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「NPOにとっての成長」を考え抜いた結果、「規模の成長」は手放した話

今回は「NPOにとっての成長」というテーマで、自団体で長年考えてきたことや、最近になって行った意思決定などを紹介しながら、少し経営っぽい話を書いてみたい。

はじめに 〜揺らぐ「成長」の定義〜

社会の分断や気候変動の深刻化などを受け、ここのところ、いよいよ資本主義のあり方に対する議論が国内外で盛り上がっている。数年前に話題になった斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』では、成長を前提とした資本主義というシステム自体を変えるべきという過激な論まで展開された。

このあたりは色々な意見の人たちがいると思うが、実際、時価総額やGDPといった「経済的なKPIでの成長だけを追い求める時代」に変化の兆しがあることは、多くの人が感じているのではなかろうか。

実際、「NPOにとっての成長とは?」という問いは、僕が代表を務めるクロスフィールズでも、創業からずっと考えて続けてきたテーマでもある。

先に結論から言ってしまうと、色々と考えた結果、僕たちは今年になって「規模の成長を前提としない経営にシフトする」という意思決定に至った。そこに至るプロセスや、「規模の成長」を手放す覚悟に込めた想いを書いていく。

「規模の成長」を志向したNPO経営

僕たちは創業以来、ビジョン達成に向けた戦略を事業規模の拡大を軸に考えてきた。中期戦略を立てる際にも、一般的な企業と同じように「3年後には事業収入をXX%拡大し、組織はXX人規模に成長している」といった定量的な未来の姿を描き、そこから逆算しながら事業計画をつくっていた。

規模の成長を前提にしていた背景は、創業当初から運営していた「留職」という事業の特性も関係している。事業規模の拡大(派遣人数の増加、及びそれに伴う事業規模の拡大)が、そのまま社会的なインパクトと比例しやすい事業だと考えていたからだ。

また、欧米には圧倒的な規模と影響力を持つNPOが多数あり、「日本のNPOの経営基盤は脆弱なので、早く追いつかないと」といった焦りや憧れが、自分たちを規模の成長へと駆り立てていた面もあったかもしれない。

それゆえ、「年間50億円の事業規模となり、アジア有数のNPOになることを目指す」といった拡大志向の中期目標を掲げていた時期もあった。

「価値創造型NPO」としての自覚

でも、「規模の成長を志向することで、社会に生み出す価値を最大化させるのか?」「事業規模が拡大すれば自分たちは達成感を得られるのか?」といった疑問は、長期間にわたって自分たちのなかにモヤモヤと存在していた。

あるとき、当時さまざまなNPOのコンサルティングを手掛けていた山元圭太さんを迎えてチーム全体で議論を行うことがあった。そのとき、山元さんがこんなことを言った。

「NPOには課題解決型価値創造型がありますけど、クロスフィールズさんが目指す方向はかなり価値創造型の色が濃いと思うんですよね」

この言葉とともに山元さんが見せてくれたのが、この比較表だ。

山元圭太さん作成の「課題解決型NPO」と「価値創造型NPO」の比較表

課題解決型NPOは明確なゴールに向かって全員で一緒になって進む。それに対し、価値創造型NPOは曖昧な目標に向かって各自が自律的に試行錯誤を繰り返す。同じNPOでも、どちらのタイプなのかで価値の生み出し方や事業戦略に大きな違いがあると山元さんは力説した。(この比較表は決して優劣を示すものではないし、各団体を必ずしも二元論的に分類することはできないことにも注意が必要だ)

こう考えてみると、クロスフィールズのような概念的で曖昧なビジョンを掲げる価値創造型の色が濃いNPOにとっては、事業規模を大きくすることはインパクトを拡大する上での必須要件ではないように思えてくる。

むしろ、社会がどのように変化しているのかを見定め、そこに対して必要な動きを機動的に打ち出し続ける方が、価値創造型のNPOには最適な戦略ではないか。規模の拡大を優先して選択と集中を行うより、絶えず形を変えながら小回りをきかせたほうが、社会の多様なニーズをキャッチしやすいのではなかろうか。

無論、実施する事業によっては規模の成長が価値の最大化につながるケースもある。だが、NPOという組織形態にとっては、組織全体の事業収入の成長を前提に経営を行うことが、常に正しい戦略ではないのである。

コロナ禍でのショック療法

ただ、実は山元さんの指摘を経てからも、僕たちはしばらく規模の成長を前提とした戦略を取り続けた。正確に言えば、続けて「しまって」いた。 これまでの経営方針を大きく転換することが、思うようにできなかったのだ。

