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『四国?五国でいいんじゃね? 』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「いやはや驚きました……」
 老人が呟く。タイヘイが苦笑する。
「爺さん、昨日からそればっかりだな」
「いや、例えば人と獣の、人と妖、人と機のハーフというのはありますが、それぞれの流れを受け継ぐ方がいるとは……」
「やっぱり珍しいか?」
「相当珍しいかと」
「ふ~ん……」
「記憶の方は……?」
 老人が聞きづらそうに尋ねる。タイヘイが頭をかく。
「いや~それが曖昧なんだよな……」
「ふむ……恐らくはこの四国のご出身かと思われますが……」
「それすらはっきりしないんだよな……」
「まあ、そういったものは何かの拍子に思い出すことがあるかもしれませんからな……」
「そうなのか?」
「専門家ではないので、はっきりとそうだとは言えませんが……」
「希望はあるってことだな」
「そうです」
「そうか……それにしても、この集落に受け入れてもらえて良かったな」
 タイヘイが周囲を見回す。
「はい。ただ、心配事がありまして……」
「うん?」
「我々の集落同様、ここも狙われるのではないかと……」
「ああ、その辺は手を打ってある」
「手ですか?」
「後で説明するよ」
「はあ……」
「それよりもだ、昨日は結局バタバタして聞けなかったんだが……」
「なんでしょうか?」
「国を造る為の道筋ってやつだよ」
「ああ……」
「だいぶか細いみたいだけどな」
 タイヘイが苦笑を浮かべる。
「いえ、それがそうでもしれないかもしれません……」
「ん?」
「可能性はわずかかもしれませんが高まったかと……」
「ほう、なぜそう思う?」
「あなたという存在です」
「俺?」
 タイヘイは自らを指差す。
「ええ、ヒトとケモノとアヤカシとキカイの流れを受け継ぐあなたという稀有な存在は、新たな時代の象徴たりえるかもしれません」
「大げさだろう」
「とはいえ、ご自身でもなにか運命めいたものを感じておられるのでしょう?」
「まあな」
 老人の問いにタイヘイは頷く。老人は話を続ける。
「ですから、あなたが旗頭となるのです」
「旗頭?」
「言ってしまえば、勢力を持つということですな」
「それは……簡単に行くかね?」
「もちろん、困難を伴うでしょう。ただ……」
「ただ?」
「あなたの強さならあるいは……」
「結局ものを言うのはこれか」
 タイヘイは力こぶを作ってみせる。
「ええ、ですがもちろん、話し合いなど平和的な手段で済めば、それに越したことはないのですけれども……」
「う、うん、まあ、それはそうだな……」
 タイヘイは深々と頷く。
「……」
 老人がじっとタイヘイを見つめる。
「そ、そうなるように努力するよ」
「それは良かった。いや、あなたの身を案じておるのです」
「多分無理そうだけどな……」
 タイヘイが小声で呟く。老人が首を傾げる。
「なにか?」
「い、いや、なんでもない! それより勢力を持つって、具体的にはどうすれば良いんだ?」
「この辺りの集落群とその周辺は、四つの国の勢力がそこまで及んでいない、緩衝地帯ということは申し上げましたな?」
「ああ、聞いた」
「四つの国に対して不満を持っている者もそれなりの数がいるのです」
「へえ……っていうことは……つまり」
「ええ、その連中を一つに束ねることが出来れば……」
「四つの国にも対抗出来るだけの勢力が出来上がるってことか」
「はい」
「なるほどな」
「ですが、いずれも一筋縄ではいかない連中です……」
「国を相手しようってんだ、多少荒っぽい方が頼りになる」
「ふむ、そういう考え方もありますな」
「で? そいつらとはどこに行けば会える?」
「この集落を中心に考えれば……南西の森、北東の林、南東の山です」
「ほう……」
「簡単ではありますが、地図を用意しました。赤い点がこの集落、青く塗ってある辺りが、その連中がいると思われる場所です」
 老人が紙をタイヘイに渡す。タイヘイが礼を言う。
「ありがてえ、早速向かってみるぜ!」
「ご無事をお祈りしております……あの、それで……」
「うん?」
「打ってある手というのは?」
「ああ、それな……」
「…………」
 出発の準備を整えたタイヘイが語りかける。
「俺は少しここを留守にするが、この集落になにかあれば、お前ら……分かっているな?」
「は、はい!」
 豚頭たちがビシっと整列する。
「しっかり警備を頼むぜ……お前らもありがとうな」
「ふん……」
「任せたぜ、イノサル」
「イノマルだ!」
「情けない話ですが、亜人連合に戻っても居場所はないでしょうから……」
「よろしくな、シカモ」
「シカオです……」
「制裁を受ける可能性もあるからね……とりあえずはここに身を寄せるとするわ」
「お願いするぜ、ミボウジン」
「フジンよ!」
「それじゃあ行くか!」
