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ダジャレの言語学的考察
言語学では「言語の違いは思考に影響を与えない」という考えが主流である。「ドイツ語は厳格な文法があるからドイツ人は真面目」といったことはありえないという。チョムスキーの生成文法という考え方があって、言語の基本は遺伝子に組み込まれたものである。言語の違いはあっても、それ自体が思考に影響を与えるものではない。ある言語で虹を七色ではなく三色だといっているからといって、その話者が色の区別ができないというわ
もっとみるイヌファールプルプとケヌンテッケの話(採集番号82)
むかし、むかし、女、イヌファールプルプと女、ケヌンテッケがいた。イヌファールプルプはバナナの木の下の池に小さな魚を飼っていた。魚はイヌファールプルプにたいへんなついていた。彼女は池にいって、バナナの木をゆらして歌った。
『アヌや
アヌこや(※1)
おいでわたしの手からバナナをお食べ』
すると魚があらわれ、彼女の手からバナナを食べた。イヌファールプルプが芋田にいっているあいだに、ケヌンテッ
ヤツメウナギの話(採集番号010)
むかし、むかし、男、マヌラカイナンと女、ジュネナーがいた。ふたりは夫婦だった。ジュネナーが水浴びに行くと、テラカーウト(※1)がやってきて、彼女の骨をぬいて腰布を奪ってしまった。そしてジュネナーのふりをして、家に帰ってしまった。骨をぬあれたジュネナーはなんとか転がって、転がって、ようやく家の床下(※2)にはいこんだ。すると、テラカーウトがマヌラカイナンにいった。
「夫よ、マヌラカイナン。床下に
トカゲの話(採集番号142)
むかし、むかし、男、ナイサモーヌがいた。ナイサモーヌが山へ行くと、娘たちが水浴びをしていた。娘たちの美しさにナイサモーヌが思わず声をかけると、娘たちはあわててナズの木(※1)の下に隠れてしまった。ナイサモーヌは娘たちに歌った。
『「美しい娘さんたち
美しい娘さんたち
わたしの胸は、あなたたちの想いで張り裂けそうだよ
どうかこの胸の苦しみを取りのぞいておくれ」
「口のうまい若者よ
口のう
女悪神の話(採集番号022)
男、マグジュがいた。いい男だった。七面鳥(※1)を獲ろうとローイカヌの山に登った。すると女悪神イニチュニクがマグジュを見つけた。イニチュニクはマグジュを自分の小屋に招きいれると、自分の血とフケを混ぜた椰子酒(※2)を呑ませた。するとマグジュはたちまち醜いイニチュニクが好きになってしまって、夫婦になることにした。
毎日、イニチュニクは空を飛んで遠くの島の人間を食べにいった。出かけるときにはかな
オセヌパーレジレジの話(採集番号39)
むかし、むかし、男、ニサク、女、ネママーイがいた。ふたりは夫婦だった。子どもが生まれたので、オセヌパーレジレジと名前をつけた。そのすぐあとにネママーイは死んでしまった。ニサクはネママーイの妹と結婚した(※1)。ニサクが漁に出ると、新しい母は遊ばせもせずオセヌパーレジレジにナグー芋を掘りにいかせた(※2)。ニサクが漁から帰ってくると、オセヌパーレジレジが家の前で泣いている。
「オセヌパーレジレジ
サメの話(採集番号051)
むかし、むかし、女、ユルメマルがいた。ユルメマルはとてもいい女だった。あるとき、男がやってきた。とてもいい男だったので、ユルメマルは一緒に食事をして寝た。すると男はカドゥン(※1)となり、ユルメマルを殺してサメに食わせてしまった。そして、しゃれこうべを波打ち際に捨てた。波が寄せて返すたびに、しゃれこうべは歌った。
『サメよ
サメよ
