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ヒロタのシュークリーム

  子供のころ、親父が時々、会社帰りに「ヒロタのシュークリーム」を手土産に買って帰ってきてくれた。セロハンに包まれた細長い箱に入った、4個入りのやつ。カスタードか、カスタードとホイップのミックスが定番だった。それだけで親父は偉人だった。

  ある時、親父に「なんで4個しか入ってへんの」と聞いた。親父は得意げに「家族で1個ずつ分け分けして食うんや」と言った。ヒロタは、他社のシュークリームより小ぶりだけれど、濃厚なカスタードがぎゅっと詰まっていた。1個食べただけで幸せになれた。「一億総中流」なんて言われた頃の話だ。

  そのヒロタが、関西の直営店をほとんど閉めるという。大阪の洋菓子職人、廣田定一が創業した「洋菓子のヒロタ」は、終戦後の1948年、神戸・元町に工場兼店舗を構えたのが始まり。1964年に開発したシューアイスも、夏の定番商品になった。半世紀たっても、ヒロタの味と大きさは変わらない。それだけ完成された商品なのだ。

  ヒロタのシュークリームよ、永遠なれ。そして私も、親父の背中をおいかけて、ヒロタのシュークリーム4個入りを買って家に帰ろう。

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