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動産譲渡登記と債権譲渡登記
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動産譲渡登記と債権譲渡登記

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【はじめに】

 「動産譲渡登記・債権譲渡登記」という登記があります。
 いずれも民法の特例として創設されました。動産譲渡登記は平成17年10月から、債権譲渡登記は平成10年10月から運用されています。ここではどうしてこのような登記ができたのか、どのようなことが登記されるのかを少しばかりお伝えしたいと思います。
 
 まずこれらの登記の前に、ABLについて少し触れたいと思います。
 なぜなら、これらの登記はABLの普及を支える法的インフラの役割が大きいからです。
 
 ABL(Asset Based Lending:資産に基づいた融資)は、企業の事業価値を構成する在庫、原材料、機械設備、売掛金等の流動的な資産(これらを「資産」とします)を担保にした融資になります。不動産と異なり、これら資産は企業活動と一体化して刻々と変動します。変動する資産の担保価値と事業の実態把握のため企業と融資元はより密接に情報共有をする必要があります。企業側は、定期的に在庫状況や売掛金残高を融資側に報告できるように情報整備を図ります。融資側は、企業からの報告や自らの調査により事業実態をより詳細に把握をして担保価値や融資枠の検討をすることになります。
 これまで融資といえば不動産や保証人を担保にする方法に偏重してきました。国は、企業の資金調達手段の多様化を図る施策の一環として前述のような「資産」を担保とした融資の普及を推し進めています。
 
 では、ABLのどのような場面で、「動産譲渡登記・債権譲渡登記」が関わってくるのでしょうか。

【アナグマ銀行に融資の相談に来たポンタ製菓株式会社社長・ポンスケ社長】

ポンスケ社長「先日案内してもらったABLという融資方法について、今日はもう少し説明してください。不動産担保や保証人を付けた融資ではないということでしたよね。それから『動産譲渡登記』とか『債権譲渡登記』とか言ってたけど、普通の登記とは違うのでしょうか?」
アナグマ行員「はい。まずポンタ製菓さんが製菓製造の事業に使う原材料や製造機械、製造した商品の在庫、それから売掛金などをまとめて『資産』と考えてください。不動産ではないけれど、これらにも十分な価値があると考えることができます。」
ポンスケ社長「確かに原材料が無いと商品は作れないし、売掛金は運転資金になるからね。」
アナグマ行員「ABLは、こうした資産を担保に融資する仕組みなのです。」
ポンスケ社長「はて?アナグマさん、うちの原材料とか在庫を持っていっちゃうの?それじゃウチは商売できないよ。商売のために融資してもらうのに。」
アナグマ行員「いえ、融資後もポンタ製菓さんは担保にした原材料や設備を使えるし、在庫商品も出荷できます。売掛金もポンタ製菓さんが受け取れますよ。ただ、これらの資産の所有権をアナグマ銀行に移し、万一の時は銀行が所有者として処分できるようにするんです。」
ポンスケ社長「あれ、似たような話を聞いたことがあるよ。それって『譲渡担保』じゃない?昔からあるよね。担保としてモノや売掛債権を譲渡するけど、ちゃんと返済したら返してくれるやつ。」
アナグマ行員「そうですそうです、譲渡担保。ただ、譲渡担保にはいろいろ問題があるんです。問題のうちの一つに、対抗要件をどう備えるかというのがあります。この解決方法として『動産譲渡登記・債権譲渡登記』ができたんです。」
ポンスケ社長「たいこうようけん?」
アナグマ行員「ポンタ製菓さんの工場の土地は、ポンタ製菓さんがコン林不動産さんから買ったんですよね。」
ポンスケ社長「そうですね。」
アナグマ行員「コン林不動産さんが同じ土地を誰か別のタヌキにも売っているんじゃないかって、考えたことあります?」

ポンスケ社長「コン林不動産さんは信用できるとこだと思うけど…」
アナグマ行員「仮の話ですから。工場の土地の登記簿謄本は見たことありますよね。」
ポンスケ社長「ええ、コン林不動産の後、ポンタ製菓が所有者として登記されていますよ。」
アナグマ行員「不動産の場合所有権移転の登記をしたら、世間一般や同じ不動産を自分のものだと言ってくる他人に対して『自分の持ち物である』ということを主張できるんです(民177)。だから万一コン林不動産さんが同じ土地を別のタヌキに売っていたとしても、ポンタ製菓さんはそのタヌキよりも先に登記をしているわけだから自分の土地だと主張できるんです。こういうのを『ポンタ製菓は土地の所有権について対抗要件を具備している』と言います。つまり不動産については、対抗要件とは登記をしていることですね。」
ポンスケ社長「へえ。言われるとおりに登記してたけど、そんな意味があったんだ。」
アナグマ行員「それでは、ポンタ製菓さんの在庫とか売掛金を譲渡担保のためにアナグマ銀行へ譲ってもらったら、対抗要件はどうしましょう。」
ポンスケ社長「それも登記…あれ、在庫の登記ってどうするの?それに在庫とか原材料とか、売掛金だって毎日増えたり減ったりしているんだから、いちいち登記なんてやってられないよ。」
アナグマ行員「在庫や原材料は、不動産に対して動産といいます。売掛金は債権といいます。実は民法では、動産や債権の対抗要件はこのようにして具備しましょう、という決まりがあるんです。」

