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「侵襲型のNeuralink」、「非侵襲型のKernel」

Daichi Konno / 紺野 大地

こんにちは、東京大学の大学院で脳の研究をしている紺野大地と申します。

先日Twitterで取り上げた、
「近い将来Neuralinkとの双璧になりそうな神経科学スタートアップKernel」
について簡単にまとめたいと思います。
(Kernelの一般的な情報はこちら。研究についてはこちら。)

なお、Neuralinkについては以前まとめた記事があるので、興味のある方はぜひそちらも参照ください。

みなさん、Kernelというベンチャー企業をご存知でしょうか?
Kernelとは神経科学をターゲットとしたアメリカのベンチャー企業で、2016年に設立されました。

アドバイザーにEd. Boyden先生やG. Buzsaki先生も含まれており、サイエンスベースドな企業であることが伺えます。

ホームページには会社の目的として、「脳の機能を向上、加速させること」と記載されています。

そんなKernelが先日、

・現時点で最高レベルの非侵襲脳記録デバイスを2つ作り上げた
・これらをAs a Serviceとして提供する

という発表をしたので、以下に要点をまとめます。

Kernelの目的

上にも記しましたが、Kernelの目的は「脳の機能を向上、加速させること」と記載されています。

最高レベルの脳記録デバイスの作成

神経科学を行う上で、記録・観察デバイスの重要性はいくら強調してもしすぎることはありません。

電子顕微鏡

Kernelによると「理想的なデバイス」は、

・安価で使いやすい
・自然なユーザー環境(日常生活など)が可能

・高いS/N比を持つ

である一方で、「現状そのような非侵襲デバイスは存在しない」と記されています。

そこで彼らは、

・4年間、フルスタックで脳信号を記録するデバイス開発に取り組んだ
・現時点で最高レベルの非侵襲デバイスを2つ作った

と主張しています。

以下で2つのデバイスを見ていきます。

1. Kernel Flux

1つ目のKernel Fluxは、
「脳磁図(MEG)を用いた脳活動(電気・磁気的活動)の記録デバイス」です。

有線ヘルメット型(約1.6kg)であり、従来のMEGは記録中に動くことが困難であったが、Kernel Fluxでは自由に動き回ることができると主張しています。

一方、現時点では部屋全体の磁気シールドが必須であり、この根本的な課題を軽減、解決できるのか気になります。

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Kernel Fluxのイメージ図

2. Kernel Flow

2つ目のKernel Flowは、
「近赤外光(NIRS)を用いた脳活動(血行的活動)の記録デバイス」です。

従来のNIRSよりもはるかに小型化されていること、被験者が自由に動き回ることができること、数千ドルで製造可能であることを主張しています。

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Kernel Flowの本体

システムをAs a Serviceとして提供する

さらに彼らは、これらのデバイスをノイズ除去や前処理パイプラインまで含め「ボタンを押すだけで提供される」システムとしてユーザーに提供することを明言しています。

ボタン

"Neuroscience studies delivered at the touch of a button."
というパワーワード

「侵襲型のNeuralink」、「非侵襲型のKernel」

個人的にこれらの発表にとても興奮しており、この先数年で
「侵襲型のNeuralink」「非侵襲型のKernel」という時代が来る予感がしています。

この先、NeuralinkとKernelのどちらが主流となるのでしょうか?

個人的には、先に社会に受け入れられるのはKernelだと考えます。

Neuralinkの掲げる未来像は刺激的ですが、「頭蓋骨に穴を開けて脳に直接電極を埋め込む」という世界観はすぐには受け入れ難いでしょう。
イーロン・マスク自身も明言するように、まずは四肢麻痺の患者など、医療応用から始まるのは間違いありません。

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頭蓋骨に穴を開けるNeuralinkのデバイス

その点、身体を傷つけないKernelのデバイスは圧倒的に受け入れられやすいでしょう。
Kernelがデバイスを今後どう活用していくのかは不明ですが、基礎研究・医療・ビジネスいずれにも応用可能だと思います。

とはいえ、侵襲型と非侵襲型の両方の選択肢があることは非常に重要です。
今後もこの2社の進捗を注意深くウォッチしたいと考えています。

アカデミアと企業による科学の進歩の加速

NeuralinkとKernelの両企業はこれらのデバイスをアカデミアに対しても提供することを示唆しています。

近年、アカデミアと企業の結びつきがますます増している人工知能業界のように、アカデミアと企業が協力することで神経科学がますます発展すれば良いなと考えています。


P.S. お読みいただきありがとうございました。
神経科学や人工知能、老化についての最新研究を月3回深掘りする"BrainTech Review"も連載しています。
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