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「アメリカに行くだけでうまくなれるわけじゃない」 ~ セントトーマスモアスクール 井上大道~

夢を掴むためにアメリカに行く。時代が変わっても、バスケ大国アメリカを目指すものは多くいる。そのひとりである井上大道は中学卒業後、海を渡る決意を固めた。しかし、コロナウイルスの影響で足止めをくらう。それでも諦めずに、今できることにフォーカスした彼は強豪のプレップスクールで1軍のロスターを勝ち取る。新時代を切り開く、若者の挑戦を覗いていく。(取材日:8月23日 取材、写真 宮本將廣)

自分の力を証明すれば上のチームでいけると思っていたんです(笑)。

宮本 まずは9月から新学期が始まります。通っているセントトーマスモアスクール(以下STM)の最終学年になりますね。
井上 はい。新学期からSTMの1軍でプレーできることになりました。そこで1年頑張って、プロ選手を目指したいと思っています。
宮本 アメリカに行ったタイミングはいつだったんですか?
井上 高校2年の9月にアメリカへ行きました。この9月で3年目になります。
宮本 僕もこれまで可能な範囲で、アメリカのプレップスクールや大学バスケを見てきました。その中で、STMの1軍に入るのはかなりレベルの高いことだと思っています。そこに至るまでにはどんなステップがあったんですか?
井上 STMは3軍まであるんですけど、最初は3軍からのスタートでした。アメリカの場合はシーズンに向けたロスターが決まっていて、そういった知識も全くない状態でアメリカに行ったので、ちゃんと調べればよかったんですけど。
井上・宮本 ハハハハハ!
井上 アメリカだし、自分の力を証明すれば上のチームでいけると思っていたんです(笑)。練習でもめちゃくちゃシュートが入って、オフシーズンは2軍の練習に参加させてもらっていたので、そのまま2軍に入れるのかと思っていたら、「ロスターが決まっているから、お前は一番下だ」って言われて(笑)。ただ、「3軍だけど、チームはお前が引っ張ってくれよ」と言われたので、3軍では自分がファーストオプションでプレーすることができました。結果的には必要な時間だったと思います。自分の自信にも繋がったし、そこでの活躍を評価してもらって去年は2軍でプレーすることができて、今年はなんとか1軍でプレーできることになりました。
宮本 自信というのがひとつのキーワードになるのかなって思ったんだけど、中学までは自信を持ってプレーはできていたんですか? 
井上 中学での実績はなかったですし、自分で「こうやるんだ!」っていう強い気持ちはなかったのが正直なところです。もちろん、「やれるんだ!」っていう気持ちは持っていましたけど、確固たるものではなかったというか。だから、3軍で自分を中心にプレーさせてもらったことによって、自分自身も成長を感じられたし、自分のバスケット人生の原点と言ってもいい経験だったと思います。
宮本 アメリカで評価を得るためには、何が重要になってくるんですか?
井上 絶対的に言えることは、声を出してハードワークすることですね。これはどの国でも一緒だと思います。その中で僕はガードなので、ガードとして評価されるならシュート力やハンドリングはもちろんですけど、チームをしっかりと見ること。チームメイトと質の高いコミュニケーションを取れる選手が評価されると感じています。
宮本 コミュニケーションという部分では英語が必須になると思うんですけど、どのような準備をして向かったんですか?
井上 高校1年生のときにコロナウイルスの影響でアメリカに行くことが出来なかったんですけど、英語を勉強する時間を作れたのでめちゃくちゃ勉強しました。アメリカに行ってからは拙い英語ですけど、一応通じたし、聞き取ることもできました。今思うと、あの時間があってよかったなって思います。アメリカに来てからは周りと積極的にコミュニケーションをとって、今は結構しゃべれるようになりました。

