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所有権登記名義人の住所変更登記の義務化について

【はじめに】

 近年問題となっている所有者不明土地問題(所有者が不明な土地、又は所有者が判明してもその所在が不明な土地)の解決を目的として、民法の改正と合わせて2021年4月に改正不動産登記法が交付されました。

この改正には大きな変更点がいくつも含まれていますが、本日はその中から、従来から大きく取扱いが変わる手続として「所有権登記名義人の住所(氏名等も含む)変更登記の義務化」についてご説明いたします。

 不動産登記制度では、売買や相続などで不動産の所有権を取得した際には、所有者となった者の住所氏名が登記簿に記録されます。その際、登記簿には「所有権取得の登記を行った際の住所氏名」が記載されますが、その後に所有者が住所や氏名を変更した場合でも自動的に登記簿が変更されることはなく、所有者が法務局に申請して住所や氏名を変更する登記手続を行う必要があります。

 この変更手続については申請義務がないため、不動産によっては数十年前の住所や氏名のまま放置されるようなケースが発生しています。このため登記簿を見ても所有者の所在が分からず、不動産の円滑な利用が阻害されてしまうという問題が発生しています。

 この問題を解決するため、改正不動産登記法では下記の通り、住所等の変更があった際にはに登記申請を行うことが義務付けられました。

所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請 

所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない

(不動産登記法76条の5)

この法改正のチェックポイントは以下の5つです。

①本規定の施行時期について
本規定は「公布の日から起算して5年を超えない範囲内」が施行日と定められており、 具体的には「2026年4月」頃までに施行されると予想されます。

②義務の内容について
「所有権の登記名義人」が対象であり、自然人、法人ともに対象となります。

氏名や名称、住所を変更した際には、変更があった日から「2年以内」に登記申請を行う義務があります。所有権以外の権利の登記名義人や担保権の債務者欄などは対象外です。

③義務違反の場合の罰則について
正当な理由がないのに変更登記の申請を怠ったときは、「5万円以下」の過料に処せられます(不動産登記法164条2項)。

「正当な理由」については今後通達などで明確化されると思われます。

④法改正前に住所変更等が発生している不動産への適用について
本規定の施行前の時点で既に変更登記がなされず放置されている不動産についても、本規定は適用されます。このため、所有している不動産について住所等の変更がなされているか、登記簿の内容をご確認することをお勧めいたします。
このような不動産については、「施行日から起算して2年以内」に変更登記を行う必要があり、怠った場合には過料が処されることになります。

⑤登記名義人の負担軽減策について
本規定の改正によって生じる所有権登記名義人の手続的負担を軽減させるため、法務局(登記官)が職権で(所有者からの登記申請が無くても)住所変更登記を行ってくれる制度が用意されることになりました。

職権による氏名等の変更の登記

登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。

(法76条の6)

 この制度について簡単にまとめると下記の形となります。

・自然人の場合
所有者からの申し出があった場合に限り
、登記官が住基ネット等の情報を取得して変更履歴を確認し、職権で住所等の変更登記を行ってくれることになります。

詳細な運用方法はまだ判明していませんが、本規定による申し出を行う場合、法務局に対し住所や氏名、生年月日といった「検索用情報」を事前に提供することが想定されています。法務局はこの情報から住基ネットなどの情報を定期的に確認し、変更が確認できた際には所有者に連絡を行い、同意が得られた場合に限って変更登記を行う形が予定されています。

・法人の場合
商業・法人登記システム上の名称や住所を変更した場合、登記官がその法人が所有する不動産登記簿を確認し、職権で不動産登記簿上の名称・住所が変更される形が予定されています。


【おわりに】

 今回の法改正で、不動産を所有されている方には新たな義務が生じてしまいますが、法務局へ事前申し出を行っておけば、住所等に変更があるたびに登記申請を行わなくても、義務を履行することが可能です。

なお、本改正の施行前から所有している不動産も本改正の対象となるため、現時点で不動産を所有している方も2026年4月頃に手続が必要となる可能性があることをご留意ください。

また、外国に居住されている方など、法務局が住所変更の有無を確認する手段が無い方の場合はこの制度を活用できない可能性もあるため、注意が必要です。

 そのほか、不動産売却の際には法務局の職権登記を待つ時間が取れず、原則通り住所等の変更登記を申請しなければならない場面も想定されます。


 上記のとおり、本改正については施行時期まで期間があるため取扱いが不明な点はありますが、詳細が判明した際には改めてご案内をさせていただきます。

 「今のうちに所有している不動産の登記簿を確認、整理しておきたい」「日本に住民票がないため、どのような問題が起こりうるか」など、ご質問やご要望がございましたらお気軽にご相談ください。


司法書士法人第一事務所

司法書士 石井知幸

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