ポンスケ社長「あ~、ちゃんとあるんだ。」
アナグマ行員「動産は『引渡し』(民178)、債権は『確定日付のある証書による、譲渡人から債務者への通知又は債務者の承諾』(民467)です。」
ポンスケ社長「…はて?」
アナグマ行員「…どちらも、土地の登記簿みたいに一目でわかるような形じゃないんです。たとえ民法に書いてあるとおりに動産や債権に対抗要件を具備しても、実際のところ誰が先に対抗要件を備えたかで揉めることが多いんです。それに、ポンタ製菓さんみたいに取引先がたくさんあると、売掛金を譲ってもらって対抗要件を備えようとしたらとても大変なんです。取引先それぞれに売掛債権を譲渡したことの連絡が必要なんですから。」
ポンスケ社長「今『取引先それぞれに』って言ったけど、売掛金を譲渡担保にしたら、その対抗要件のために取引先に連絡しちゃうの?取引先にそんなこと知られるのは困るなあ。」
アナグマ行員「民法の規定上、そうするしかないんです。」
ポンスケ社長「とにかくその対抗要件がちゃんとしてないと、担保のためアナグマ銀行さんがウチから在庫や売掛金を譲渡されたとしても、世間様に『自分が譲られてます』って言いにくいんだね。だから登記ができる不動産に比べて在庫とかを担保にした融資が難しいってことだね。」
アナグマ行員「はい、それが譲渡担保が普及しない理由の一つです。」
ポンスケ社長「それじゃもしかして『動産譲渡登記・債権譲渡登記』というのは、その対抗要件をちゃんとするために動産や債権についても登記できるように工夫したのかな。」
アナグマ行員「はい、対抗要件についての一つの解決策がこの登記なんです。さっきお話しした民法で決めてある動産・債権の対抗要件と同じ効力があります。登記の方が強いというわけではないのですが。譲渡人は法人でなくてはならないのですが、ポンタ製菓さんは株式会社ですからこの点大丈夫ですね。この登記をすると、登記簿謄本に登記された時間まで記載されるので、いつ対抗要件を備えたのかはっきりわかるんです。」
ポンスケ社長「でも、毎日減ったり増えたりするものをどうやって登記するのかなあ。」
アナグマ行員「では、登記はこのぐらいにしてABLの他の特徴も説明していきますね…」

【動産譲渡登記】

動産譲渡登記ではどのようなことが登記されるのか、登記簿謄本を見てみたいと思います。

ポンスケ社長「これが動産譲渡登記の登記簿謄本だ。」
ムジナギ専務「へえ。不動産や会社の謄本とはずいぶん中身が違いそうですね。」
ポンスケ社長「右上に『概要事項』と『動産個別事項』とあるだろ。これでセットだそうだ。」
ムジナギ専務「あ、『概要事項』の一番下に【登記年月日時】ってあって、時間まで書いてますね。これが対抗要件が備えられた時なんですね。」
ポンスケ社長「【登記の存続期間の満了年月日】は、譲渡したことがいつまで登記されるかということだ。」
ムジナギ専務「え。登記はずっとあるわけじゃないんですか。」
ポンスケ社長「動産は不動産と違ってほぼ無限にあるだろ。いろんな動産が登記されてしかもずっと記録していなきゃならないとしたらものすごいデータ量になってしまう。区切りをつけて原則10年以内としているそうだ。」
ムジナギ専務「【登記の原因(契約の名称)】とありますが、譲渡担保以外にもこの登記をする原因になるようなことがあるのでしょうか。」
ポンスケ社長「『売買』『贈与』なんかも譲渡の原因として登記できるそうだ。」
ムジナギ専務「『動産個別事項』の下に、注意書きがありますね。」
ポンスケ社長「登記はあくまで申請された譲渡の事実に対抗要件を付けるだけで、実際にその動産があるのかないのかは証明しないということだね。」
ムジナギ専務「【動産区分】の個別動産と集合動産の違いは何でしょう。」
ポンスケ社長「譲渡した動産をどうやって特定するかということなんだ。ポン菓子製造機は製造番号やメーカー名などで1台ごとに区別できるけど、原材料の米穀は物自体に個性が無くてどんどん入れ替わるからね。ここではポン菓子製造機は、製造番号や商品名などそれ独自の特質で個別の動産として特定しているよ。原材料はそれが保管されている所在を記録し、そこに存在する米穀という方法で集合的に特定するんだ。」
ムジナギ専務「社長、2枚目の『動産個別事項』ですが、これだとウチが何を譲渡担保にしたのか、誰にでも判ってしまいます。このスーパーポンポンメイカーの導入はあまり大っぴらにしたくないですよ。」

