています。
また、最近はまずbioRxivに投稿する研究者も多いので、気になるワードをアラート登録するのも良いかもしれません。

2. Twitter

Twitterは情報収集ツールとしてものすごく有用です。
なかでも個人的に参考にしているユーザーを何人か紹介します。

 神経科学系

 池谷裕二先生:神経科学に限らず、サイエンス全般について最新論文をツイートされています。

 Ayaka Katoさん:理化学研究所所属。計算論的精神医学のデータベースを作成したり、CureAppで依存症の研究をしたり。

 人工知能系

 小猫遊りょうさん:人工知能や最新のテクノロジーについての有用な情報をひたすらツイートしてくれます。

 えるエルさん:松尾研究室の大学院生。深層学習や強化学習についての最新情報が知りたい方はぜひ。


おわりに

長い文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。
神経科学を志す人が1人でも増えてくれれば何より嬉しいです!

P.S. 神経科学や人工知能、老化についての最新研究を月3回深掘りする"BrainTech Review"を連載しています。
興味のある方はぜひご覧いただければ嬉しいです😊(初月無料です!)


追記(2020年8月9日)
神経科学を学ぶことができる具体的な学部・学科については、Ayaka Katoさんによる記事や、濱田太陽さんの提案により作成中のSpreadSheetをぜひご覧ください!

https://bellwether.kakeai.co.jp/communication/brain_science/
(ヘッダー画像出典)

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Daichi Konno / 紺野 大地
東京大学医学部卒 医師・神経科学者. 脳や人工知能の研究を通じて、「脳の限界はどこにあり、テクノロジーによりその限界をどこまで拡張できるのか」を探究している. 著書:『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』