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サイズアウト

子供服は身長ピッタリにかってしまうと、成長が早いものですぐにそのサイズの服は着れなくなる。
これがいわゆる「サイズアウト」だ。

この間まで、感動の出産と対面を果たしたばかりだと言う、片手でおさまっていた長女はいつの間にかもう小学生だ。
とんでもない速度で成長しているし、今もどんどん大きくなっている。

つまり何が言いたいかって、この「サイズアウト」が頻繁に発生しているのだ。

サイズアウトが発生すれば、勿論だが、着ることができる服を新たに調達せねばならない。

去年着てた冬の服を今年着てみたら、手も足も「つんつるてん」の状態で、なんかとっても寒そうだし下手したら風邪引くだろう。
そんな状態になってしまっていては、正直見ていられないし健気に感じてしまう。

だから、その分お金もかかるし、洋服の調達のため西松屋に行ったり、気に食わなければデパートに行ったり、色々と大変な目にあう。
しかし、やらなければならない。

でも、考えてみれば当然である。
長女は今小学生であり、ここ数年と言う僅かな間に体重約3kgから20kg程度まで成長した。
ざっくりとした計算ではあるが、自分の体重の7倍かつ17kg以上増えているから、当然それに合わせて大きくなっている。
なので、サイズアウトすることは必須イベントでありどの子供にも訪れるものである。


一方、このサイズアウト、子供だけの言葉であるのかと言われれば、僕はそうではないと思っている。

何故なら、僕が去年着ていた服は、着れないことが多いからだ。
これをサイズアウトと言わず何と呼ぶのか。
原因は勿論「成長」である。
ムーアの法則(パソコンの性能は18ヶ月で2倍になる!と言い切った預言みたいな法則)の様に、定期的に1年間で5kg太り続けている僕は、気付いた時には別人になっていた。

端的に言うなら、昔のアンガールズ山根が高田延彦になった感じである。
戦うフィールドは、表舞台であることに変わり無いが、話術が武術に変化するくらい大きな衝撃である。

うちの妻曰く、結婚した当初には旦那である僕の写真を見せれば「えー!モデルみたい!イケメン、かっこいい!羨ましい!」等と言われていた様だ。
しかし最近はどうだ、ママ友に見せれば「旦那さんすごく優しそう」という、最大限持ち上げ捻り出した、そんな決まり文句で返ってくることが殆どだ、と言っていた。
殆どに該当しない残りは「大きいね」だろう。

と言うことで、僕は成長を重ね高田延彦になった。
すると当たり前だが、かつて着ていた服がどれも着れない。

一番ひどかったのはズボンだ。
僕はスキニーパンツをこよなく愛しており、とりわけエイプリル77が大好きだった。
あの何にも変え難い、スリムなシルエット、そしてポケット上についたピック入れが、ロックバンド好きな僕の心をくすぐった。
何本も気に入っては購入を繰り返して、いつの間にか蓄積したズボン、これらは全て太ももから上がらなかった。
当然だ27から28のサイズを買っていた。

そして、シャツについても同じことが言える。
僕はとにかくポールスミスが大好きである。
特に、季節や年で大きくデザインが変わる、アーティスティックなデザインのシャツが大好きだ。
あの鮮やかで綺麗なデザインのシャツを、細身に合わせてピッタリ着こなし、派手に見せない様に他のアイテムをシンプルに着こなすことが好きだ。
しかしこれもまた、今の僕が着ればただのドン小西になる。
いや、ドン小西に失礼過ぎた、謝罪したい。
そして何よりも、シャツのボタンを閉める時、すでにシャツが悲鳴をあげているのを感じる。
みれば、はち切れそうに、全てのボタンとボタンの間から僕の肌が「こんにちは」している。
当然だ、MからLサイズを買っていた。

と言うことで、気付けば、見事なまでに大きく成長した僕こと高田延彦が鏡の前にいた。
そして、めでたく、洋服のサイズアウトを迎えた、というわけだ。


そして僕は自分の成長限界を知らなかった。
いわば、伸び代幅を見誤っていた。
あろうことか、成長段階にもかかわらず、オーダースーツにまで手を出し始めたのである。
成長は止まることを知らず、現在は全盛期と比較すれば30kg増、社会人5年目と比較すると25kg増と、0歳児が7歳児になる程の大きな変化が現れた。

オーダースーツのズボンのホックは、お腹をへこませてようやく閉められる。
つまり、少しでも精神集中状態に歪みが出ればたちまちホックが弾けてしまう、そんな緊張感があった。
その緊張感が嫌で、再びオーダーをし少し拡張したスーツを購入する、そんな日々が数年続いたが、妻の白い目により僕の異常さに気付いた。
そう、僕の体型はいつのまにか、妖怪の餓鬼になっていたのだ。
そして、オーダースーツをやめ、スーツカンパニーに吊るしのスーツを買いに行った時のことだ。
店員さんに採寸してもらっている時、「ウエスト98センチです」と言う声だけが、物凄く小さな声だった。
「えっ…僕って太ってる?」
自分がデブであることを認識した瞬間だった。


そこからは、自分の行動を改め反省した。
コロナ禍のタイミングも相まって服装全てを見直すことになった。

そして僕は何をしたか。
決まっている。

サイズXL、たまにXXLしかもビッグシルエットに手を出した。
え、ダイエットだって?
僕はいつか痩せるからそんなものやる必要がないだろう。

このビッグシルエットに大きめサイズ、これが凄まじく快適だった。
何が良いって、まず洋服は選ばなくて良い。
強いて言うなら、色の組み合わせだけで済む。
何故ならシルエットが全部一緒でダボっとしている。
お決まりのゴムで調整できるズボンに足を通し、完成した姿はまあ悪くない。


しかし、前述した様にサイズアウトと切って切れないものが、出費である。
エイプリルもポールスミスもオーダースーツも全てゴミと化した。
僕の成長の賜物である。

そして、新たに無印とサカゼンを迎え入れた。
この選択は勿論現在の自分の状態と、将来なりうる姿を見据えたものだ。
以前の洋服選びからは考えられないが、もう選択の余地がないからしょうがない。
この様に顧客を失うこともあるのだから、僕は時にはブランド側の歩みよりも、必要ではと感じている。

僕は今日も明日もビッグシルエットとXLの洋服を着る。
この洋服を着ていればサイズアウト発生しないだろう。
なんせまだ、成長の余白があり許容するサイズ感だ。
完璧な洋服選びをする自分を褒めたい。


ん?ただ、僕の記憶が正しければ、同じ事を昨年も言っていた様な気がしてきた。
いや、気のせいだろう。

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