 タイヘイが勢いよく走り出す。
「……って、勢いよく走り出してみたはいいけれどよ……」
 タイヘイが周囲を見回す。似たような森が続いている。
「南西の森……本当にこっちで良いのか?」
 タイヘイは地図を広げて確認する。地図には『この辺!』とだけ書かれている。タイヘイはため息をついて地図を閉じる。
「はあ……あの爺さんも結構アバウトな性格なんだな……まあ、ろくに確認もしないで出てきた俺も俺だけどよ……うん⁉ なんだ⁉」
 なにか物音がした為、タイヘイは周囲の様子を伺う。
「…………」
「風で木の葉が揺れたのか……って、そんなわけねえだろう!」
 タイヘイが拾った石を投げる。
「痛てっ!」
 人の姿をした翼を生やした者が姿を現す。タイヘイが驚く。
「!」
「ちっ、なかなか鋭いじゃねえか……」
「て、適当に投げてみたら当たった……」
「適当かよ!」
「なんだお前……『鳥人』って奴か?」
「違えよ!」
「違うのかよ! ごめん!」
「あ、ああ、分かれば良いんだよ……」
 タイヘイが素直に謝ってきた為、翼を生やした者は面食らう。
「じゃあ……」
「ちょ、待てよ!」
 自然にその場を立ち去ろうとするタイヘイを、翼を生やした者が呼び止める。
「なんだよ?」
「なんだよじゃねえ! 俺らの縄張りに入り込んできてタダで帰れると思うなよ⁉」
「お前らの縄張り?」
「そうだ!」
「ここはお前ら鳥人の縄張りか?」
「だから違えって言ってんだろう!」
「? でも、鳥みたいな翼生やしてんじゃねえか」
「顔や体は人間だろうが!」
「ああ、まあ、それはそうだな……」
「なんだよ、その反応は?」
「正直、いまいちよく分かってねえんだ……」
 タイヘイが首を傾げる。翼を生やした者が不思議そうに見つめる。
「お前、知らねえのか? 俺らは人と獣のハーフ、『人獣』だよ」
「人獣……」
「厳密に言えば、人鳥か」
「ふ~ん、亜人連合とやらとは違うのか?」
「あんな野蛮な奴らと一緒にするな!」
「そうか、悪かった、すまん」
「わ、分かれば良いんだよ……」
「それじゃあ……」
「いや、だから待てよ!」
「……なんだよ?」
 タイヘイがウンザリしたような顔になる。
「俺らの縄張りに入ってきて、タダで済むと思うなよって言ってんだよ!」
「ああん?」
「石をぶつけられた仕返しだ! 痛めつけてやるよ!」
「どこが野蛮な奴らと違うんだか……?」
 タイヘイが首を傾げる。
「そらっ!」
「む!」
 翼を生やした者がその翼を思い切りはためかせ、砂や小石、折れた木の枝をタイヘイに向かって飛ばす。タイヘイはそれを防ぐのに精一杯になる。
「ははっ、手も足も出ねえな!」
「……そんなもんか?」
「あ?」
「お前の巻き起こす風はそんなもんかって聞いているんだよ」
「じょ、上等じゃねえか! 体ごと吹き飛ばしてやるよ!」
「おっと!」
 翼を生やした者がさらに強く翼をはためかせる。タイヘイの体が浮き上がり、大木に向かって飛んでいく。
「ははっ! ぶつかって終わりだ!」
「……そうはいかねえよ!」
 タイヘイが大木を蹴り飛ばし、その反動で翼を生やした者との距離を一瞬で詰める。
「なっ⁉」
「おらっ!」
「がはっ⁉」
 タイヘイの頭突きを喰らい、翼を生やした者がその場に崩れ落ちる。
「ふう……」
「サ、サブローがやられた⁉」
「ん?」
 翼を生やした者があらたに姿を現す。
「て、てめえ! 許さねえぞ! よくも弟を!」
「弟って……」
「俺はそのサブローの兄貴、ジローだ!」
「そうか。許さねえって、どうするんだい?」
「こうするんだよ!」
「うおっ!」
 ジローがタイヘイに接近し、顔面を連続で突き出してくる。
「そらっ! そらっ!」
「な、なんだ、顔を近づけてきやがって⁉」
「鳥がくちばしで相手をつつくあれだよ! 俺にはくちばしはねえが、あの速さなら真似出来るってわけだ! そらっ! 喰らえ!」
「く、唇突き出してきて、不気味なんだ……よ!」
「ぐはっ⁉」
 タイヘイの頭突きカウンターが綺麗に決まり、ジローがその場に崩れ落ちる。
「な、なんなんだよ……」
「ジ、ジローまで⁉ よくも弟だちを……て、てめえ、許さん!」
「どわっ⁉」
 あらたに現れた翼を生やした者が空中からタイヘイを蹴りつける。
「サ、サブロージローときたら……今度はイチローか⁉」
シローだ!」
「なんでだよ!」
「家庭の事情だ!」
「ちっ!」
 タイヘイがジャンプし、シローと同じ高さまで飛び上がる。シローが驚く。
「な、なんだ、そのジャンプ力は⁉」
「うらっ!」
「ごはっ!」
 タイヘイの頭突きを喰らい、シローは地面に落下する。
「……片付いたか?」
「三兄弟を簡単に退けるとは……なかなかやるじゃないの」
「⁉」
 タイヘイが声のした方に目を向けると、木の枝に逆さまにぶら下がった女の姿があった。


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