多分
グラスが割れた音が鳴り、ふと気がついた。世迷い事には関わりたくないと目を背けていたが、甲高い音が耳に残る。騒めく心と否応なく騒ぐ周囲の雰囲気。それでも僕は聴覚視覚を遮るように徹した。何より周りの事など気にしている余裕などないからそうせざるを得ない。やがてざわめきは落ち着き始めた。そして誰もいなくなった気配。それでも僕は辺りを確認する事はできなかった。いや、確認しなかったと表現した方が的確かもしれない。何より寒い夜の事だった。ひとしきり僕は自分の事だけでその場を、その時だけを生きていた。より時は経ち、もう自分なりに安全だと確信して周りを確認して見た時には、先ほどまであれだけいた人は愚か、瓦礫さえも何もなく、ただただ一人になっていた。独りになっていた。それでもいいととにかく歩いてみたがそこには何もなく、一心不乱に走り切ってみたがやはりそこには何も残ってはいなかった。全ては幻だと思ってみた。いや、自分に言い聞かせてみていただけなのかもしれない。深呼吸して目の前を凝視してみてもやはりそこには白い闇が連なる混沌の世界はまるで消えるように続いているだけだ。思わず叫ぼうと思った。でも喉の奥で言葉が詰まり声がうまくだせない。叫ばなくとも普通に声をとも思ったが、舌先でから滑りしてうまく言葉にならない。混沌とした現状を受け入れられず途方に暮れていた時、グラスが割れた音が再び聞こえはっと息を呑んだ。
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