シーズンの途中で背中を掴んでやる。

宮本 新シーズンからSTMの1軍でプレーするわけですが、同じチームには福岡第一出身でスラムダンク奨学金17期生の崎濱秀斗くんも加入します。彼とはもう話したりしました?
井上 彼が3月にアメリカに来たとき、自分が学校の紹介をしたり、いろいろ手伝ったりしたんです。今はめちゃくちゃ仲がいいですね。彼は日本の同年代なら誰しもが知っている凄い選手なので、正直ちょっと焦ったというか。
宮本 あー、そうだよね。日本人同士だから比較対象にもなるだろうし。
井上 そうですね。しかもめっちゃうまいじゃないですか。でも、逆に自分にとってはものすごいチャンスでもあると思いました。同じ世代のナンバーワンガードと比較されることほど、わかりやすいものはないと思うので。
宮本 確かに。 
井上 今の段階では間違いなく彼の方がうまいです。だからこそ自分も頑張って、彼に追いつければもっと上のレベルに行けると感じています。
宮本 井上くんが思う彼の上手さはどのあたりですか?
井上 日本とアメリカで色んな選手とバスケをしてきましたけど、現状僕の中では一番すごい選手だと感じています。ディフェンスは福岡第一らしく、プレッシャーも激しいし、足も動きます。それがベースにありながらシュートも入るし、ドライブもうまくてダンクもできる。あまり答えになってないかもしれないですけど、本当に穴がないですね。
宮本 必要な能力をすべて持っているというか。
井上 そうですね。強いて欠点を上げろと言われたら、身長かなって感じですけど、カバーできるぐらいのジャンプ力があるので、本当に尊敬しています。
宮本 現状、崎濱くんの方が実力は上だという自己分析の中で、他の選手もD1の大学からリクルートがくるようなレベルの高い学校がSTMです。井上くんはここからどうステップアップしていくのか。何かプランは考えていますか?
井上 崎濱以外にも有望視されているガードがひとりいるんです。その中で、現状僕が一番下のガードという立ち位置にはなります。ただ、すごくわかりやすいと思っていて、この1年は全力で彼らを追いかけて、シーズンの途中で背中を掴んでやるという気持ちでいます。自分の武器はハンドリングとシュート力だと思っていて、チームのコーチからも、「ハンドリングはお前がこのチームで1番だ」と言ってもらいました。そこをもっと突き詰めてチームの誰よりも上手くなれれば、チームに必要なパーツになれると思っているので、頑張っていきたいです。

ここでやめたら終わりだなっていうプレッシャーをかけていた。

宮本 今後、描いてるビジョンはありますか?
井上 今考えているのは、B.LEAGUEでプレーすることです。できるだけ早くその舞台に立ちたいと思っているので、そのチャンスがあればトライしたいと思っています。
宮本 これは表現が正しくないかもしれないけど、中学までの実績はそんなにないのかもしれないけど、下の方ってわけではないと思うだよね。ある程度の自信とか期待を抱いてアメリカに行ったと思うんだけど、3軍スタートって言われたときは……。
井上 めっちゃ悲しかったですね(笑)。でも、意外と通用するんだなっていう気持ちもありました。「ドリブルだったら、俺の方が上手いかも」って感じたときはやっぱり嬉しかったし、「上のチームにいけないよ」って言われたからこそ、頑張たのかもなって今は感じています。
宮本 日本からアメリカに行く人って、底辺から行くことはないと思うんだよね。少なからず日本ではある程度のレベルにいるからこそ、アメリカに行こうって思うと勝手に思っています。逆に言えば、その中には下から這い上がるという経験がない人もいるから、うまくいかなくて投げ出してしまう人も見てきました。井上くんはそういった下から這い上がろうというマインドを3軍のときに培ったんですか? それとも日本でもそういう経験があったんですか?
井上 あー、僕は3軍の時に培われたのかなと思います。やっぱり目標があって、それを曲げたくない。ここでやめたら終わりだなっていうプレッシャーをかけていたところはあります。大変なことはたくさんありましたけど、「今、日本に帰ったら友達に会えるかな」って考えたりもしましたね(笑)。そういうのは割と気にしてしまうタイプだし、怖いなって。ちょっとネガティブなマインドかもしれないですけど、正直、アメリカに行ったらバスケがうまくなるんだろうなっていうふんわりとした感じでスタートを切った部分もあったんです。周りに大きいことを言ってしまったからやめれないみたいなところも頑張れた理由になったと思います。そういうプレッシャーも含めて、自分で行くと決めた以上はやり遂げようって。
宮本 なんとなくアメリカに行ったらうまくなれるかも、アメリカのレベルは高いからそこに混ざれば……みたいな気持ちはあったんですね。
井上 ありましたね。でも、全然違いました。アメリカに行くだけで上手くなるわけなくて、その環境でどういった頑張り方をするかが大事なんだと痛感しました。そこで勝ち残っていく人たちの裏側を知ると、めちゃくちゃ早起きをしてシューティングをしていたり、一番遅くまで残ってトレーニングをしています。結局はそういう選手が活躍しているんですよね。自分は本当に恵まれていて、チームメイトは自分を奮い立たせてくれるようなハードワーカーばかりで、必然的に諦められない環境にいたことも大きかったと思います。
宮本 今の話を聞いていると、バスケットボールだけじゃなくてこの2年間で人間としての価値観も変わったのかなと思いました。
井上 ものすごく変わりましたね! 自分で言うのもあれですけど、人が変わった気がします。バスケットの向き合い方も中学までは与えてもらったことをただやっていたんだなって。自分がどう取り組めばうまくなれるのか、小さい積み重ねが大きな変化を作ることを自分自身で体感することが出来ました。
宮本 まずはラストシーズンに人生を賭けることになりますね。
井上 そうですね。ロスターが決まっている以上、この1年はどんなに辛くてもここから抜け出せないし、ここでやるしかない。ただ間違いなくSTMが自分を成長させてくれる場所だと思っているし、そこに頼るのではなく、それをしっかりと活かせるように頑張っていきたいと思います。

STMのメンバーと 写真提供 = 本人

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