そこに良くも悪くも、大きな外圧が加わった。
2020年に直撃したコロナ禍だ。

クロスフィールズはコロナ前まで、留職などいくつかの主力事業を着実に育てる事業運営をしていた。それがコロナによりすべての既存事業がストップし、結果的に、オンライン型のプログラムやVRを活用した新規事業などを次々と立ち上げることになった。(この経緯はこちらの記事を参照)

コロナ禍の事業転換を経て、自分を含むメンバーたちに「自分たちは既存事業を地道に成長させるだけでなく、社会の変化に対応して事業を次々生み出すこともできる」という自信が育まれたのだ。

組織としての成功体験を積むことができ、いよいよ価値創造型NPOを本気で目指す覚悟が固まっていったのだ。その後、団体としてのビジョン・ミッションを大きく刷新するというプロセスも経た2022年の夏。当時、事業収入2.3億円・常勤職員25人という規模の組織が「NPOとしてどんな成長を目指すのか?」という骨太な議論にいよいよ向き合うこととなった。

「規模の成長」を手放すという覚悟

中心的な議論は経営陣と理事会とで実施し、メンバーとの対話も経た上で、数カ月間をかけて以下のような方向性を見出していった。

  • 規模の拡大を前提とすることは手放し、社会の変化に対応して柔軟かつ迅速に価値を生み出すことでビジョン達成を目指す

  • 一方で、組織の持続的な運営を考えていく観点から、事業収入3-3.5億円・常勤職員30人程度という規模イメージを持って経営を行う(※あくまでも規模イメージであり、これを必達目標にするわけではない)

実際、この意思決定の手前では、さまざまな葛藤があった。

たとえば、「規模の成長がなくなれば責任ある役職につく機会が減り、メンバーの成長機会が減るのでは?」という懸念点だ。ただ、この点についてはメンバーのキャリア構築に積極的に取り組むことや、新規事業が増えてリーダーポジションが増えることで解消可能であると考えるに至った。

また、「壮大なビジョンを達成するなら、やはり規模の成長も必要なのでは?」という声もあった。これについても、他組織や外部人材との協働を積極的に行うことや、労働集約的な手法だけでなくシステムを変えるようなアプローチの事業を行うことで、自組織の規模の拡大をしなくてもインパクトをスケールさせていくことは可能であると考えた。

このあたり、クロスフィールズの理事を務めて頂いているNPO法人コペルニク代表の中村トシさんが議論に加わっていたことが大きかった。

コペルニクは過去に何度もPivotを繰り返し、いまは実証実験を行うことに特化する戦略を取っている。また、既存事業を切り出してスピンオフの組織をつくるなどといった、組織規模を維持したうえで大きなインパクトを生み出す経営のあり方に挑戦している。

そのトシさんから「規模拡大を目指すより、色々な変化を起こしたほうがメンバーもやっててオモロいで」と言われたことは、今回の意思決定を大きく後押ししてくれたように思う。(コペルニクの変革プロセスやトシさんの考え方に興味がある方は、ぜひこちらのSSIR-Jの論文を読んでみて欲しい)

NPOならではの多元的な成長志向

今回の決定はかなり大胆な方向転換であり、怖さもある。もしかしたら数年後にはまた違う方針を掲げている可能性だってある。

ただ、先日のnote記事でも書いたように、スタートアップをはじめとした企業が規模を追求しながら社会課題解決に取り組む流れが加速するなか、「NPOは株式会社にできないことを志向すべき」という自分の想いはますます強くなっている。

その意味では、経済的な指標での成長を目的や前提とする民間企業的な戦略は、これからNPOが進む道とは思えない。むしろ、ますます多様化する社会に寄り添い、もっと多元的な価値を認め合うような世界を追求したほうが、NPOの強みが生きてくるように思うのだ。

多様なNPOがそれぞれに「自組織ならではの成長」を突き詰めていく先にこそ、民間企業には描くことのできない「社会の多元的な成長」「新しい成長の定義」が見えてくる気がしている。

そのために、クロスフィールズとしても「NPOらしい成長」を、仲間たちとともにこれからも追い求め続けたいと思っている。

最後に 〜一緒に「成長」したい人たちへ〜

「規模の成長」を前提としない覚悟を決めた少数精鋭のクロスフィールズでは、実はいま新メンバーを募集している。

特に、今回書いたような「NPOならではの成長」をともに生み出していくプロジェクトマネージャーのメンバーを積極的に募集している。ご関心のある方は、ぜひ以下のリンクから詳細を見てもらいたい。

今回書いた内容、Voicyでも少し違う切り口で話してみたので、よければ聴いてみて下さい!(まだリスナー少ないので、ぜひフォローお願いします…)


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