ポンスケ社長「この謄本を取得できるのは当事者や利害関係人に限られるそうだ。誰でも取得できるのは、次の2種類になる。」

ムジナギ専務「なるほど、登記事項概要証明書には『個別事項』は付かないんですね。この概要記録事項証明書は何のためにあるのですか?」
ポンスケ社長「動産譲渡登記も債権譲渡登記も、変更登記というものは無いんだそうだ。だからもし登記後にポンタ製菓の本店所在地が変わっても、登記事項証明書や登記事項概要証明書には反映されない。変更後の商号本店で検索できるのは概要記録事項証明書になる。それと、これだけが全国の登記所で取得できるんだそうだ。他の2種類の謄本は東京の1か所の登記所だけでしか取得できないんだ。」

【債権譲渡登記】

債権譲渡登記ではどのようなことが登記されるのか、登記簿謄本を見てみたいと思います。

ポンスケ社長「こっちが債権譲渡登記の登記簿謄本だ。」
ムジナギ専務「『概要事項』は動産とほぼ同じですね。『個別事項』はずいぶん違います。」
ポンスケ社長「『原債権者』は、譲渡した債権の元々の債権者は誰かということだ。今回はウチの売掛債権だからポンタ製菓だけど、別の所から譲り受けた債権だったらその譲渡人が入るね。」
ムジナギ専務「『債務者』は、譲渡した売掛債権の債務者、つまり取引先のエナガスーパーさんですね。社長、取引先に売掛金を譲渡したことが知られるのは良くないと思うのですが。」
ポンスケ社長「まず、この登記をするにあたってエナガスーパーさんに通知をする必要はないんだ。これが民法の対抗要件具備のやり方とは大きく違うところなんだそうだ。それからさっきの動産同様、この登記事項証明書は誰でも取得できるわけじゃないんだ。」
ムジナギ専務「エナガスーパーさんに知られずに済むということでしょうか。」
ポンスケ社長「もしアナグマ銀行さんが債権譲渡担保を実行し、ポンタ製菓に代わってエナガスーパーさんに債権の支払いを求めるようなことになったら知られてしまうね。その場合、アナグマ銀行さんはこの登記事項証明書を取得してエナガスーパーさんに渡すことで、債権譲渡を受けたので自分に支払ってくださいと言えるんだそうだ(債務者対抗要件)。
それから、登記事項証明書は債務者であるエナガスーパーさん自身も取得できる。けれども債務者自身がそれをするようなときは既にウチとの取引に問題が発生しているだろうね。」
ムジナギ専務「そうならないようにしないといけませんね。」
ポンスケ社長「そうだね。」
ムジナギ専務「【債権通番】000002の債務者は『※債務者が特定していない債権のため、債務者の記録はありません。』ってありますが、どういうことですか?」
ポンスケ社長「将来発生予定の債務者が決まっていない債権を予め譲渡する、ということなんだ。債権譲渡契約をした日以降に発生する債権を【債権の種類】【債権の発生原因】と【債権の発生年月日(始期)・(終期)】で特定して登記したら、対抗要件を具備できるんだ。民法のやり方で対抗要件を具備するにはどうしても債務者に通知しなくてはならないというから、債務者が決まっていない将来債権の譲渡に対抗要件を具備できるのはこの登記ならではだね。」
ムジナギ専務「『債権個別事項』の下に、注意書きがありますね。」
ポンスケ社長「これも、登記はあくまで譲渡の事実に対抗要件を付けるだけで、実際にその債権があるのかないのかは証明しないということだね。」
ムジナギ専務「債権譲渡登記もずっとあるわけではないんですかね。」
ポンスケ社長「そうだね。債務者が全部決まっている債権なら原則50年以内、債務者が決まっていない債権があるなら原則10年以内だそうだ。」
ムジナギ専務「債権譲渡登記もやはり登記事項概要証明書と概要記録事項証明書があるんですかね。」
ポンスケ社長「そうだね。いずれにも『債権個別事項』は載らないから、債務者が大っぴらになることは無いということだね。」


さてさて、長らくお付き合いいただきありがとうございました。

「大体こんな登記」程度にご理解いただけましたら幸いでございます。
ポンタ製菓株式会社様の益々の発展をお祈りして、終わりにしたいと存じます。


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