死者の島の話(採集番号027)

 むかし、むかし、男、ニモジュネがいた。ある日、漁に出ると風に流されて見たこともない島についた。浜辺を歩いていると、風が吹いて砂粒が目に入った。目をこすっていると、すぐ近くに人がいるのに気がついた。

「ニモジュネじゃないか」
 見るとそれは子どものころに死んだ友だちのネアブイだった(※1)。
「ここは死者の島だ」
「じゃあ、おれは死んでしまったのか?」
「いや、おまえはまちがって流れついてしまったのだ。ちょうどいいから、みんなに会わせてやろう」
 案内された村には、死んだ知り合いがたくさんいた。みな、死んだときと同じようにしていた。
 みなはひさしぶりに会うニモジュネを歓迎し、たくさんの料理を出してくれた。だが、死者の島の食べ物を食べると生者の島に帰れなくなる(※2)と聞いていたニモジュネは、けっして食べ物には手をつけなかった。
 せっかくの料理を食べようとしないニモジュネに腹を立てた死者たちは、怒ってかれを追いかけた。ニモジュネは逃げて逃げて、とうとう浜辺まで来た。そして、舟に乗って逃げた。
 マヤンに戻ったニモジュネだったが、死者の島の砂粒が目に入ったせいで、よく死者の島の夢を見るようになった。また、人の生き死にがわかるようになった。
 けれど、しばらくしてニモジュネは漁に行ったきり帰ってこなかった。きっと死者の島にまたたどりついて、今度は料理を食べてしまったのだと、みな噂した。
 ロプ貝のつぶつぶ、焼けた石。

 ※1 子どものころに死んだ友だちというが、ニモジュネに語る言葉には尊敬の定冠詞ではなく、同格の定冠詞「モ」が使われている。どうも子どものころに死んだ者は、死者の島で成長しておとなとなるらしい。おとなになってから死んだ者は、老けもせず死んだときと同じままらしい。あくまでもこれは推測であり、正確なところを知るには死者の島の伝承をさらに探る必要がある。
 ※2 死者の国の食べ物飲み物を口にすると生者の国に戻れなくなるというのは、世界的にある伝承である。ただし、このニモジュネの話は言葉使いなどから、比較的新しい話と推測される。となると、キリスト教宣教師たちがもたらしたギリシャ神話系、あるいは真珠採りの日系人がもたらした日本神話系の話が入りこんだ可能性もある(こうした他文化流入の可能性については、報告書№20を参照されたし)。はたして、これがラモア伝統のものなのかどうかを知るためにも、死者の島の伝承を探る必要がある。

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