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『四国?五国でいいんじゃね? 』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「ふふふ……」
 黒い翼で身を包んでいる美しい顔立ちのその女が妖しげな笑みを浮かべる。
「お前は……逆さま女!」
「⁉ 見たまんまじゃないの!」
 女が妖しげな笑みを崩し、タイヘイに突っ込みを入れる。
「お前……」
「なによ……」
「頭に血が上らないのか?」
「余計なお世話よ! 私を見て最初に抱く感想がそれ⁉」
「だって、初めて会ったわけだしな……」
「私のことを知らないの?」
「あいにく……ちっとも」
「ち、ちっとも⁉」
 女は愕然とする。タイヘイは申し訳なさそうにする。
「すまん……有名なのか?」
「有名もなにも!」
「!」
 女が木の枝をくるっと半周し、タイヘイの方に向き直り、体を包んでいた黒い翼を広げて、高らかに宣言する。
「この辺を抑えているリーダー的存在、『黒き翼のモリコ』とはこの私のことよ!」
「黒き翼……?」
「そうよ」
「黒一色の間違いじゃないのか?」
 タイヘイはモリコを指差す。黒い髪に黒い瞳、そして服装も上下黒で統一している。
「そ、そんな二つ名を付けるわけないでしょう!」
「似たようなもんだと思うが……」
「似てないわよ!」
「そうか?」
「あ、あなた……この辺のリーダー的存在である私に対して、良い度胸しているわね……」
「この辺のリーダー的存在って結構曖昧だな」
「う、うるさいわね! ただの人間が偉そうな口を!」
「ただの人間?」
「そうよ、あなたみたいなのは、私に頭を垂れるべきなのよ!」
「へえ……そうかよ!」
 タイヘイはモリコが立っている太い木に思い切りぶつかる。モリコが驚く。
「なっ⁉ なにをするつもり⁉」
「その上から目線が気に食わねえから、引きずり下ろす!」
「ど、どうやって⁉」
「こうやってだ! うおおっ!」
 タイヘイが木を引っこ抜く。モリコが驚く。
「ぶ、物理的に……⁉」
「そらっ!」
「くっ⁉」
 タイヘイが木を投げる。
「はあ、はあ……どうだ?」
「危ない、危ない……」
「ん⁉」
 モリコが空中に浮かびながら腕を組み、タイヘイに尋ねる。
「ひょっとして……あなた、『超人』?」
「は?」
「それならばその怪力も説明が付くわ……でもそれなら、三兄弟に喰らわせた石頭は一体どういうこと? まさか天然?」
「何を訳の分からないことを言っていやがる! 降りてこい!」
 モリコはタイヘイの言葉を鼻で笑う。
「はっ、降りるわけがないでしょう。怪力自慢とまともにやり合う気はないわ」
「そうか……よ!」
「えっ⁉」
 タイヘイが足裏から火を噴き出して、モリコの高さに到達する。
「どうだ、これでもう見下せねえな!」
「高さを保っている……? 超人は人並み外れた能力は一つくらいしか体得出来ないはず……ほ、本当にどういうこと?」
「面食らっている暇あんのかよ!」
「むっ⁉」
 タイヘイが足裏から火をさらに噴き出し、モリコに向かって突っ込む。
「行くぞ!」
「ちっ!」
「のわっ⁉」
 モリコが翼をはためかせ、強風を起こして、タイヘイを後退させる。
「き、気安く接近させるわけがないでしょうが……」
「ぐっ……な、なんて圧だ、さっきの連中とは違う……」
「当たり前でしょう! リーダー的存在をあんまり舐めないでちょうだい!」
「どわっ⁉」
 モリコがさらに高速で翼をはためかせ、より強い風を起こし、タイヘイを後方に吹っ飛ばす。モリコは笑みを浮かべる。
「はん……私が本気を出せばざっとこんなものよ……」
「そ、その翼が厄介だな……」
「ん?」
「まずそれを黙らせないと話にならないな……」
「そうね、接近すらままならないものね」
「ああ、よって……」
「よって?」
「その翼を黙らせる!」
 タイヘイはビシっとモリコの黒い翼を指差す。モリコが首を傾げる。
「はあ?」
「悪いがそのご自慢の翼、無力化させてもらうぜ」 
「出来るものならやってみなさいよ、出来るものならね!」
「ああ、やってやるよ!」
 タイヘイの両手が鋭い鎌のような形状に変化する。モリコが驚く。
「なにっ⁉」
「行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待った!」
「待たねえよ!」
「マ、マズい……!」
 危険を察知したモリコが慌てて回避行動を取ろうとする。
「逃がさねえよ!」
「ぐっ⁉」
 タイヘイが両手を振るうと、風の斬撃が飛び、モリコの黒い翼を傷つける。モリコはバランスを崩し、空中でよろめく。
「もらった!」
 タイヘイがモリコとの距離を詰める。モリコが呟く。
「な、なによ、その斬撃は……?」
「これは俺に受け継がれる妖の……『かまいたち』の力だ」
