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『キングスマン:ファースト・エージェント』は、なぜボーア戦争から始まるのか?

クリスマスイブの夜、浮いた話もなんもない俺にピッタリの映画がついに公開!

『キングスマン:ファースト・エージェント』だ!

2020年の9月公開予定の今作がコロナ乱世を潜り抜け、この年の瀬に!
聖夜に予定のない男たちの為に帰ってきた!

と言いつつも元々女子受けの良いシリーズなので、劇場へ着くと案の定カップル多し!「やれやれ」と思いつつ席につき、どーせ夜のとばりに消えてゆくであろう男女に囲まれてドルビーで鑑賞して参りました!

かなり語り甲斐のある作品になっているので、次回のYoutube配信(12/27の20時半から)はまたまた長くなる思います!

第一印象としては、第一次大戦の構造をここまで分かり易く描いたのは驚愕でした。

第一次世界大戦時のガス攻撃を受け失明した兵士たちの列を描いた、ジョン・シンガー・サージェントの『ガス』

130分の尺を考えると、サラエボ事件に至る前のバルカン戦争の経緯とか、オーストリア=ハンガリー帝国のバルカン半島統治問題とか、半島の民族対立とか、全て一旦引っこ抜いて、歴史的な背景をイギリス、ドイツ、ロシアの皇室/王室関係のみをピックアップし、それぞれの国の指導者の近くに、思惑を巡らせる影の支配者の手下が従えるという超分かり易い構造。

その分かり易さ優先の思い切りが良い!

ロシアの怪僧ラス・プーチン、フランスの高級娼婦でスパイといわれた美女マタ・ハリ、ドイツの奇術師/預言者のハヌッセン、錚々たる"怪しい奴ら"が暗躍し、人類史上初の世界終末戦争と呼ばれた第一次世界大戦という、今考えると「これ異世界転生モノの世界ですか?」という時代。

Time To Dance ‼

こんな非現実的なほど激動な時代にキングスマンの始まりの話をブチ込むんだから、面白くないわけがない!
まさに、この2021年の最後を締めくくるに相応しい娯楽傑作です!

■今作の始まりがなぜボーア戦争なのか?

この映画は虚実を織り交ぜたある種の歴史ファンタジーのスタイルをとっていながら、物語の核である部分はイギリスの歴史を批判することに一貫しています。

この映画は1902年の南アフリカで起こっていた第二次ボーア戦争末期から始まります。

ボーア戦争は、南アの金鉱脈をめぐりイギリスとボーア人(オランダからアフリカへ移った白人及びアフリカ系白人)との植民地戦争です。

この戦争は日本ではあまり有名ではないかもしれませんが、色々な意味で歴史のターニングポイント的な戦争です。

まず人類史上初、フィルムで(イギリス側から)映像に収められた戦争だったことです。

これ自体は、この映画のストーリー上で重要ではないのですが、この映画では事あるごとにフィルムの上映による状況説明シーンがあったり、終盤の決闘シーンでも見せ場になる映像演出の一つとして映写機から戦争の映像が投影されます。

それは映画、映像の歴史、そしてイギリスの戦争の歴史の中でこの『キングスマン』の世界が成り立っており、それはどれも切り離せないことを物語っているようです(この路線のシリーズ化を充分匂わすニクい演出です)。

次に、このボーア戦争ではイギリスの植民地支配の卑劣さや、戦争における同軍の戦術の残酷さがジャーナリストによって世界へ拡散し、イギリス国内外からも反戦の声が高まったことです。

この戦争で英軍が苦戦したのは、この土地を統治していたトランスヴァール共和国やオレンジ自由国の正規軍ではなく、現地のボーア人ゲリラでした。

当初この戦争は兵士の数こそ英軍が劣っていましたが、早急に本国からキッチナーを中心とした援軍を呼び寄せ、首都を陥落させますが、それでもボーア人ゲリラは抵抗し、英軍に多大な損害を出し続けます。

ゲリラは正規の軍隊と違い、軍服や戦闘服を着ずに、兵士が民間人を装うかあるいは民間人が武器をもって、不意を突いて攻撃してきます。

これをやられたら英軍は、軍人と民間人の区別ができず、疑わしき者は逮捕あるいは殺害せざるを得なくなり、それは次第に村や町ごと住民を殺し続けることへと発展していきます。

あれ?これなんかに似てね?
そうです、ベトナム戦争です!(まぁ似たような例は世界各地に沢山ありますが、代表例として一番メジャーなのがベト戦です)

今も昔もスターウォーズも帝国軍はゲリラに悩まされ、その都度大殺戮を繰り返しているわけデススター。

当時、南アに特派員として来ていたJ・A・ボブソンはこの時の様子を基に『帝国主義論』を書き、帝国主義批判の要となりました。

そしてこの記事の頭に戻りますが、この映画の物語の核は大英帝国の繁栄の裏にある暗い歴史を批判することです。

だからこそ、この『キングスマン:ファースト・エージェント』は、このボーア戦争から始まることに、すごーく意味があるのです!

あとは細々としたトリビアですが、この戦争で使われたボーア側の兵器が当時のドイツ製の最新兵器で、後の第一次大戦に至るまでのドイツの兵器開発能力の高さを世界に示すことになり、英国を中心としたヨーロッパ諸国は、ドイツに対して「ぐぬぬ…」となった(この映画でも各国お偉方がドイツに「ぐぬぬ…」なのはこの辺りから)とか、この戦争で従軍記者として来ていた後の英国首相チャーチルはボーア人ゲリラの捕虜になって命辛々脱出したとか、軍医としてボランティアで参加していた超売れっ子作家コナン・ドイルは大英帝国批判をしたボブソンとは逆に「この戦争は、イギリス人の愛国心の賜物なんじゃボケ!」と英国ラブを叫んだとか、とにかくこのボーア戦争には、面白要素がギッシリ詰まってます!

あら?映画の話のつもりが、ボーア戦争の話でいっぱいになりましたね(汗
毎度の僕の悪い癖ですが、明日(12/27 月曜)は20時半辺りから今作『キングスマン:ファースト・エージェント』を語る生配信をやります!

配信ではさらに、

■この映画、実はガンダムなんです!第一次世界大戦の恐怖と騎士道の崩壊!
■まだ喧嘩してる?ガイ・リッチー『ジェントルマン』と比較すると見えてくる「ワシの中のエゲレスはこうなんじゃ!」抗争勃発
■キングスマンは007を超えるのか?問題

などなど、こんなことを知っていたら更にこの映画を楽しめるかもー!的なこんなラインナップでお話しします!

是非ともご参加くださいまし~!


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