わたしの肉を食べにおいで
もうおまえに食べられる肉はない
死者の島の話(採集番号027)
むかし、むかし、男、ニモジュネがいた。ある日、漁に出ると風に流されて見たこともない島についた。浜辺を歩いていると、風が吹いて砂粒が目に入った。目をこすっていると、すぐ近くに人がいるのに気がついた。
「ニモジュネじゃないか」
見るとそれは子どものころに死んだ友だちのネアブイだった(※1)。
「ここは死者の島だ」
「じゃあ、おれは死んでしまったのか?」
「いや、おまえはまちがって流れついてしまっ
ワセヤイヤイとニキティパの話(採集番号040)
むかし、むかし、男、ワセヤイヤイと女ニキティパがいた。ふたりは夫婦だった。仲がたいへんよかったが、ニキティパは死んでしまった。ワセヤイヤイは悲しみのあまり、ニキティパの遺体をバナナで編んだ籠にいれて海に流した(※)。
悲しみに沈んでいるワセヤイヤイを心配した村の男たちは、かれを踊りに誘った。
「ニキティパが悲しむよ」
「そうはいっても、おまえ、ニキティパは死んでしまったのだよ」
男たちはワ
ナーナーカウとナーニーカウ(※1)の話(採集番号005)
むかし、むかし、男、ナーナーカウと男、ナーニーカウがいた。ある日ナーナーカウがミーアイ(※2)していると、たまたま大きなロプ貝が獲れた。それをかかえて歩いているとナーニーカウに出会った。
「ナーナーカウよ。そんなに大きなロプ貝をどうやって獲ったんだ」
とナーニーカウがたずねると、ナーナーカウが答えた。
「なに簡単なことだよ。おまえのりっぱな竿(※3)を巣穴にたらせば、すぐに獲れるさ」
ナー
アジサシの話(採集番号129)
むかし、むかし、アジサシがいた。アジサシには娘がひとりあった。娘が水浴びをしているところへ、男、ティキットヌがやってきた。ティキットヌに姿を見られた娘は家に入ってしまった。ティキットヌが家に入ろうとすると、アジサシがとめた。
「アジサシよ。おまえには娘がいるはずだ」
「いないよ。わたしはひとりさ」
「では、この水がふたつあるのはなんだ」
「これはふたつともわたしが飲むのさ」
「では、鰹が二尾あ
一枚の羽の話(採集番号013)
むかし、むかし、男、ニャイノネ、女、イナウがいた。ニャイノネはイナウのアパムー(※1)だった。ニャイノネがイナウを漁に誘った。イナウの母は娘に一枚の鳥の羽を渡して漁にだしてやった。
ふたりが舟で沖合いまで出ると、嵐に出会った。そして、そのまま見たこともない島に流されてしまった。
「イナウ、今晩はこの島におまえとふたりで泊まらなければならない」
とニャイノネがいうと、イナウは答えた。
「わた
ニタニーキーの話(採集番号073)
むかし、むかし、女、ニタニーキーがいた。ニタニーキーの家には毎晩ヤリウェイ(※1)がささり、求婚する男はひきもきらなかった。ニタニーキーは男にこういった。
「西の風を連れてきておくれ」
男は西へ行って風に巻かれて死んでしまった。
次の男にはこういった。
「東の海の真珠を取ってきておくれ」
次の男は東に行って真珠貝に手をはさまれて死んでしまった。
次の男にはこういった。
「北のプラケイ鳥
三兄弟の話(採集番号043)
むかし、むかし、男、アネッヅ、男、ナカル、男、ガマゾッツがいた(※1)。三人は兄弟だったが、仲はよくなかった。
三人は漁に出て、沖で網を打った。アネッヅの網には鰹がかかった。ナカルの網には海鰻がかかった。ガマゾッツの網にはなにもかからなかった。怒ったガマゾッツはいった。
「兄よ、アネッヅ。おまえがまじない(※2)をかけたのだろう」
「弟よ、ガマゾッツ。まじないなどかけていない」
それでも怒