「はあ⁉ あ、妖の力? そ、そんなのあり?」
「これで決まりだ! おらあっ!」
 タイヘイがモリコの頭に頭突きを喰らわせる。
「ぐふっ! ……」
 空中から地面に叩き落とされたモリコが動かなくなる。タイヘイが額をさする。
「ふう……」
「……はっ!」
 モリコが目を覚ます。
「モリコさん!」
「シロー……」
「良かった……」
「ジロー……」
「目を覚まさないかと……」
「サブロー……」
 横たわっているモリコを三兄弟たちが取り囲む。
「……ほんのちょっとで目を覚ますとは、さすがだな」
「あ、あなた⁉」
 モリコはガバっと半身を起こしてタイヘイのことを睨みつける。タイヘイが笑いながら肩をすくめる。
「はっ、闘争心も失っていないってわけか……」
「ええ、むしろ燃えてきたわ……くっ!」
 モリコが自分の胸を抑える。
「だ、大丈夫ですか⁉」
 シローが心配そうに尋ねる。
「だ、大丈夫よ……」
「やっぱりもうちょっと休んでいた方が……」
「へ、平気だから……」
 モリコがジローに応える。
「いつも抱いて眠っているぬいぐるみ持ってきますか⁉」
「そ、それには及ばないわ……って、な、なんでそんなこと知っているのよ⁉」
 サブローの提案にモリコが驚く。
「マジで元気そうだな……」
 タイヘイが感心する。
「そ、そうよ、これで勝ったと思わないでくれる?」
「……モリコ」
「よ、呼び捨て⁉」
「お前よりは良いだろうが」
「ま、まあ、そうね……そうかしら?」
 モリコが首を傾げる。
「モリコはあれか? その黒い翼……」
「ふっ、なかなか鋭いわね、そうよ……」
「カラスの人鳥か」
「ち、違うわよ!」
「違うのか?」
コウモリよ!」
「コウモリ⁉」
 タイヘイが驚く。
「そんなに驚くことじゃないでしょう⁉」
「まったく予想だにしなかった……」
「逆さまで木の枝にぶら下がっている時点で分かるでしょう!」
「そ、そうか、コウモリか……」
「そうよ、この島の空の支配者よ」
「支配者とは大きく出たな」
「いいじゃないのよ!」
「そうだ、モリコさんは偉大なんだぞ!」
「良いこというじゃない、シロー……」
「その翼の美しさは他の追随を許さない!」
「照れるわね、ジロー……」
「この鳥なき島の女王だ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい、サブロ―!」
「え?」
「え?じゃないわよ。『鳥なき島の蝙蝠』って言いたいわけ?」
「は、はい……」
「それって、見下している言い方じゃないのよ!」
「ええっ⁉ そうなんですか⁉」
「そうなのよ!」
「ヤバい……」
「……なにがヤバいのよ?」
「いや、かっこいいと思って、あちこちで言いふらしていたんですけど……」
「あちこちってどこよ⁉」
「えっと、この辺一帯に……」
「一帯に⁉」
「あ、俺も……」
「シロー⁉」
「お、俺もです……」
「ジローまで⁉」
「す、すみません!」
 サブローが頭を下げる。モリコが頭を抱える。
「私のリーダー的存在の威厳が……」
「まあ良いじゃねえか、そんなことは」
「良くないわよ!」
 モリコがタイヘイに向かって声を上げる。タイヘイが頭を下げる。
「わ、悪い……」
「素直に謝るのね……なんだか調子が狂うわ。大体、あなたは何なの?」
「ん? 俺はタイヘイだ」
「名前を聞いているんじゃないの? 超人だと思ったらむちゃくちゃ怪力だし、空は飛ぶし、おまけに風の斬撃まで操るときた……どういうことよ?」
「俺は……人と獣のハーフと妖と機のハーフの間に生まれたようだ……」
「ええっ⁉」
「なんて言えばいいのか……妖の、かまいたちのクオーターとも言えるのかな」
 タイヘイが腕を組んで、首を傾げる。モリコが呟く。
「そ、そんな存在が実在するというの……?」
「ここにいるだろう」
 タイヘイが自らの胸を右手の親指で指差す。モリコが絶句する。
「し、信じられない……」
「まあ、そんなことはいい……それよりもモリコ」
「な、なによ……」
「俺の仲間になれ」
「仲間?」
「ああ、リーダー的存在のモリコが仲間になってくれれば、この辺の腕の立つ連中が皆、俺に協力してくれるようになるだろう?」
「な、何をするつもりなの……?」
「俺はこの四国という島に、もう一つ国を造る。はみだし者たちの国をな」
「⁉」
「どうだ?」
「さっき胸がチクっとしたのは痛みじゃなくて高鳴りだった……?」
「モリコさん?」
「闘争心ではなく、違う心に火が点いたということ……?」
「何をぶつぶつ言っているんです?」
「……この『黒き翼のモリコ』、タイヘイ殿に喜んで協力させて頂きます」
「モ、モリコさん⁉」
 モリコが三つ指をついてタイヘイに頭を下げる。サブローたちが驚く。
「決まりだな」
 タイヘイが笑みを浮かべる。

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